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七話


 翌日。



 本日は日中に予定があり、探窟家業はお休みである。

 

 高嶺がいる現在地は天神区の繁華街。

 辺りには人通りも多く、お洒落な雰囲気のお店が目につく。

 高嶺も普段着ている丈夫さが取り柄の簡素な衣服とは異なり、手持ちの中では比較的小綺麗な格好をしていた。


 時間は間もなく中天。


 高嶺は天神区には探協に行くばかりで繁華街にはあまり足を運ばないために地理には慣れてない。

 そのため、繁華街にある目的地の場所に不安があったので、かなり早く家を出てはいたのだが見事に迷っていた。


 人混みの中で、きょろきょろ、おろおろと辺りを見回す背が低い童顔の高嶺の姿は、まるで母親からはぐれた幼子の様である。


 その時――


「せんぱ〜い。こっちですよ!!た〜か〜せんぱ〜い」


 明るく聞き慣れた声が、人混みで迷っていた高嶺の耳に入る。


 自分の名を呼ぶ声の方に視線を向ければ、その場でぴょんぴょんと跳ね、大きく手を振る少女の姿があった。

 姓は綾、名は霞。

 昨夜『探窟さんいらっしゃいませ』に出演していた、ふわりと弾む赤のおかっぱと偉大なる双丘の持ち主である。


 その霞は薄紅色のお洒落な袴姿だ。


 偉大なる双丘は腰に巻かれた布で分からなくなっているが、鮮やかな赤の髪に映える白い造花飾りが見事に映え、本人の魅力を最大限に引き出す自然なお化粧と鮮やかで艶やかな姿に街を歩く男性の視線を引きつけている。


 

「ごめんね。霞ちゃん。お店わかんなくて迷っちゃた」

「大丈夫ですよ。待ち合わせの時間はまだですから。でもみんな集まったから、待ち切れなくて探しにきちゃいました」


 強気な印象を与える大きなつり目が、楽しくて仕方がないとばかりに閉じられ、三日月のようなほほ笑む光沢のある唇からぺろりと舌を出す。

 今にも駆け出さんとばかりに体を揺すっている。


「迎えに来てくれてありがとう。助かったよ。でも今日の主役なんだから、落ち着いてね」

「みんなで集まるの久しぶりだから、楽しみなんですよ」


 えへへと笑うご機嫌な霞と共に目的地へと向かう。

 小道に入り少し歩き到着したのは、白を基調としたお洒落な喫茶店である。


 その喫茶店の手入れされた芝生と鮮やかな花々に囲まれた見事な庭園の屋外席に参加者が集まっていた。




「「「「卒業おめでと〜!!」」」」 


 庭園に朗らかな祝福の声が響く。


 みんなありがとうと照れながら満面の笑みを浮かべてあるのは霞。


 同じくありがとうございますと真面目な表情で返事をするのは洋風正装に丸眼鏡を掛けた少年、名前は嬉野(うれしの)轟太郎(ごうたろう)。背は高いが、線は少し細い。きちんと刈り上げた黒髪にしゃんと伸ばした背筋が性格を表している。しかし、ぱっと見には落ち着いた顔をしてはいるが頬と耳がほんのり赤く、口元は笑み溢れるのん堪えているのが分かる。


 二人とも年齢は高嶺より年齢は上になる。霞は十六歳、轟太郎は十七歳だ。

 

 空は快晴。

 柔らかな日差しに、微かに感じる優しい風。

 今日は『呂々之木探窟専門学校 福岡校』を先日卒業した二人、霞と轟太郎をお祝いする為に仲の良かった人間で集まったのである。



そんな彼等を祝うのが歳下先輩卒業生の高嶺。

そして

「本当に二人とも卒業おめでとう」

ほほ笑み、声を掛けているのが、去年首席で卒業して大手探窟企業に就職した高嶺の同期の華。


歳は十八。長い足に均整のとれた体躯。艶のある亜麻色の髪がさらさらと揺れる。そして何より目立つのが、甘く恐ろしい程に端正な顔立ち。振り向く女性は数知れず。恋する女性は星の数。学校でも幾つもの逸話を残しているのが、波佐見(はさみ)(あおい)である。


それと――

「はっ。卒業はめでてえが、大事なのはこっからよ」

と憎まれ口を叩くのが由布(ゆふ)龍昇(りゅうしょう)だ。いつも眉間に皺を寄せ、三白眼で鋭い目つきにぼさぼさの黒髪。組んだ腕には鍛え抜かれた筋肉。屈強な身体は就職した鉱物採掘系の探窟会社で日々振る戦闘鶴嘴(つるはし)の影響であろう。


高嶺と葵、龍昇。一見共通点のあまりない三人であったが、ある切っ掛けから自然と話す間からとなり、今では親友と呼べる間からだ。(龍昇は認めたがらないが)

 そこに巻き込まれる様に葵と轟太郎が加わった。

 在校中は何かと問題を起こした五人である。


 そして最後の参加者。

 ある意味五人に一番振り回された人物。

 歳は二八歳で肩に掛かる長髪と特徴的な細い糸目。その糸目を更に細め笑顔で五人を見守るのが彼等の恩師であり、探窟学部教諭の肝付(きもつき)雄泉(ゆうせん)だ。普段は温厚で笑みを絶やさないが、高嶺達は怒らせた際の恐ろしさを十分に知っている。



「これは僕達三人からだよ」


 卒業した二人に高嶺、葵、龍昇で費用を出し合って購入した贈り物を渡す。


「皆、ありがとう!」

「先輩方。ありがとうございます」


と嬉しそうに綺麗に包装された贈り物を受け取る二人。


 「開けてもいいですか!?」


と激しく振られる尻尾が幻視できそうな霞に、どうぞと応えると、二人が丁寧に包みをはがす。


 中から現れた箱の蓋を取れば、光沢のある淡緑色の腕環(うでわ)が顔を出した。


「わ〜。つけてもいいですか!いいですか!!」


 と返事を聞く間もなく、探窟家組合員証の腕輪とは逆の左腕に装着した霞が、その手を天に掲げ、その場でくるくると回っている。轟太郎も装着して感触を確認している。


 福岡では知る人ぞ知る装具装飾(そうぐそうしょく)錺屋(かざりや)四代目八女亭茶太郎兼続作の腕輪だ。

 探窟家組合証と同系統の他の装備に干渉しない軟柔鉄と他合金製。派手さは無いが全体は落ち着いた色合いの淡緑に萌える新芽の彫刻と、はめ込まれているのは加工された青磁色の霊石。

 そしてその効能には微弱ながらも全状態異常への抵抗・軽減・回復促進。怪我の悪化軽減・治癒促進。と盛り沢山だ。


 それなりの金額はするが中堅以上の探窟家に人気の確かな一品である。


 そして何より、

「これって!!!これって、先輩達がつけてるのと同じ腕輪じゃないですか!?」


 今日一番の興奮具合を見せる霞が顔を紅潮させ左手を掲げたまま質問してくる。


「うん。実はそうなんだよ」


と高嶺と葵は少し腕をあげて、左手につけた同じ腕輪を見せ、龍昇は組んでいた腕を少し動かし、ふんと前腕に力をこめて筋肉を膨張させながら腕輪をちらりと見せる。


 昨年卒業時、記念に三人で購入したものだ。

 そして今回、贈り物として同型の腕輪を準備していた。


「わ〜!!わ〜!!」

「ありがとうございます。大事にします!」


と二人の表情を見れば喜んでもらえたようであった。



 その後は美味しい料理に舌鼓を打ち、懐かしき思い出話に花を咲かせる。

 

 そして当然あの番組へと話題が及んだ。


 霞が出ていた『探窟さんいらっしゃいませ』である。


 




本日のあしたん辞典


天神区の繁華街 高嶺が良く行き雑多な飲食店街とお洒落な飲食店が多い区画に別れている。他にも探窟関連のお店が多い区画など様々。


呂々之木探窟専門学校 福岡校  探窟学部には探窟学科や探窟事務学科、その他にも探窟に関わる様々な学科がある。生徒数も多く、建物も福岡探協に次いで巨大。基本二年制。ちなみに探協就職学科は超難関で三年制。



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