10000の死を超えて
俺はあれからどのくらいの死を繰り返したのだろうか…ウィンドウに記録されている死亡回数を見てみる…10525回…今回が10526周目となる…25周目の時、俺は澄玲と共に業火の龍討伐に成功した。俺は初めて第二の試練を乗り越えられ、涙を流してした。だが試練は終わっていない。第三の試練は速雨の試練、上空から大量の雨が降ってくる、それは普通の雨ではない。当たれば体を貫通し、建造物すらも貫通する。俺は、対策のために鋼鉄の体と頑丈、物理耐性のスキルを取った。それから2000周以上、第三の試練は三日三晩続き、ほとんどの人間は限界だった。そこから第四の試練、心傷の試練が始まる。そこでは今までのトラウマと対峙することになる。トラウマに負け、少しでも負の感情を抱いた瞬間、心臓が破裂し死亡する。この試練は今までと違い協力することができない…そして俺との相性が1番悪い。そこまでの2000周程度で俺は大量の記憶と大量の絶望を持っていた。結果、誰よりも濃い絶望を思い知ることになった。俺は、精神異常耐性、冷静、冷徹、氷の心を取得した。そこまでで周回回数は7000を超えていた。それほどまでにきつかった。そして、第五の試練、戦略の試練では他国との対決になる。外国人と、戦争しなければならない。外国では日本で行われた試練とは別のものが行われていたらしく、所持しているスキルには結構なばらつきがあった。そのせいでスキル選びはかなり大変だ。そして、俺はいまだに第五の試練をクリアできずにいた。原因はいくつかある。一つは敗北条件だ。敗北条件は全滅だけではない。もう一つ、現在生き残っているその国の者、半数以上が敗北を宣言した場合だ。これを行われると、敗北を宣言していない者たちは即座に死亡、敗北宣言をした者は勝利した国の奴隷となる。これのせいでかなりきつい。それとは別でクリアできない原因がある。というかこれが1番の原因だ。それはアメリカのマリアと呼ばれている女性だ。マリアとはまだ戦っていないが、相当強いらしい。それにより敗北宣言をする奴が多い。
だから俺は自分で自国の人間を殺していた。敗北を宣言するような奴はいるだけ邪魔、俺の害になるなら敵も同然だ。俺は今や世界最強と言っても過言ではないスキル構成になっていた。
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《スキル:全知》Lv20(LvMAX)
《スキル:熱無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:炎無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:冷氷無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:雷無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:神速》Lv20(LvMAX)
《スキル:心身支配》Lv20(LvMAX)
《スキル:共有》Lv20(LvMAX)
《スキル:不動の心》Lv20(LvMAX)
《スキル:物理無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:精神汚染無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:強靭な肉体》Lv20(LvMAX)
《特殊スキル:恐怖無効》Lv20(LvMAX)
《特殊スキル:痛覚無効》Lv20(LvMAX)
《スキル:タイムリープ》Lv1(LvMAX)
スキルポイント:6534
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もうなんでもありだ。精神攻撃は効かない、物理攻撃も効かない。足の速さは化け物級、デコピン1発で人間の頭を破裂させられる。炎も氷も雷も効かない、敵味方関係なくスキルや五感の情報を共有できる。触れれば心身を支配できる、そして、何より強いのは全知だ。知覚強化の最終形態、全知は全てを感じとれる。次繰り出される攻撃、相手の考え、味方の状況、敵意、その他全てを感じ取れる。だがここまでしても完璧では無い。その原因はアメリカのマリア、韓国のチェホン、中国のジョフェ、この3人の特殊スキルだ。まず、特殊スキルはウィンドウでの購入が出来ない。俺の恐怖無効と痛覚無効は俺固有のスキルと言うことだ。マリアの特殊スキルである《特殊スキル:パーフェクトヒール》はありとあらゆる負傷と状態異常を回復させる。まるでゾンビかのように敵が復活してくる。流石に死者蘇生はできないし体力も回復しないらしいが、それでもかなり凶悪だ。チェホンの特殊スキルは《特殊スキル:倍々》、ありとあらゆる数値を倍々に出来る。最大は512倍まで確認されている。握力、腕力などの力から体重身長などの見た目に反映されることまで倍々に出来る。ジョフェの特殊スキルは《特殊スキル:心象空間》、近くにいる人間を己の心象空間に入れることが出来る。その時、敵も味方も己自身も気絶をする。だが、負傷をすることはない。そして、心象空間では互いの攻撃が不可となる。他の2人と比べると戦闘面には向いていないが話し合いではかなり強い。今回の第五の試練では、この3人の攻略が必須だ。だが、特殊スキルへの対策というのはなかなか難しい。特殊スキルは通常スキルで直接的な対策は不可能だ。例えば今の俺についている恐怖無効は死への恐怖や己に害のある行為への恐怖を無効化している。だが、第四の試練のように恐怖無効や恐怖耐性のレベルが低い時の記憶などを無理矢理呼び起こされれば恐怖無効を貫通してしまう。この場合、恐怖を与えるために記憶を呼び起こしたということになるのだが、言ってしまえば記憶を呼び起こすのがメイン、恐怖を与えるのはサブだ。これがもし恐怖する記憶に書き換えるなどなら効かなかった可能性もある。つまり、特殊スキルは正面突破はほぼほぼ不可能だ。何かしらの搦手や二次影響を使うしかない。
「さて、どうするか…」
「なに?またなんか悩んでるの?」
「澄玲か…日本人の大半は殺した。これで一つ目の過半数以上の敗北宣言は現実味を帯びなくなった」
「そうだね」
「問題はこのあとだ。どうやって敵を倒すか」
「雪は強いんだし、いけるんじゃないの?」
「お前なぁ…」
「いざとなれば、周回すればいい」
この周回の澄玲は俺が周回者であることを言っている。もちろん動きづらくなったりもしたが、それ以上に理解者がいるのは救われる部分がある。だから7500周回以降は澄玲に俺が周回者であることを言っている。もちろんパーティーは組んでるし、ステータスも知っている。澄玲も特殊スキルである《特殊スキル:不可視》を手に入れた。不可視はその名の通り、全ての探知から見つからない。かなり澄玲向きのスキルだ。
「周回は最終手段だ。それに…もうお前が悲しむところを見たくない。」
「…」
俺が澄玲に周回を伝え始めて3000周が経過しているが、そのうち2000週は俺が澄玲を庇って死亡している。その時、毎回澄玲の悲しむ姿を見ることになってしまっている。だからもう澄玲を悲しませたくない…かと言って庇わないわけでもない。俺は澄玲に恋をしている。澄玲にはかなり心を許しているし、信頼してしまっている。俺の弱点と言ってもいいだろう。
「まあ、まずはマリアを仲間に入れるところからだな。」
「てことは、アメリカを敵に回すってこと?」
「結果的にはそうなるだろうな。もし、仲間にするのが難しそうだったら殲滅も考えている」
「相手は無限に回復してくるバケモノなんでしょ?」
「あぁ…」
パーフェクトヒールは自分自身すらも回復させることができる。しかも特殊スキルは使用による疲労増加や疲労による弱体化は存在しない。故にどれだけ殺そうとしても一撃で仕留めなければ一生復活してくるだろう。
「そのために必要なスキルを今から買うんだよ。」
「なんなの?」
「心傷増加」
「なんとなくわかった。」
《スキル:心傷増加》は精神汚染系統のスキルで相手の1番心に傷を負った記憶を蘇らせるスキル。スキルポイントのおかげですんなりLvMAXまで上げられた。スキルポイントはスキルがなんらかの理由で被った際に手に入るポイントで、俺の場合、周回するたびにスキルポイントをもらっている。スキルポイントを使うと無条件でスキルのレベルを上げられる。だが、ランクによって必要ポイントが変わるため俺のようにSランクスキルを何個もLvMAXにまで上げるのは普通の人間には中々厳しいだろう。
「まあ、どうせ精神汚染耐性ぐらい持ってるだろうがな…」
「そうだろうね。弱点すぎるし、国によって試練が違うとは言っても精神汚染系の試練はありそうだし」
「まあ、ケイリのイメージからしてその線はあり得そうだな。どうしたものか…」
「まあ、一旦は話にいってそこから決めてもいいかもね。」
「そうだな。確かアメリカは船で福島あたりに上陸してくるはずだ。」
「待って…船?本当なの?」
「あぁ、船で来ているらしい」
「そんなの攻撃系スキルで一網打尽じゃないの?」
「それが防御系統に極振りしている奴がいるらしくてな。魔法系統や操作系統、精神汚染のスキルすら反応しないらしい。なのに相手からは攻撃できるというクソ仕様だ」
「それって詰んでない?」
「大丈夫だ。物理攻撃で防御を壊した例が今までの周回で存在している。多分超火力で防御スキルを押し切ったか、なんらかの穴をついたかだろうな…」
「私たちはどうするの?」
「全力でぶん殴ってぶっ壊す」
「脳筋…まあ、そういうのも悪くないけど」
「俺の神速と澄玲の神体拳があればなんとかなるだろう」
「うん」
《スキル:神体拳》は肉体強化の最終進化で、その一撃は神速の速度すら超える。ただ使用時の疲労値の溜まる速度は速く、かつ解除後は激痛が襲うというデメリット付きだ。だがそんなデメリット付きでも最強と言えるだろう。俺も取りたいのだがスキルポイントは無駄遣いを避けたいのと、既に強靭な肉体で肉体強化の進化を終えていることもあって再び肉体強化を取るか迷っている。痛覚無効があるため取っても問題はないのだが…
「あまり痛みは好きじゃないからすぐ終わったらいいなぁ…」
「まあ我慢してくれ。次の周回の時に助けてやるから」
「それ、今回の私にはあんまり関係なくない?」
「じゃあ、これで生き残ったらお前の言うことを1つだけなんでも聞いてやるよ」
「!!言質取ったからね!絶対に超きついことやらせる」
「はいはい…それじゃあいくか」
「うん」
そして俺たちは福島に向かったのだった