最短
第一の試練、ここで重要なのはまずは海斗の殺害だ。海斗のスキルは操作(小)であり、ランクはDだ。操作できるものは小物に限られるが銃の弾丸の軌道を微調整したりなどができるため結構凶悪だ。性格的にも第二の試練で邪魔になることが多い。次に澄玲を仲間にすることだ。澄玲のスキルは身体強化で、ありとあらゆる身体能力が向上している。元殺し屋ということもあって仲間に入れておきたい人材だ。敵に回られると困る。最後に澄玲に大量の時間を稼いでもらうことだ。第二の試練のモンスターを倒すとコインがもらえるがそれは500程度。中心に近づけばもらえるコインも増えるが強さも増す。故にここで大量のコインを獲得しなければスキルのレベル上げがかなりきつくなるのだ。この三つを24時間でこなさなければならない。
・・・
ウィンドウが現れた瞬間、俺は全速力で海斗のいる方向に走る。邪魔な人間は全員殺していく。そして海斗のそばに着くまでにそんな時間はかからない。迅速を使えば通常の人間ではとらえることができない速さで動けるのだ。そしてその流れに任せて俺は海斗の喉に手刀を繰り出す。それはクリーンヒットし、海斗は数秒呼吸ができなくなっていた。それを逃さずに俺は足に迅速を乗せ倒れこんだ海斗の心臓めがけて足を振り下ろす。瞬間鈍い音とともに大量の血がふさんする。海斗は完全に死んだ。俺は次の目的地に走る。そして澄玲をものの数分で見つけ出す。俺は迅速を解き軽く蹴りを放つ。澄玲は殺し屋だ。もちろん一般人程度の筋力しかない俺の蹴りなんて余裕で避けると予想していた。
「あなたは誰?」
このセリフも何度目だろうか。何回も聞いたセリフ。これを聞くたびに虚しくなる。本当に繰り返しているのは自分だけなんだなと再認識させられる。
「俺は柳雪だ。川上澄玲だな?」
「なんで名前を知っているのかしら?」
「そんなこと、この状況ではどうでもいいことだろう?」
澄玲は不満そうな顔をしながらも俺の動きを見続ける。警戒しているのがまるわかりだ。かくいう俺も知覚者を使ってずっと動きを確認している。いつ襲われてもおかしくない。ライオンの目の前にいるように感じるほどの緊張感。だが恐怖耐性のおかげで澄玲に対する恐怖はない。失敗したらやり直し、それが嫌だからこの一回に全力を出している。故の緊張。そして澄玲は俺に質問を飛ばしてくる。
「何が目的?」
「当然の質問だな。俺はお前に仲間になってほしい。だから来た。」
「なんで私があなたの仲間にならないといけないわけ?」
「この地獄で生き残るためにはチームが必須だ。だから殺し屋の君を仲間に引き入れたい。当然の願いだと思わないか?」
「何故殺し屋だってことを知っているのかはこの際いいわ。でも私がそう簡単に仲間になるとでも?」
これも知っている。この後攻撃してくることも知っている。だがその攻撃は、当たらない。澄玲はものすごいスピードの蹴りを放ってきた。俺はそれを軽々避ける。身体能力は一般人でも、スキルがあるだけで人智を超越できる。知覚者があれば少し先の未来までなら見える。相手の筋肉の動き、目線、心臓の鼓動、相手の思考すらも知覚者があれば読み取ってしまう。この戦いに澄玲の勝ちはすでにない。
「攻撃は当たらない。お前には選択肢はない。」
俺は足に力を入れて迅速のスキルを発動させ、一瞬で澄玲の後ろに立ち、澄玲の首に移動中に手に入れたナイフを当てる。
「さあ、どうする?ここで死ぬか、仲間になるか。二つに一つだ。」
過去にこの質問をした回は存在しない。前までは避けきって澄玲を納得させる手段を取っていた。だがそれだと澄玲のコイン稼ぎができなくなる。だから早めに仲間にするしかないのだ。これは賭けでもある。死を選ばれたら俺は殺すしかなくなってしまう。殺さなければ舐められる可能性が高いからだ。
『どうでる?』
「私は・・・」
澄玲は一呼吸置き答える。
「強者以外にはつかない。」
「そうかよ!」
『なんとなくわかっていたが…やはりか』
澄玲は前回にも似たようなことを聞いたことがあった。
【前回】
「雪、そっち終わった?」
「ああ、終わった。どれぐらい稼いだ?」
「10000…そんな稼げなかった。」
「そうか…じゃあ、そろそろ移動するぞ。そろそろ5分だ。業火の龍の攻撃が飛んでくる。」
「わかった…」
「そうだ。なんでお前は俺についてくれたんだ?」
「私は強者にしかつかない。そしてあなたは私より強い。それだけ」
「ふーん…なるほどな」
「聞いといてその反応はゴミだと思う。」
・・・
【現在】
「じゃあボコしてやるよ。クソ天才野郎が」
最初に動いたのは俺、通常なら俺が迅速を使った時点で勝ち確…だがこいつに対してはそうはいかない。
「ッチ!」
俺は後ろに跳び距離を離す。
「どうした?謎多き脅し屋」
「マジで天才だな…」
俺の足には無数の針が刺さっていた。よく見ると澄玲を囲むように設置されている。いつから設置したのかすら分からない…
『俺にはスキルがあるってのに…いや、違う。澄玲は身体能力の関係ない戦いをしているんだ。俺がいくら強くても関係ない戦い方…』
きっと俺に勝つならそんな戦い方じゃなきゃ今の人類では勝てないだろう…だがそれはスキルが迅速のみだった場合だ。
「その程度…避けられないとでも?」
『知覚者と迅速を組み合わせれば余裕で距離を縮められる!』
「そんなことは思っていない。」
澄玲はそういうとどこからともなく手榴弾を投げてくる。
「マジで天才だな!おい!」
手榴弾はすでにピンを抜かれている。いつ抜いたのかすら分からない。知覚者Lv9でも感知できないレベルのテクニック。俺は手榴弾を避けるように立ち回る。そして数秒の静寂、一向に手榴弾は爆発しない。俺が手榴弾の方に目が言った瞬間、風を切る音が聞こえた。俺はすぐにそれを避ける。
「これも避けれるんだ…どうやって当てようかな」
「簡単に当てられると思うなよ。」