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番外編 元勇者の後悔

 床に伏して数年。


 私の命も残りわずかだ。

 今年の冬は越せない。

 そんな気がする。


 友人の近衛騎士団団長は「気のせいだ」「病のせいで弱気になっているだけだ」と励ましてくれるが、余命いくばくもないことは間違いない。

 今朝は特に具合が悪かった。

 寝台から起き上がることもできない。

 咳も酷くなる一方だ。


 私の病状を主治医から聞いたのか、家族が寝室に入って来た。

 妻である王妃。

 五人の王子たち。


 ……家族か。

 果たして家族といえるのだろうか。


 私に毒を盛ったのがこの家族の誰かだというのに?


 涙を堪える妻は美しい。

 けれど口元は歪んでいた。


 王子たちもだ。

 後継者を指名しなかったせいか、長男は恨みがましい表情で睨みつけ、次男は媚びる目で私を見ている。下の三人は私を見ようともしない。



 息子たちが幼い頃はよかった。

 彼らも私を父親として慕ってくれていた。


 いつごろからだろうか。

 息子たちがよそよそしくなったのは……。


 私に似ても似つかない息子たち。


 美しいが脆弱な力しかない息子たち。

 王子なのだ。

 力がなくても良いのかもしれない。

 もっとも『勇者の息子』としては失格だった。


 アレでは魔獣と戦うことはできない。

 アレでは指揮官にもなれない。


 この国の脆弱な軍隊と同じだ。

 今はいい。

 私の仲間たちがこの国を守ってくれている。


 だが、いつまでもつ?


 年々、力が弱くなってきていた。

 それは私だけではない筈だ。



 魔王を倒して世界は平和になった。


 それは本当だ。

 取りこぼした魔獣はすぐに滅びると誰もが思っただろう。

 まさか……あれほど強くなるとは。




 ゴホゴホゴホッ。


 大きく咳き込む。


「父上!」


 息子たちが集まってくる。


「父上!今からでも遅くありません!私を次の王にすると仰ってください!!」


「兄上!卑怯ですよ!」


「なにが卑怯だ!第一王子の私が王になるのは当然だろう!!」


「王子は他にもいます!長男だからといって王になれるわけではありません!!」


「黙れ!!!」


「いいえ!黙りません!」


「なら貴様が王になるとでもいう気か!?」


「少なくとも兄上よりかは玉座に相応しいと自負しております!」


 醜い兄弟げんかが勃発した。

 我が息子ながら恥ずかしい。


『王太子を第一王子に』


『五人も王子がいるのです。誰を後継者に指名しても問題ございません』


 かつてそう言った大臣がいた。

 そういう問題ではない。

 先代国王との約束がある。

 私はその約束を守っているにすぎない。



 ……思い出すたびに胸が痛い。

 体のだるさと胸の痛みが過去を思いださせる。


「国王陛下!!お気を確かに!!」


 咳に混ざって吐血した。

 ああ、もう限界が近い。


 死んだらどうなるのだろうか。

 私は天国に行けるだろうか?

 天国には最初の妻がいる。

 彼女は私を待ってくれているだろうか?


 魔王を倒す旅は三年かかった。

 その間に妻は死んだ。

 病死だったと聞いた。


 失意のどん底にいた私を支えてくれたのは旅の仲間たちだった。

 彼らの支えで立ち直れた。


 先代国王は「王女と結婚してはどうか」と打診してくれた。

 いい話だと皆は思っただろう。

 私もそう思う。


 王は言った。


「勇者と聖女の子供なら、きっと優れた為政者になるだろう。いや、為政者でなくてもいい。素晴らしい剣士になれる。優れた才能を持つ子が生まれるはずだ」と。



 王女と結婚した翌年に国王が崩御し、私は新国王に就いた。


 王妃になった妻。

 彼女は五人も息子を産んでくれた。

 ありがたい。

 うれしい。


 ただ、勇者としての力は一向に目覚めなかった。

 それだけが残念でならない。


 約束なのだ。

 先代国王との。


 だから仕方がないのだ。


 すまない。

 私は義父と約束をした。


『勇者の血を引く者を次の王にする』と。


 魔法契約に基づいてのもの。

 誰にも覆せない。


 知っていた。

 王妃が私を裏切っていたことを。

 息子は誰一人として私の血を引いていないことを。


 ゴホゴホゴホッ。


 また咳き込んだ。

 苦しい。


「父上!!」


「国王陛下!!」


「誰か!早く医師を呼べ!!」


 家族たちが騒ぐ。

 ああ、もう駄目だ。

 私は死ぬ。

 目を開けていられない。

 

 ようやく死ねる。

 

 そうか。

 私は死にたかったんだ。

 ずっと昔から。

 


 ――――のよ……。


 声がする。

 幻聴か?


 ――――英雄になる必要なんてないの。


 懐かしい声だ。

 誰だったか。

 女性の柔らかな声。

 王妃とは違う。優しい声。


 ――――無事に帰って来てくれたらそれでいいの。

 

 私を……俺を心配している。

 俺を心から想ってくれている人の言葉だ。

 

 ――――いってらっしゃい。


 そうだ。

 最後の日もそうやって送り出してくれた。

 


「――――、ただいま……」


 ――――おかえりなさい。


 最初の妻が迎えにきてくれた気がした。

 やっと眠れる。






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― 新着の感想 ―
勇者、あまりに可哀想。亡くなってから、義父に騙されていた事を知るんだね。悲劇だ。
必死に戦って世界を救ったと思ったら、妻は死んだと聞きました。 失意の中、聖女と政略結婚したと思ったら性女でした。 あの世で前妻に会えると思ったらまだ死んでなくて、じゃあとあの世で待ってたら別の男が隣り…
元妻を亡き者にして担ぎ上げられ、性女を妻に迎えたのが運のつき。 滅びるべくして滅びた国だし全く同情出来んわな。
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