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4.元勇者の死

「グレイ」


「……何か用か、ハンス」


 ざわつくギルド内。俺の周囲に人が寄ってくる気配はない。珍しいこともあるもんだと思ったところで、背後から聞き慣れた声がした。振り返るとハンスがいた。


「ちょっといいか?」


 ギルド内だから声は控えめだ。


「ああ、構わないぜ。新しい依頼か?」


「まあ、そんなところだ。……場所を変えるぞ」


 ハンスの後ろを黙ってついていく。

 ギルドの中にはギルドマスター専用の部屋がいくつかある。

 俺達が入ったのは一番奥にある部屋だった。ここは滅多に使われない部屋だ。

 さて、これは一体どういう厄介事に巻き込まれることになるんだ? とりあえず覚悟しておくとするか。






 ハンスは俺の真正面にドカッと座った。俺はいつもの通り向かいの席に腰を下ろす。


「……で、一体何の用だ?」


「ああ……。元勇者のブレイ国王が危篤だ。今日明日の命……というわけではないが。かなり危ないらしい。……それで、だ。グレイ、お前は勇者の国に行く気はないか?」


「は?」


 一体何を言い出すのかと思った。

 まさかハンスの口から『ブレイ国王』の名前と危篤の情報を聞くとは思わなかった。


「グレイ。俺は、お前の父親が誰なのかを知っている」


「だろうな」


「お前の能力が彼奴に似ているからっていうのを抜きにしてもな。……ブレイと親しい奴なら、お前がブレイの息子だってことは直ぐにわかる。ああ、言っておくが、親しい人間の部類に勇者パーティー一行は入っていないからな」


「……」


「お前は自分が思っている以上に父親に似ているのさ」


「……ハンスは勇者と親しかったのか?」


「ああ、幼馴染だ」


「はあ!?」


 俺は思わず大声を出してしまった。


「なんだ、その反応は」


 いや、驚くだろう。


「いや、だって……今までそんな素振りは一度だって見せたことがなかったじゃないか!」



「当たり前だろ。俺は十五歳そこそこで村を出たんだ。ブレイが勇者に選ばれたのはその数年後だ」


「ああ、そう……」


「ブレイとは故郷の村が一緒でな。お前の母親とも幼馴染だ」


「母さんとも……」


「俺は昔から冒険者になるって決めてたからな。村や国を出ることに抵抗はなかった。……まさか、ブレイが勇者になるとは思わなかったがな」


 ハンスの目に暗い影が落ちる。

 俺は思わず息を飲んだ。


「ブレイの奴はな、強い癖に弱い奴だった。……優しい奴だったよ」


「過去形……」


「今も優しい奴だと俺は信じてる」


「俺の母さんを捨てたのに?」


「ブレイは捨てたりしない」


「現に母さんは国を出ないといけない状況だった」


「そうだな」


「勇者のせいだろ」


「違うな。王族のせいだ。先代の国王や貴族共の欲のせいだ」


「似たようなものだ。勇者は母さんじゃなくて王女を選んだ」


「グレイ……」


「ハンスの言いたいことは分ってるよ。勇者は悪くない、だろ?」


「ああ……あいつは純粋な奴なんだ。お人好しで。すぐに騙される」


「母さんと同じことを言うんだな」


「お袋さんもそう言ってたのか」


「『真っ直ぐすぎる男』だと……。人の悪意に気が付かないって」


「ああ、そうだな。だから貧乏くじばかり引く奴だったよ」


「そのとばっちりを受けた母さんが一番の被害者だろ」


「そうだな」


「結婚もなかったことにされたんだ」


「そこまで話してるのか……」


「母さんは俺が子供の頃から全部話してくれた」


 俺の言葉に、ハンスは頭をガジガシ搔くと溜息をついた。


「……子供にはヘビーな内容なんだがな」


「自衛のためだと言われた」


「まあ……そうだな」


「ハンス、俺は勇者の国には行かない。勇者にも会わない」


「そうか」


 ハンスは俺の目をじっと見た。俺もハンスをじっと見つめ返す。


「いいんだな?」


 ハンスが俺の目を見て問いかける。それは確認の問いかけだ。俺は静かに頷いた。


「ああ。俺に父親はいない。いるのは母親だけだ」


 俺は断言した。

 ハンスは、寂しそうに「そうか」と頷いた。


 一ヶ月後、元勇者が死んだという噂が世界中を駆け巡った。





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