飛田克樹 個室ビデオの流儀
この話は、著者「彼女の独裁は止められない!?」第24話の1シーンを作者の趣味全開で改変した短編です。
この話だけで完結はしております。
ただ、読後は、自分とは何者か問いかけざるを得ない内容になっております。
男の流儀にこうご期待。
――ここまでのあらすじ――
外務省に務める飛田克樹は、日頃から交流のあった陣という中国籍の男から、ハニートラップの証拠が入っているというSDカードを受け取った。そんな怪しいSDカードの中身は、仕事用のPCでは、確認できない。困った飛田がSDカードの中身を確認するためにたどり着いた先は……。
―――――――――――――――――――――
…………時間は10時前。
何故俺はこんなところにいるのかと自問する。
返ってくる答えは、仕方ない。他に方法が思いつかないだ……。
受け取った怪しいSDカード……。
安全に見るにはここしかないのだ。
そう……、サラリーマンの味方!!
『個室ビデオ』。
震える指で、エレベーターのボタンを押す。
新橋の雑居ビルは、いや、個室ビデオの入口はだいたい狭いエレベーターだ。
開いたエレベーターの扉。
中から人は出てこない……。
もし、こんな時間、このエレベーターですれ違うなら、どんな顔ができたであろう。
繰り返す。
今はまだ朝の10時前だ。
どんな理由でこんな時間に入るというのか。
そんな事を考えていると、エレベーターの扉が開いた。
着いたのだ。受付のある階に。
一歩、その店に入ると、独特の匂いが鼻につく。
タバコを無理やり消臭した匂い。
あの匂いが含まれていないという確証はないが、それを気にしないのが、大人だ。
店内に入るとまず、カゴを手に取る。
目的はPCの利用だが、カモフラージュに何本か取らないと怪しまれるだろう……。
(この店は6本までか……。そして、漫画が10冊。)
一回で借りれる本数は、店ごとに異なる。
6本は当たりの店だ。
6本なら色々とできる。
しかし、その6本を選ぶ前にまずは漫画をカゴに入れる。
いきなり、DVDをいれるのは素人やガキのやることだ。
大人は、まず漫画を複数入れる事でカモフラージュするのだ。
入れる漫画はなんでもいい。
ただ、字数の多いのは避けるべきだ。
漫画を、読むのに夢中になり、気づいたら時間がなくなっていたなんて、素人だけでなく、ベテランでもやりがちなミスだ……。
漫画を取ったら次はどうするか……。
当然、ランキングのコーナーだ。
(ランキングが一種類か……。狭い店だしな)
もっと大きな店なら、ランキングは、総合から女優、企画モノなど、ジャンルに分けて置いてある。
(まぁ、仕方ないか……)
ランキングコーナーは、ちらりと見るだけでいい。
玄人は、すぐにランキングコーナーの前から立ち去る配慮が必要だ。
素人さんが困ってしまうからな。
それに玄人はランキングを鵜呑みにしない。
このランキングは、店が、いやメーカーが売りたいものを置いてあるに過ぎないのだから。
それに釣られるのが素人ということだ。
ランキングコーナーをチラ見して過ぎて、最初に立ち止まるのは、そう、最新コーナーだ。
ここは、ジャンル関係なく、店が入荷した順に置いてある。
ちゃんといつ入荷したのか日付も書いてある。
(プロ時代は、入荷日毎に来ていたな……)
もう随分前にプロ個室ビデオラーから引退した俺にとっては、最新コーナーも、準最新コーナーも目新しかったが、やはり最新コーナーのカオス具合には惹かれる。
第一線級で活躍している女優の横に、もうこの作品でしか見られないだろう素人モノが並んでる。
この最新コーナーと準最新コーナーから、いかにその日の気分にマッチしたものを掘り起こせるか……、それが『個室ビデオ』の流儀だ!!
選べる本数は6種類。
前菜、スープ、魚、お口直し、肉、デザート。
6種類を選ぶということは、完璧なコース料理を作るのに相当する。
――まずは前菜。
この前菜を何にするかは、その日一日の分水領だ。
まずは正統派にするか、それともタッチの軽い素人モノか。
いきなりハード系もいい。
もちろん、イメージビデオでもいいのだ。
無限の選択肢の中からその日の正解を探す。
理論と感性を、行来し、究極の方程式を解く。
その解の第一項。その初手。
幸いにして、店内に人はいない……。
ゆっくりと、満足いくまで選ぶことができる。
まずは、壁の半分までを、ざっと確認する。
そこで直感的に誘われる一本を手に取る。
(マッサージ系か……)
久々の試合……。もう引退した身でもある。
それならば、まずは王道とキワモノの間の特異点であるジャンルから入るのが今日の正解だろう。
被体は、若くもなく、年増でもなくがいい。
(ああ、スポーツ系。そっちもあるか……)
やはり、引退してカンが鈍っている。
セレブ系かスポーツ系の二択!
昔なら迷うこともなく決断できたのに。
(キープするか……)
いや、キープという決断の後回しは社会人として失格だ。
キープするくらいなら二つ選ぶ。
(今はスポーツする気になれないのでな)
やはり、セレブだ。セレブの柔肌のマッサージ。
それが今の俺の現在地点。
――スープ。
二本目は一本目とのバランスを考える。
一本目の余韻を、楽しむのか、それとも更に強烈なパンチで味を上塗りするか……。
ただ、セレブマッサージを選んだら、次の正解は決まっている……。
新人だ。
次世代のトップ女優になりうる素材。
それを発掘するための探求。
新人ジャンルで一番大切な事は何か……。
それはメーカーも、分かっているだろう。
それは「透明感」だ。
しかし、「透明感」で推せる素材は限られている。年に一人いるかいないか……。
だから、胸や脚や尻など、仕方なく体のパーツでアピールするモノが多いのだ。
それらは、定量化できる。定量できるなら再現性がある。だから、簡単なのだ。商品として。
しかし!!
「透明感」は、定量化できない。客観化できない。
その素材の数だけある、「透明感」。
「透明感」は、神から与えられたGIFTなのだ。
引き寄せられるように一つ手に取る。
申し分ない透明感。
まさに次世代の逸材。
「ち、十代か……」
思わず、声が出てしまった。
もちろん聞かれる事のないほど小さい声でだが。
そのくらい残念であった。
しかし、手に取ったのは十代!!
それは、性癖や趣味ではない。生き様なのだ。
飛田克樹は仮に設定でも十代には手を出さない。
幸いにも、逸材度は劣るが、すぐそばに満足のいく透明感があった。
これで二本目。
――魚。
今日のコースは、前菜もスープも薄味だ。
なら、魚は、逆にガツンといきたい。
それならば、必要なのはストーリーだ。
スパイや刑事、より強烈には、戦隊やアニメでもいい。
ストーリーでガツンとくるのが必要だ。
しかし、俺はプロを引退した身。
あまりにガツンと、したものは胃が受付けなさそうだ。
ソフトで、場合によってはコメディがあってもいい。
これは新作にも準最新にも見つからない。
ならばこそ、いよいよ、魔境に、踏み入れる時が来た。
一歩間違うと奈落の底に落とされる茨の道。
それがそう、企画コーナー。
多様なジャンルを、「企画」という一語に集約するその剛腕。
すべてのDVDが企画されて作られてるのではというツッコミは、大人のすることではない。
大人は、変えれないものは受け入れ、その中でベストを尽くすのだ。
企画コーナーは複数の棚に分かれている。
棚から棚へ移っていると、初心を忘れて、他に気が移ってしまう。
(ダメだ。克樹。今、必要なのはコメディだ。ハーレムモノではない)
気を確かに保たねば、すぐに沼にトラップされてしまう。
まさに魔境。
(ああ、ついに来たか、このときが……)
今日一番恐れていたこと。
しかし、全く想定しなかったわけでもない。
そう。
他の客だ。
この時間、何故こんな所にいるのか。
どんなカルマを背負うと、スーツ姿で、企画の棚の前に立つのか。
しかし、運命は摩訶不思議。
二人のスーツ姿。しかも歳も近そうな二人が、同じジャンルの棚の前で鉢合わせる。
(コイツ……、できるな……)
こんな時間にいるのだ。
ただの素人ではない。
カゴには、ジュニアアイドルモノが入っていたのを俺は見逃さなかった。
(俺とは哲学は違うが、それもまた人生……)
相手に経緯を込めて、俺はその場を譲った。
少しでも邪魔にならないようにと、準新作の棚に戻った。
そこにあるナースモノに手を出す。
(百点ではないが、コメディ感はあるはずだ)
これが3本目。
――お口直し。
最初の3本を選んだとこで、次に選ぶは無難中の無難。女優モノにうつる。
お口直しは、メインでない。コースを食べて一番記憶に残らないかもそれないが、それでも重要だ。
他の品を攻めれば攻めるほど、失敗する可能性も高くなる。
そんな時のお口直しだ。
ある意味保険だ。
それはトップをはる女優陣からえらぶ。
ランキングを参考にしてもいい。
あるいはメーカーを指名するのも手だ。
絶対的美少女メーカーは外れがないところが安心安全なトヨタやユニクロに匹敵する。
面白みはないが、需要は高く広い。
ならばこそ、プロユースにも充分耐えうる。
女優を選ぶならデビューよりも5作目ほどが一番いい。
5作目ともなると、メーカーもコストをかけ、女性もその外見に磨きがかかる。
ただ10作目以上いくと改造しだす女優もいるから注意が必要だ。
お口直しはこれでよし。
これで4本目。
――メインディッシュである肉
さて、いよいよメインだ。
ここまで読んだ読者でメインが女優モノなんて素人はいないだろう。
もしいたら、ただちにブラバしてほしい。
これは素人が立ち入る試合ではない。
メインを決める。
それは自分の哲学の完成を目指す行為だ。
そんな哲学の中心は、言わなくてもわかるだろう……。
マジックミラー号だ。
約四半世紀の歴史を持つ、固有名詞がジャンルになった稀有な存在!!
マジックミラー号のその中に更に分類ができ、まさに小宇宙。
もはや、マジックミラー号の意味はないのではというものもなくはないが、それを楽しむのもまた一興だ。
演者の幅も広い。
水着ギャルから、スーツ姿のOL、山ガールに田舎の人妻となんでもあれだ。
(こ、これは!!)
ついに出会った。本日の至宝!!
まさにメインとするにふさわしい。
口に牛乳を含んで10分くすぐりに我慢したら10万円。リクルートスーツを着た就活生。
なんて、天才的な発想だ。
そんなシチュエーションに需要があるなんて誰が思うだろう。
しかし、世の中を変えるのは、まさしくこのようなイノベーション。
マーケットの声を聞いて革新的な製品が出るなんて幻想だ。
プロダクトアウトこそ、すべてを過去にする破壊のイノベーション。
偉い人にはそれが分からないのだ。
論理的でありながら、感性と創造を要するシチュエーション。
(……ありがとう。作品に会えてよかった……)
メインは決まった。
これで5本目。
――デザート
メインが決まればあとはエピローグだ。
今日のコースからして、デザートはシンプルでいいだろう。
そんな時、手に取るのは、引退した女優。
自分が若かりし頃にお世話になった人を選ぶ。
可能なら、すでに見たことあるものがいい。
若気の至りに思いを馳せ、余韻に浸るのだ。
今日のフルコースが完成した。
(……さて、ここからだな)
そう。これまでは試合をするあくまで準備。
ここからが本番だ。
最も緊張し、そして、それを悟られてはいけない瞬間。
受付だ。
(……時間は、どうするか……)
本来は、1時間一本勝負が基本だ。
しかし、今日は待たなくてはならない。
仕方なく三時間コースを選ぶ。
無言でカゴを受付にわたす。
向こうもプロだ。
こちらの選択の意図を十二分に掴み取っただろう。
俺は胸を張る。
引退したとはいえ、この選択。
そのへんのアマが太刀打ちできるはずもない。
「お席は決まりで……?」
俺の迫力に圧倒されたのか、声が少し高かった。
「……チェアで」
おいおい、チェアかよ。そこはフラットだろという読者の声が聞こえる。
そう。プロにとって、どんな体勢にも適応できるフラット以外に選択はない。
ただ、今日の目的はPCを使うことなのだ。
そこを察して勘弁してほしい。
今日は、引退した俺が、戯れに遊ぶ自主トレーニング。
残念ながら本番ではないのだ。
「……ジョークグッズはいかがですか?」
真剣勝負ができない悲しみを察してくれたのか、店員が優しく俺に声をかけてくれた。
俺は、微かに首を横に振り、手のひらで必要ないと答える。
声は出さない。
静かに指示された個室に黙って向かうのだ。
堂々とカゴをぶら下げて……。
それが飛田 克樹。
個室ビデオの流儀!!
読んでくださった方ありがとうございます☆
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また、皆さんの哲学をぜひ感想欄に書いてください。
哲学を語り合い、お互いを高め合いましょう。
また、もしよかったら私の書いた「彼女の独裁は止められない!?」も読んで下さい。