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ちょいと小話  作者: pitto
11/16

公開birthday

「せんぱーい、なんで誕生日設定してないんですかぁ!」

部活が始まってすぐ、1人の後輩が近寄ってきた。

吹奏楽部員の私たちは、合奏のない日はパート毎にわかれ、空いている教室を占領している。私とこの後輩の二人しかいないのに占領してしまっていいのかと思うが、今のところ苦情もないので問題なかろう。先生がおらず、先輩も私だけなので、この後輩は度々こうして話しかけてくる。

「別によくない?私の知り合いにも設定してない人多いよ。」

たぶん。そもそも他人の誕生日を祝ったことがほぼない。というか知らない。祝われたこともないから別にいいだろうと思っている。

「えー!祝われたら嬉しいじゃないですか!それに、設定してくれないとプレゼント贈れないじゃないですか!!」

普通に渡せばいいのでは....?と思ったがどうやら違うらしい。誕生日を設定していると、そのアプリ内で特別なプレゼントを贈ることができるそうだ。今、教えてもらった。

それを踏まえた上で

「...別にいらなくない?物を贈ればいいじゃない。」

「それはまた別に贈りますよ!当たり前じゃないですか!」

キレられてしまった。そうか、当たり前なのか。

「それに、直接聞きづらくても、設定してあれば、その流れで祝えるじゃないですかー。」

「まあ、それはそうね。」

たしかに、話に出すのにも流れが必要だろうし、聞いたら自分のことも聞かれるし、あなたのことを祝います、だから私も祝って、と恩着せがましくなることも回避できる...。そういう話ではないか。

「ちなみに私の誕生日はこの日です!」

先程から手に持っていた携帯を目の前に突き出してくる。

「今の話の流れ上、気づいてもらうの待つんじゃないの?というか堂々と携帯ださないの。」

見つかったら私が怒られる。たまに練習のために使うことがあるため、言い訳は用意してあるけど。

「分かりましたよー。」

渋々といった形で携帯をカバンに戻し、

「ですけど先輩!先輩、絶対私のこと追加してないですよね?!」

おお、ばれていた。というよりそもそも家族と一部の友人以外登録していない。理由が特にあるわけではないが。

「そうでもないんじゃない?後輩だし。」

「本当ですかー?先輩って、本当に仲良しの人以外繋がりもたなそうじゃないですかー。進んで持とうともしなさそう。」

がっつりその通りです。さすが半年も同じ空間にいるだけはある。

「まあでも後輩なので信じてあげますよー。」

…仕方がないので後で追加しといてあげよう。これでも直属の後輩だし。まあそれは後でやるとしてそろそろ話をそらそう。

「じゃあ練習始めましょうか。今日はーっと。」

「って、なに始めようとしてるんですか!」

この後輩は何を言っているのだろうか。部活時間に始めるといったら、そら部活でしょうに。

「先輩は誕生日なんで設定しないんですかー!設定してくださいよー!知りたいんですー!」

「直接聞けばいいじゃない。」

「え!いいんですか?!いつですか?!」

疑問符感嘆符がうるさいが悪い子ではないんだよなぁ...。興奮する後輩を短いながらも観てきたが、そういえばあまりプライベートに突っ込んだ話をしたことがなかった。おそらく先ほど見せつけられた誕生日が今日から近いことが関係しているのだろう。ま、それも後だ。

「先月。」

おお、面白い。ポカンという表現がぴったりな顔をしている。いつもの後輩しか知らない私としては珍しい表情だ。

「な、何で教えてくれなかったんですか!!というか、そういうことになるから設定してくれれば事前にわかったのに!」

やけに設定することを押すと思ったがそういうことか。サプライズ的なことをして、おそらくは親睦を深めたかったのだろう。他の部員はパートでカラオケや買い物なんかに行ってる、なんて話を聞いた気がしなくもない。別に部活以外で交流を深める必要は、ないと思うのだけど。部活としてはたくさんの先輩がいるが、パート、直属の先輩は私だけ。私と親睦を深めたいとは思わなくても、悪い関係にはしたくないのだろう。しかしなぁ...。

「はい、今教えたんだから練習を始めます。」

「えぇー。」

ちぇと小さい子のように口を尖らせながらしぶしぶと言った感じで部活の準備に取りかかる。悪い子ではないと思うひとつの理由は、ここでもある。一応は引き際をわきまえているのだ。まあ押せそうなら押してはくるのだろうが。


ーーー


"部活終了十分前になりました。生徒の皆さんは..."

下校時刻が近くなり、校内放送が流れ始めた。

特に終わりの合図もせず、放送を機に片付けを始める。片付けが終わると、いつもの通りだとこのまま解散だ。たまにあることだが、今日はいつも以上にチラチラこちらを見ている。気づかれていないと思っているのだろうか。たまにわざとらしく向こうとすると顔を逸らされるから、気づいていないと思っているのだろう。はぁ...。

「ちょっとまってて。」

後輩の顔を見ず、返事も待たず、廊下の方へ近づき左右をみる。人影はない。念のため扉を閉める。

「先輩?」

私の行動に疑問符を浮かべている所悪いが気にせず問う。

「誕生日って変更できるの?」

「え、あ、どうなんでしょうね?」

戸惑いつつ、自分のカバンに近づき、携帯を取り出し操作する。

「あ、変えられるみたいですね、ほら」

そう差し出された携帯の画面には部活開始前に見せられたものとは違う日付が入力されていた。

「これは今日の日付?」

「そうですけど...。」

別に言葉で言っても構わないのだが、この子には行動で示した方が納得するだろう。今度は自分がカバンから携帯を取り出し、後輩を近くに誘う。

「私の携帯、型が古いから。」

画面を見せながら先ほど後輩が設定したのと同じ日付を設定し、一度アプリを閉じる。再度立ち上げると、画面が固まった。

「重くて起動できないのよ。」

やっぱり固まった。予測ではあったが、きちんと固まってしまった。今日1日操作できなくなったな。

「誕生日のたんびに固まってたら、めんどくさいでしょ。だから悪いけど設定は出来ない、ごめんね。」

本日二度目の呆けた顔をしている後輩を見て、この子は顔芸が多いなぁと、密かに笑う。

「そ、そういうことなら言ってくださいよー!」

別に隠していたわけでもないが、そうか、言っとけば良かったのか。その一言で済んでしまったのか...?今後気を付けよう。今日はとりあえずこれで気は済んだはずだ。そろそろ帰るとしよう。

「じゃあ...。」

「先輩。」

言葉を遮られ、後輩の方を振り向くと、また携帯を近づけてくる。

「今日だけは私たち、誕生日一緒ですね!」

なぜだか、一本取られた気がした。




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