第71話 換金
「申し訳ありませんでした!すぐに、ギルド長室にご案内します!」
受付嬢は、有刺鉄線リングで満身創痍になったプロレスラーのように、頭から流血している。謝罪の言葉を口にしているが、こっちとしては早く止血したい気持ちに駆られている。
というか、なんでこの娘、いつも流血ファイトになるんだろう。
俺、ルッソ、ロビンの三人は、ギルド長室に通された。
ギルド長は格式高そうな机に両腕を載せて、指を組み、こちらを値踏みしていた。いわゆる、ゲンドウスタイルだ。
俺たちが部屋に入ると、すぐに尋問してきた。
「単刀直入に聞くが、君たちがこの魔石を?」
「そうです。」
「どうやって?」
「ウ・ゼス川の右岸のエリアで、ワイバーン・オニクルンを倒しました。」
「ケープリアからほど近い所で、そんな魔物が出るなんて、聞いたこともない。」
ギルド長は顎に手を当てる。
「ワイバーン・オニクルンは極めて稀な種族だ。トバル山にわずかに生息すると聞いていたが…いや、そういうことか。」
ギルド長は独り言ちて、こちらを向く。
「まぁとにかく、これはなかなかの魔石だ。即金で3000万エルムを支払うがどうだ?」
「僕は、それ以上の価値があると思っています。」
ここで、ルッソが交渉の中心に躍り出る。
そうだよな。こんな大きな魔石、なかなかないぞ。
ちくしょう。
貧乏人だと思って足元見やがって。
「あまり欲をかくと破滅するぞ。まぁいい。チマチマ交渉するのも面白くない。1億エルムだ。このギルドにある金全てだ。それ以上の金は用意できない。」
「なるほど。じゃ、豪商主催のオークションに持ち込みます。ありがとうございました。」
そう言って、ルッソは席から立ち上がる。
俺とロビンも、えっ、顔に似合わず強気だね、と思いつつ立ち上がる。
ルッソの迷いのない態度に、ギルド長の口調は、初めて狼狽したものに変わった。
「待て!君たちは、急ぎでお金がほしいんじゃないのか?受付の者からそう聞いているのだが。」
「そうですね。でも不当に買い叩かれるほどは困っていません。」
「オークションまでまだ日があるし、悠長に待ってられるのか?」
ギルド長は食らいつく。
ルッソがギルド長をジッと見る。
俺は、ルッソとギルド長のやり取りを見ながら、ルッソも随分と肝が座ったものだと感心した。さすが訓練所や冒険で死線をくぐりぬけてきただけはある。文句なしのうちのCOOだ。
ルッソが畳みかけた。
「僕たちには、ユドルスク商会とコネがあります。一旦そこに持ち込んで、オークションを待てば問題ありません。」
ギルド長は天を仰いだ。
そして、机の上に手をついた。
「この通りだ。魔石の売買をうちのギルドで任せてほしい。」
「…話しは聞きますが。」
ルッソが促す。
ギルド長が面目なさそうに話をし始めた。
「最近、冒険者が直接商会に持ち込んで、魔石の価格が豪商たちによって釣り上げられている。魔石は、あらゆる魔道具の動力源だ。豪商たちが魔石を独占して、これ以上力を持つと、住民の生活が脅かされるのだ。」
ギルド長は、机に頭をつけている。
…本当かどうか知らないけれど、情に訴えるのが上手だな。
ルッソどうする?
「分かりました。でも、最初に買い叩こうとした姿勢は評価できません。適正価格での対応をお願いします。」
「分かった。申し訳なかった。」
ふぅ、交渉成立だ。
そうして、まずは即金で一億エルムをギルドが俺たちに支払い、オークションで魔石を売って得た利益を、さらに配分するという形になった。ギルドはその手数料を収益にするという寸法だ。
しかし、一億か。
ガバチョに支払っても、おつりが来るな。
冒険者ギルドとの話がまとまった翌日、ブルストンに斬られてからちょうど一週間経ち、約束の日となった。
午前中は、ギルドに冒険で集めた素材や、魔石などの鑑定をして、フンドやベーラとも、今後の治療院の方針を話し合った。冒険で得た原資で想像以上に早く、手術器械の新調ができそうで、ルッソもほくほく顔だった。
治療院は昼から営業再開した。熊のねぐら亭のラガンに聞くと、この治療院の再開を心待ちにしている冒険者は多いということだ。ありがたい話だ。
マルカスタには、朝一番で、ギルドで換金した5000万エルムの金を届けた。
俺が受け渡しの時の証人に入ろうかと言ったが、マルカスタは、『あなたがいると話がこじれるから来ないで』と、俺の申し出を断った。それに、『ガバチョが妙なマネをしたら、不意をついてぶっかけてやるから心配しないで』とマルカスタらしく意気込んでいた。
まぁ大丈夫だろう。
*
「ふひー。」
診療が終わった。
冒険中は休業していたから、今日は患者が多かった。
午後の診察からではあったが今の時間まで、ひっきりなしの診察で疲れた。
「ルッソ。ちょっと、マルカスタの店に行ってくる。」
「うん。ガバチョがどんな顔していたか、教えてよ。」
ルッソは、帳簿から顔をあげて、フフフと笑った。
「あぁ。それが楽しみで、冒険を頑張ったんだ。」
治療院の外に出ると、冬が近づいているのか、辺りはうすら寒く、もう日が傾いている。
マルカスタの店は静かだった。
「死ねぇぇぇぇ!!死ねぇぇぇぇぇぇ!」
と、マルカスタお手製の頭蓋骨チャイムが鳴る。
「マルカスタ?いるか?」
すると、店の奥で、マルカスタがガバチョと見知らぬ男と話をしていた。
「サーノ?」
こちらに気付いたマルカスタは、憔悴しきった顔だった。
「どうした?」
「おやおや、サーノさん。生きていたんですね。」
振り向いたガバチョ。こいつは見ただけで、気分が悪くなる。
「そちらは?」
俺はガバチョの隣に座る陰険な男について、マルカスタに尋ねた。
「先代の長男様よ。」
「…サーノです。よろしく。」
陰険な男は俺を無視して、マルカスタを見る。
「マルカスタ。そういうわけで、ここから出て行ってもらう。ガバチョ先生、これが土地の権利書です。」
「どういうわけだ?」
俺は苛立ちを隠せなかった。
「なーに、簡単なことですよ。先代のご長男様は急なご入用で、この店の土地と建物を売られることになった。それを、私が買い上げたんです。」
「なんだと!?」
「これで、マルカスタさんの結納金5000万とこの店の権利書1億、あわせて1億5000万払っていただくことになったんですよ!」
俺はマルカスタを見る。
「マルカスタ。お前、この店はいいだろう、売り払っても。お前が別に金を支払う必要ないじゃないか?」
「先代が守ってきた店でもあるから…、ガバチョと結婚すれば、この店はなくさずに置いておくって。」
マルカスタはうなだれた。
「お前、そんな…」
さすがに1億5000万なんて金はないぞ。
しかし…
俺は、ガバチョを睨んだ。
「ガバチョ、この店を買い上げるための1億なんて金どうやって用意したんだ。」
「私は医者ですよ。造作もありません。」
「エドワード商会だろ?」
「…」
ガバチョが、不機嫌に黙り込む。
「ガバチョお前、大丈夫か?」
「何が言いたいのです。」
「お前みたいに派手に金を使っていると、いつかは破滅するぞ。」
「小賢しいですね。何の証拠もない妄言ですよ。サーノさん。」
ガバチョは俺を制止するように手を掲げ、
「マルカスタさん。さぁ続きです。ここにサインをしてください。」
鼻息荒く、マルカスタに迫った。
マルカスタは観念して、契約書にサインをしようとしたその時だ。
「ガバチョ様。」
天井から女の声がした。
「く、くせ者!」
ガバチョが天井に向かって叫ぶ。
シュタッ!
大事な部分だけ黒いマイクロビキニを当て、それ以外の体部分は黒のシースルーという『くノ一ファッション』で、着地したのは、ソニアだった。
「ソ、ソニア秘書、何の用ですか?」
ガバチョが驚いて声をあげた。




