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第70話 受付嬢

 ワイバーン・オニクルンのホワイトブレスを命からがら逃れて、ウ・ゼス川に飛び込んだ、俺とロビン。

 下から水面を見ると、ブレスで川面が蒸発しているのが分かる。


(さて、どうするかな?)


 ターゲットが、マルカスタやルッソに変わったなら、その隙をついて、俺の黒魔法を叩き込んでやるのだが…


 目を凝らすと、オニクルンが上空を旋回しているのが分かる。


 あくまでも、ターゲットは俺ってことだな。

 こうなりゃ根競べだ。


 俺は隣にいるロビンに、合図をして、息が続くまで潜っていよう、と伝えた。


 黒魔法の射程距離は50m程度だ。

 水中から飛び出したと同時に黒魔法を唱える。近くにオニクルンがいれば、奇襲成功。いなければ、苦戦必至だ。


 上空を旋回していたオニクルンはすでにおらず、水中からは姿が確認できない。

 ターゲットが移ったか。ルッソ、マルカスタは無事なのか。


 そうこう思案していると、息が苦しくなってきた。もう限界だ。


 俺は、ロビンにサムズアップして、一気に浮上し、水面を突き抜けた。



 ズボーーーッ!



 水面を抜けて目の前をみると、オニクルンの咢、無数の歯が迫っていた!

 

 お前、狙っとったんかーい!


(パラリシス!)


 オニクルンの動きが止まる。その隙をついて、距離をとった。

 

(鑑別スキル エコーモード)


 ザっとオニクルンの体をスキャンする。確認すると、心臓近くの魔石を中心に、血管が体中に張り巡らされていた。


(そういう体なら、この技しかない!)


「アンダンテの名において。心を掴まれる恐怖を与えよ。アンジーナ!」


 久しぶりのフル詠唱だ。

 オニクルンの心臓血管が、ダークマタで詰まるイメージを込める。

 恐怖を与えるだけの魔法じゃない、これは命を絶つ魔法なのだ。


 

 ギャーーーーーーー!!!



 明らかに、これまでと違う断末魔の叫び声を上げて、オニクルンはドーンと倒れる。


「ぶっかけ!」

 マルカスタがどこからともなく現れて、オニクルンに謎の薬液をぶっかける。



 ギャーーーーーーー!!!


「…マルカスタ。何をぶっかけたんだ。」

「マルカスタのドキドキドックンよ。サーノの魔法と相性がいいと思って。」

「意味不明だぞ…」


 そうしているうちに、オニクルンの翼や足が急に青ざめ、変色していく。


 えっ!?怖い…


 俺は、アンジーナの重ね掛けをしつつ、オニクルンがブレスなどの攻撃をしてこないか警戒した。


 再度オニクルンに鑑別をかける。


― 種族:ワイバーン・オニクルン、Lv:60、状態:瀕死、弱点:なし スキル:ホワイトブレス ―


 瀕死となると、もう一息だな。


 しかし、心筋梗塞と毒で魔物を殺すというのは、全く高揚感がない。泥臭さすぎる戦い方と言えるだろう。いや、それでいい。命のやり取りとは、本来泥臭いものなのだ。


(おや?)

 鑑別スキルでオニクルンをスキャンしている時、俺は気付いてしまった。

 オニクルンの腹部分に、小さな魔石がある。


 一つの魔物に、一つの魔石。これは常識だ。

 となると、考えられるのは、このオニクルンは母親で、子どもが腹にいるということだ。


 いやいや。エイリアンの卵なんて、焼き払うのが当然だ。

 無駄に感傷的になる必要もない。


「マルカスタ。もうこいつは動けない。とどめを刺せ。」

「えっ、私がとどめを刺していいの?っていうか、あなた怖い顔してどうしたっていうのよ?」


 ロビンは頷いて、自分の剣をマルカスタに手渡す。


「マルカスタは支援職だから、レベルアップしにくい。こいつは高位の魔物だから、ありがたく命を頂け。魔石の位置はここだ。ここを刺せ。」

「分かったわ。えいっ!」


 マルカスタの剣が、オニクルンの心臓を貫いた。


 グェェェェ!!!

 

 オニクルンが最期の断末魔の声を上げた。

 俺は、鑑別スキルで、オニクルンが死んだことを確認すると、

「マルカスタ、剣をよこせ。」

「もうなによ。さっきから、様子がおかしいわよ!」


 鑑別スキルを使ったまま、小さい魔石のある位置まで、刃を進めていく。


「サーノ、さっきから、何しているの?」

 ルッソが心配そうに尋ねる。

 

「魔石だ。小さな魔石がある。」


 そうっと、袋状の物に剣を当てた時、異常な臭気があたりに立ち込めた。


 胃かな?


 胃袋を剣で切り開くと、そこには…


「卵だね…」

 ルッソがつぶやいた。


 俺は、ちょっと躊躇したが、慎重に胃袋から卵を取り出した。

 この卵から魔石反応がある。


「どこからどう見ても卵ね。オニクルンの卵かしら?」

「いや、違うな。オニクルンが丸呑みして、消化できなかった卵だと思う。」

「へぇ、硬いんだね。」


 まぁ、これでオニクルン母親説はなくなったかな。

 何となく溜飲が下がった。


 結局、何の卵か分からないが、魔物博士ルッソと狂気の化学者マルカスタが、『持ち帰りたい』と主張するものだから、『孵るまでですよ。それ以上育ったら野に放ちますからね!』という条件で持ち帰ることにした。



 ケープリアの冒険者ギルドに着いたのは、だいぶ夜も更けてきた頃だった。

 ギルド内の人はまばらで、俺たちが扉を開いた時にも、カウンターの受付嬢は『もう閉店ですが』と言わんばかりの迷惑そうな顔をしていた。


 マルカスタやロビンと相談して、まずはオニクルンの巨大な魔石を鑑定してもらい、それをマルカスタが用意しないといけない5000万エルムの一部に当てることにした。マルカスタは、この恩は皆に体で返すから、などと言い始めたので、先に家に帰した。

 ギルドで換金するときに、マルカスタの鑑定色が必要だ、なんて言われると面倒だからな。


「もう閉店間際なんですけど?何の用ですか?」

「急いで換金してほしいブツがある。」

「はいはい。飲み代のツケでも払うんですか?じゃ、鑑定するんで出してください。」

「これだ。」

 俺は、オニクルンの魔石をカウンターに置いた。


「えぇぇぇ!!」

 受付嬢は椅子ごと後ろに転がっていった。


 三枝かよ。

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