第68話 黒魔法の正体
皆に話を聞くと、俺はシビスタの毒で丸一日寝込んでいたらしい。
マルカスタが、シビスタから抽出した毒を参照して、俺から毒を抽出しようと頑張ってくれたのだが、目を覚まさなかった。しばらくして、急に目覚めたかと思ったら、味方相手に怪しい呪文を使い始めた。
ロビンは、『もはや、同士討ちになるくらいなら、斬るしかあるまい』と、剣に手をかけたところで、マルカスタが、俺に馬乗りになり、ビンタというか闘魂注入して、正気に戻ったということだった。
「申し訳ございませんでした!」
俺は、平伏した。
「いや気にするな。それにしても、シビスタの毒に冒されて、復活するなんて、俺は夢を見ているようだぞ。本当に生きててよかった…」
目を潤ませながらロビンは言う。
「ロビン…心配かけたな…」
俺は正座したまま答えた。
ロビンは鼻をすすると、俺に尋ねた。
「しかし、お前の技はなんだ?ダークとか、パラなんとか言って。全身が痛くなったぞ。」
マルカスタも、私も右足が痛くなった、と言ってくる。
「うん?どういうことだ?」
「僕も、腰が痛くなった。視界は暗くならないし、麻痺もなかったよ…」
ルッソも不思議そうに言った。
つまりだ。俺が混乱状態で放った黒魔法は本来の効果がなく、全身に痛みを引き起こしていたということか…
その時だ。
バラバラのピースがパチリとハマった気がした。
「なるほどな。黒魔法ってそういうことか。」
つぶやくと、ルッソは怪訝そうに俺を見た。
パーティのメンバーに黒魔法の存在が明らかになった今、これ以上隠し通すのは難しい。俺は打ち明けることにした。
「皆に黙っていたが、俺には、鑑別の魔法以外に黒魔法が使える。」
「そのダークとか、パラとか言う奴だな。」
ロビンが答える。
俺は頷いた。
「そうだ。少しの間、敵の視界を暗くしたり、体が麻痺したりする。」
「それは、また地味な魔法…」
「恐ろしい魔法なんだ!」
俺は、ロビンに食い気味に言った。
ルッソが、慰めるように俺の肩を叩いた。
俺は、皆が憐みの目を向けていることに気づいたが、無視した。
「俺はとうとう分かってしまったんだ、とんでもないことに!」
「どういうこと?」
今度はマルカスタが、目も合わせず耳の穴をほじりながら答えた。
「この黒魔法の正体だ!」
「ナンテコッタ。」
マルカスタは、指をフーと吹きながら答えた。
こいつら…全く興味ナッシングだな。
「論より証拠だ!ものすごいものを見せてやる!」
*
「ルッソ準備はいいか?」
「大丈夫だよ!」
回復薬を用意した、ルッソが待機している。
ロビンとマルカスタは、不思議そうにその様子を見守る。
俺はおもむろに仰向けになった。
呼吸を整える。とんでもない世紀の大発見をしてしまった。
一歩間違えれば死ぬ。それを今から自分を実験台に唱えようというのだ。
俺は足の動脈である、後脛骨動脈を思い描いた。
そして…
ドーンと来た!
くっ!痛い!この足の痛みはどうだ!悶絶するほどの痛みだ!
「あいたたたた…」
しばらくすると足の痛みが引いてきた。
「実験は成功だ!痛みはなくなった。ルッソ砂時計で測った時間はどうだ?」
「6分だよ!無詠唱というのに!」
ルッソは興奮して俺に答えた。
俺は満足げに頷いた。
「分かったか?俺の黒魔法は、もはや次元が違うほど、パワーアップした!」
俺は、ロビンとマルカスタに熱い眼差しを向けた。
「いや、サーノ…その…」
ロビンが気まずそうにしている。
それを見たマルカスタは、
「全く意味不明だわ。『あいたたた』ってお年寄りのこむら返りみたいだわ。正直、見ていて不愉快よ。ね、ロビン。」
と、やや怒り気味で言う。
いや、不愉快て。
俺はルッソと顔を見合わせた。
「あの、僕は正直、黒魔法の次元が変わったと思ったよ。」
「ルッソだめよ。本人の成長につながらない。つけあがらせるだけなの。」
ひどい言われようだな。
しかし、次元が変わったのだ。
そう、黒魔法の本質は『血流障害』だ。
血流が途絶えると、様々な症状が出る。
目にある網膜中心動脈が閉塞すれば、視力低下。
脊髄にある前脊髄動脈が閉塞すれば、四肢麻痺。
心臓にある冠動脈が閉塞すれば、胸痛。
というわけだ。
俺が何となく唱えていた黒魔法の正体が分かると、血管を狙って閉塞させることができる。だから足の動脈である後脛骨動脈を具体的にイメージして、黒魔法を使うと、分散していた黒魔法成分が集中する、それで症状の持続時間が長くなった、というわけだ。
仮にここでは、黒魔法成分をダークマタと呼ぶことにしよう。
逆に俺が混乱状態にある時に放った黒魔法は、ターゲットがボケてて、ダークマタが分散した。軽い血流障害しか起こせず、ロビンたちのように『ちょっと痛いな』くらいの症状になったのだろう。
次の学会は、『ダークマタと黒魔法に関する考察』というテーマで、一般口演に応募することにしよう。抄録締め切り日をチェックしておかないとな。
「いや、サーノ。あまりに地味で、黒魔法は戦闘の役に立たないと思うぞ。俺も、黒魔法とやらを受けたが、動けない訳ではなかったからな。」
ロビンが頬を掻きながら言う。
俺は目を見開いた。
「ロビン、この黒魔法で致命的になることがまだ分からないのか?」
「サーノ、いい加減にしなさい。これ以上意地を張るのは、恥ずかしい大人よ。」
ちっ、仕方ない…
「…分かった。俺は、決して黒魔法を他人に使わない主義なんだが、そこまで言われたら、ちょっと黒魔法の恐ろしさを味わってもらおうか。」
俺の言葉を受けて、ロビンが言う。
「分かった。お前が、黒魔法に夢見る状態から抜け出すためにも、俺が一肌脱いでやろう。」
ロビンが俺の前に立った。
ファンタジ医が一生懸命考えた、魔法のお話でした!




