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第67話 シビスタ

 軽トラックくらいの大きさがあるむしでゲンゴロウのような姿をしたシビスタ。そのシビスタが10匹も、俺たちに猛スピードで突っ込んで来る!


「奴らの口器こうきを避けろ!死ぬぞ!」

 ロビンが大声を出して、俺たちの前に出て盾を構える。


 俺は、ロビンの後ろに入り、距離を見計らって黒魔法を唱えた。

(パラリシス!パラリシス!パラリシス!)


 低空飛行するシビスタのはねが止まり、滑空するように俺たちへ突っ込んでくる。


 ドーーーーーーン!

 シビスタの1匹が、ロビンの盾に時速200で衝突する。


「うおおおおおーーーー!!!」

 ロビンが咆哮する。

 ロビンは踏みとどまり、盾に衝突したシビスタは、体液を撒き散らしてぜた。


 蟲特有の硬い外骨格が四方八方に飛び散り、他のシビスタにも直撃する。シビスタの飛行隊は大打撃を受けた。


 スゲーな。


 まぁ、時速200kmで突っ込んでくる軽トラックを弾き返すなんて、人間業じゃないからな。シビスタも、さぞかしびっくりしただろう。


「ロビン、大丈夫か!?」

「このくらい平気だ…桃栗3年、盾8年だ。」

 ロビンは、震える手でサムズアップして見せる。


「盾の大馬鹿18年だろ。あんたは、最高の盾戦士だ!」

 俺はロビンにサムズアップで応え、駆け出す。


 ダメージを負ったシビスタたちが地面をえぐりながら着地するので、俺たちは急所を突いてトドメを刺しに行く。


「ぶっかけ!」

 マルカスタが硫酸のような薬液をシビスタの目にぶっかける。


 グゲゲゲゲ!!!

 

 シビスタは断末魔の叫びをあげ、事切れた。


「やったわ!念願のシビスタの体液をコレクションにできるわ!」

 マルカスタは飛び跳ねて喜び、嬉々としてシビスタから抽出を行っていた。


 こんなところで、マッドサイエンティストぶりを発揮しないでほしい。


 マルカスタは、一つの魔物から毒物を抽出するだけでなく、多様な毒物を一定の割合で配合してさらに強力な毒液・薬液を作ることができる。マルカスタが薬液を魔物にぶっかけて、俺がすぐに鑑別するという、実験を繰り返し確かめてきたことだ。


 『マルカスタのドキドキどっくん』なんて、モンスターの体液を配合して、何億種類の薬液を作れる、やりこみゲーとか作れば、一部のマニアをネトゲ廃人にすることができるんじゃないのか。


 まぁ、俺のネーミングセンスも壊滅的なんだが。


 手負いのシビスタは抵抗するものの、猛毒をもつ鋭い牙に注意すれば、急所の眼球を刺し、意外に簡単に処理できる。それに飛行してない限り、動きは鈍い。


 シビスタの群れが何度か上空で旋回した。残りは6匹だ。


「また飛行からの体当たりを狙っているのか。」

 俺は、盾を構えるロビンに聞いた。


「当たり前だ。あれがシビスタの最凶最悪の必殺技だ。高速物理攻撃、猛毒、魔法攻撃無効。あいつが通り抜けたら、たいていの白魔導士、攻撃魔導士は死体になっている。」

 ロビンは旋回する群れから目を離さずに言う。

 

 俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。


(効いてよかった!俺の黒魔法効いてよかった!)


 シビスタがまた隊列を組み直し、急降下、加速をつけた飛行で俺たちに突撃しようとする。その速度は最初のアタックよりも速い。


 ロビンは、盾からスパイクを出し、地面に突き刺す。

「あれを薙ぎ払えるのは、聖騎士のホーリーホライズンくらいだ。だが、聖騎士なんてジョブは滅多にいない。だから…」

 

 シビスタの群れが急速に彼我ひがの距離を詰める。

 その時、ロビンの盾が光輝き始めた。


(これが、ロビンのスキルか?)

 

 眼前に迫ったシビスタを睨みつけ、ロビンは叫ぶ。

「俺みたいな盾が必要なんだ!!フォーーーーーーーーーーー!!!ス。」


(HG!?)


 ドーーーーーーーン!!!

 

 シビスタがロビンの盾にぶつかり、木っ端みじんに爆発した。

 最初の一撃よりも衝撃は激しく、周りのシビスタも巻き添えを受けて大ダメージを与えた。


 ロビンは渾身の力をふり絞ったのか、膝をついた。

 俺は言わざるを得なかった。

「ロビン。今のが、スキルか?」

「そう。俺の最高の盾戦技『フォース』だ。」

「…結婚したいならその技の名前を変えた方がいい。」

「なぜだ?」

「掛け声がダサい。グレートバリアリーフとかの方がいい。」

「なんだその名前は?」

「…いや忘れてくれ。」


 まぁ、俺のネーミングセンスも(略)

 

 地面に叩きつけられたシビスタたちを同じように一匹一匹と、倒していった。

 そして、ついに上空を旋回するシビスタが、残り一匹になった。


「ロビン、イケるか?」

「いや…もう奴を弾き返す力は残ってないな。」

 ロビンが悔しそうに、旋回しているシビスタを睨む。

 あの位置じゃ俺の黒魔法の射程外だ。


 ジジジ…ジジジ…


 空中でホバリングしたシビスタが、妙な羽音を鳴らす。

 

「あいつ、どうする気かしら?」

「案外、逃げる気かもしれんぞ。」

 マルカスタの問いに、ロビンが楽観的に答える。


「ルッソ、奴の羽音の意味分かるか?」

 俺は、目線をシビスタに向けたまま訊く。


「いや、分からない…全然コミュニケーションとれないほど怒ってる。」

 ルッソの言葉に緊張感が滲む。


 そりゃそうだよな。

 あっちは10匹で来て、残り一匹。全滅に近いからな。

 怒り心頭だろう。


 うん?10匹?


 ちょっと待て。もう9匹殺したか?


 その時、ホバリングしていたシビスタが、急降下してきた。


「考えたな。真上からじゃ、この盾が使えない!」

「自爆攻撃か?」


 俺たちが、特攻するシビスタに警戒していると、背後で物音がした。


(マズい!隠れてやがった!!)


 俺が振り向いた時には、土から飛び出したシビスタが、マルカスタに迫っていた。


「マルカスタ!!」


 俺はマルカスタを、かばい守るも、シビスタの鋭い牙が俺の背中を掠めた。

 灼熱に炙られたような鋭い痛みが走る。


(パラリシス!パラリシス!)


 俺は背後から奇襲してきたシビスタと、特攻中のシビスタにパラリシスを唱えた。

 しかし、急に体の自由がきかなくなり、マルカスタと、もつれるように地面に転がり込んだ。


「シールドバッシュ!!」

 ロビンは、奇襲してきたシビスタを、盾で真上に突き上げた。


 降下中のシビスタは、急停止を試みたが、間に合わず、下から飛んでくるシビスタと衝突し、爆発した。


「ここに飛び込んで!」

 ルッソの声が響いたかと思うと抱えあげられた。

 そのまま、俺たちは、シビスタが出てきた穴に飛び込む。

 辺り一面にシビスタの死骸が落下し、空襲のような激しい音が辺りに響く。


 そこで、俺は意識を失った。



 どれくらい眠っていたのだろう。


 俺は起き上がり、周りを見渡す。


(っ!最悪じゃねーか!)

 なんと、俺はシビスタの群れに囲まれていた。


 その場から逃げようと、俺は、ありったけの黒魔法をシビスタに唱える。


「ダーク!」「パラリシス!」


 しかし、シビスタの群れには、特に効果がなかった。

 そのまま俺を追いかけてくる。


(ちくしょう!どうした!魔法が効かなくなったのか?)


「サーノ…」


 えっ、シビスタが喋った!

 こいつら知能があるのか?


 というか、ルッソたちはどこに行った?

 殺されたのか?


 状況が整理できない。


 その時、シビスタの一匹が飛び跳ねたと思ったら、とんでもないスピードで、俺に近づく。そしてその触手で、俺の顔にビンタした。


 頭がクラっとする。軽い脳震盪を起こしたようだ。

 口の中に鉄さびの味が広がる。


(くそ!シビスタの毒のせいなのか、体が思うように動かない…)


 俺は、軽トラほどの大きさがあるようなシビスタに下敷きにされ、触手ビンタを何度も食らう。


「どけよ!重いんだよ!化け物が!!」

 俺は、上から押さえつけてくるシビスタに毒づいた。


 バシーーーーン!!


 顎の骨が砕けるんじゃないかと思うくらいの、強烈な一撃が俺の頬に入った。


 視界がぼやけた。


(ちくしょう…なぶり殺される…)


 こんな残忍な殺され方なら、一思いに突き刺してくれた方が楽なのに。


 俺は目をつむり、死の覚悟をした。

 その時だ。


「マルカスタさん!それ以上やったら、サーノが死んでしまうよ!」


 ルッソ!

 ルッソの声がする。助けに来てくれたのか!


 俺は目を開く。おぼろげな視界だったが、目の前にマルカスタがいた。


 えっ!?


「マルカ…」


 バシーン!!

 また強烈なビンタが入った。


「こいつは、私を化け物呼ばわりしたり、知らない間に他の女を冒険メンバーに入れようとしたり、一回、ヤキ入れなきゃいけないのよ!」


 マルカスタはもう一度腕を大きく振り上げた。


「マルカスタさん!サーノ正気に戻ったようだよ!」

 ルッソの声が響いた。


「えっ、嘘!?」


「マルカスタさん…助けてください…」

 俺は痛みをこらえつつ、命乞いをした。


「サーノ!」

 マルカスタは俺に、覆いかぶさるように抱きついた。

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