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第5話 ツンデレ、ベーラ

 俺たちに面会に来た、絶世の美女はベーラだ。

 ベーラ・ユドルスク。

 実家はケープリアで貿易商をやっている大金持ちだ。


 今日も、金の刺繍が上品に施された深緑のドレスというお嬢様ファッションだ。彼女のダークブロンドの髪は白い花をあしらった髪飾りでアップされており、よく似合っている。これからオペラにでも出演されるんですか?と問いかけたくなる。


 ベーラは、俺たちが孤児院にいた時からの知り合いで、ルッソと3人でよく遊んだ記憶がサーノにある。


「3か月ぶりだな、ベーラ」

「サーノは、あまり成長した様子もなさそうね。」

「お前の胸と同じだな。」

「死ね!」

 ベーラは、俺を睨んだ。

 彼女の意志の強さを表すのか、ややつり目というのもチャームポイントだ。


 いや、サーノの記憶にあるからこのやり取りをしただけで、俺が望んだものじゃないよ。こんな美人にセクハラ発言なんて、俺にはちょっと信じられないな。


 というかですよ。


 イケメン少年2人と絶世美少女の幼馴染関係とか、リア充揃いのくそったれな状況としか言えない。

 のっぺらごま塩様の怒りがフツフツと湧いてくる。


「あはは、相変わらずだね、ベーラとサーノは。」

「こいつと一緒にしてもらいたくないのだけど。」

 とため息混じりに、ベーラは言う。


 この絵になる二人のやり取りも腹立たしい。

 のっぺらごま塩様の嫉妬心を思い知れ!


「ベーラ。アンダンテ様のご加護があらんことを。ティンコ。」

「ティンコ。…って、一体どうしたのよ!」


 ヒヒヒ、美人にティンコ言わせたった。

 もっとお前たちのその美しい幼馴染関係を汚していくぞ。


 そうだ。


 小汚いのっぺらごま塩様が、このサーノの体を使って、ベーラを手籠めにしてやるといのはどうだ。

 ブヒヒヒヒ。ビバ!異世界寝取り!



 …って待てよ。


 俺34歳。君たち16歳。

 下手すりゃ親子ほど年齢が違う相手に、俺は何してんだろう。


 …ヒカル、ごめんよ。お前のお父さんは、嫉妬に駆られて妖怪のっぺらごま塩になっちまった。

 絶対お父さんみたいになるんじゃないぞ。


 そうして、のっぺらごま塩は一筋の涙をどこからか流して空へ消えていったのであった。



「「サーノ?」」

「え、あ、ごめんなさい。」

 心配そうに、ベーラとルッソが俺を見ている。


「ちょっと、サーノは昨日殴られてから調子がおかしいんだよね。記憶が飛んだり。」

 ルッソは、声を潜めてベーラに話かける。


「え、また殴られたの?もう、私があんなに、訓練所の風紀を改善してほしいとお願いしているのに。」

 ベーラが綺麗な眉を上げた。


「き、昨日はちょっとボーとしてただけで、今日はもう問題ないぞ。それにベーラもあまり無茶なことをするな。どうせお父さんから陳情してもらってるんだろう?」

「それは…」

 ベーラの目が泳ぐ。


 面会室には速記官も同伴しているので、あまり迂闊な事は言えない。

 サーノの記憶をたどると、どうやら脱走の際には、ベーラに手引きをお願いする考えだったらしい。


 『おいおい、若いっていいなー』というところだが、脱走が失敗したら、ベーラを含めてヤバいことになるぞ。とにかく、ベーラが訓練所に対してネガティブなイメージを持っていると、ここの速記官に思われるのはマズい。危険人物としてマークされる。


 話題を変えることにした。


「ベーラ、修行の方はどうだ?」

「まずまずといったところね。今度、お父様が制作展に出展させてくれると言っていたわ。本当は、お父様の主催する展示会じゃない方がいいと思うけど。」


 ベーラの鑑定色は黄色である。金に糸目を付けないお父さんの力もあって、細工師という仕事がもっとも適性があると分かった。そして、彼女の器用さが光るように様々なトレーニングを課しているらしい。


「これを見てみる?」

 ベーラはポシェットから、恥ずかしそうに自分の作品を取り出した。


「「おお!」」

 俺とルッソは、驚嘆した。

 丁寧な技術が織り込まれ、意匠を凝らした金細工だ。

 

 造形美。

 

 確かに女神に祝福された才能と言われるだけはある。


「ベーラは天才だな!美人なだけじゃないな!」

「一言余計よ!」


 ベーラは頬を赤く染めながら言う。

 このやり取りは、俺オリジナルだ。

 サーノはベーラの才能を面と向かって褒めなかった。ベーラもベーラで、ルッソと俺が、この訓練所で無能と蔑まされているのを知っているので、あまり自慢になるような事を言わなかったようである。


 ベーラが、ふーと息を吐き言った。

「あんたたちにも、きっと祝福される才能があるはずだわ。」


 ルッソと俺は、顔見合わせた。

「デレの時間来たな。」

「来たね。」

「誰がデレよ!あんた達も、もう鉱山送り決まりそうなのに、なんで、そんな飄々としてるのよ!あっちに行ったらもう、骨拾いに行くしかないのよ…」


 そうだった。

 俺たちはそろそろ、この訓練所を追い出されて、死地に向かうことになっていた。

 ああ、いやだ。どうにかならんかね。


「なあ、ベーラ。お前のお父さんに相談して、俺たちを雇ってくれないかな?」

「はあ?」

「ここまで鍛えた体で、ボディガードするぞ。」

「サーノあんた、商家が用心棒とか、戦力を持つことが難しいの知ってるでしょ。王家に許可がいるのよ。」

「じゃ、俺たちが、ベーラの夜伽の相手になるとか?」

「ああ、それなら、許可は要らないわ。って、死ねよ!」


 あら、やだ、これ楽しい。

 というか、ルッソもベーラも顔赤くすんなよ。なんか青春の甘酸っぱさがあるじゃないか。


 仕方ない。

 こうなりゃ奥の手、鑑別スキルだ。俺が優秀な医者であることを証明するのだ。


 えっ?、という感じで、ベーラがくすぐったそうにモゾモゾしたところで、俺は言い切った。


「俺たちを医師として雇ってくれ。」

「はあ?医師ってあんた達、黒じゃないの。医師の鑑定色は白でしょ。鑑定色偽ったら、最悪死刑よ。バカ言うのも休み休みにして。」

「お前のその頑固な便秘を治せたとしたら?」


 ドヤ顔決めてやった。


 借り物のイケメンすまし顔だ。

 ほら、早く俺の有能さを認めろ。ほら、早く。

 と思っていると、


 俺たちを隔てていた木の格子が、突如木っ端微塵に吹き飛んだ。


「死ねぇぇ!!」

 ベーラが初代○ルトラマンの変身シーンみたいに、面会室の境界を突き抜け、グーパンで目の前に迫ってきた。


 バシィ!!!


 同伴していた速記官が記録を中断して、ベーラの拳を手で受け止めた。あと少し遅れていたら、強烈なストレートが俺の鼻先にめり込んでいただろう。


 速記官ナイス!


 ベーラは手を封じられた後に床に抑えられ、悔しそうに床を叩いている。


「どうしたんだ?」

 俺は、ベーラの凶行の意図を問うと、

「「どうしたんだ、じゃねーよ!!」」

 ベーラと速記官は口をそろえた。


 スキルで見たレントゲン像では、確かに大腸ガスが溜まっており、どう見ても頑固な便秘である。

 とはいえ、便秘の中にも、腸の動きが悪い機能性便秘と、大腸癌などが原因で、糞詰まる器質性便秘があるわけだが、この二つを見分けることは、レントゲンでは難しい。

 といっても、診断には十分だ。


 速記官はスッと立ち上がった。

 背が高い。女子バレーボール選手くらいあるんじゃないか。

 ホワイトブロンドのベリーショートに黒い制帽は映えるが、そのツバを直しながら、

「訓練生、サーノ。貴様のベーラ嬢に対する態度は目に余る。破廉恥罪で、異端審問にかけてもいいんだぞ。」

 と、速記官がすごんだ。


 たぶん今のパンチに対する反応からして、ただの文官ではなく、異端審問者なんだろう。

 おそらく戦闘力は高い。口元のほくろで妖艶に見えるがそれ以上の迫力がある。

 ルッソとベーラの血の気が引いていく。


「も、申し訳ありません!ほら、早くサーノも謝罪して!」

 ルッソが俺の頭を押さえ込んで謝罪を促す。


「速記官殿。僭越ながら、汝、隣人を愛せというのが、モルティ教の教義だったと思います。」

 俺はルッソの手を優しく振りはらい、速記官に向かって言った。


「ほう、貴様の言葉は、愛どころか、婦女子の心を踏みにじっているわけだが、それはいかんとする?」

「私は、ベーラを愛しています。」

「は?」


 ベーラは目を白黒させて、「はわわ…」と声にならない声を上げている。

「同じようにルッソを愛しています。」

「えっ!」


 ルッソは後ろに手をやり、おしりを隠した。



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