表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/77

第65話 危ない女認定

 マルカスタが、娼館で育ち、男に襲われたことをきっかけに、娼館から逃げ出し、抽出師としての才能を見出してくれた先代と出会う。先代は、マルカスタの鑑定色を()だと見抜き、訓練所送りにならないよう、鑑定の儀をボイコットさせていた。


「しかし、鑑定の儀を受けないってアリなのか?」

「私は、娼館から逃げ出した時に、死んだことになったのよ。先代がどうやったか知らないけど、身代わりの水死体が引き上げられて、それが私ってことになったらしいわ。」


 …先代も、黒い仕事をしてたんだな、きっと。

 大丈夫なのか?この世界の医師や、薬師は。

 アウトロー過ぎるだろ。


「これで、私の話はおしまい。先代と一緒に、いろいろな物から毒を抽出しようとしたり、人から魂を取り出そうとしたり、実験もたくさんしたけど、その話は別の機会にね♡」


 …魂の抽出ってなんだ?怖すぎるわ!


 先代も、不幸な身の上のマルカスタに、慈愛を注いでくれただけかと思ったら、なかなかのマッドサイエンティストぶりを発揮していたようだ。


「お茶のおかわり要る?私もサーノに聞きたいことがあるの。」

「あぁ、分かった。」


 マルカスタは、ティーポットとカップを手際よくトレイに載せて、奥の部屋に戻った。


「ふー。」

 隣でルッソが盛大にため息を吐いている。

 たしかに、スリリングな話だった。


「でも、サーノ。確かに訓練所の図書館でも、抽出師なんてジョブはなかったから、たぶん黒なんだろうね。」

「そうか。他の色の可能性はないのか?」

「黒以外の鑑定色は、どんな適性があるのか、国をあげて調べているからね。抽出師が黒以外なら、たぶんその概要くらいは明らかになっていると思うよ。それか、国がトップシークレット扱いしているかだね。」

「マルカスタが俺たちを騙して何かを企んでいる線は?」

「うーん。分からないけど、僕たちを騙したところであんまり、旨味がないよね。」


 それもそうか。


「あとは、マルカスタがお金を借りられないのも、やっぱり鑑定色が関係してるんだろうね。あれだけ腕がいい薬師だったら、どこもお金貸してくれるよ。商売絶対うまくいく。」

「黒だから資産凍結されるってか。確かに、冒険者ギルドでは白い目で見られたしな。」


 俺たちがマルカスタの身の上話を振り返っていると、

「お待たせー。」

 いい香りとともに、マルカスタがお茶と、パイ生地に包んだ何かを運んできた。


 グー。


 俺の腹が鳴る。

 さっきまで、腹を一文字に斬られていた患者の態度じゃないなと苦笑いした。


「おなかをすいているなら。どうぞご遠慮なく。」

 マルカスタはニコッと笑って、俺の前に皿を置く。


 パクリ。

 これは、なかなか。


 あまーい。うまーい。


「スネークビーの毒は麻酔薬にも使えるけど、蜜もとれるのよ。それを抽出すると、なかなかイケるでしょ。」


 イケる。

 まるで、スイートポテトパイといった食感だ。


「そんなに童貞みたいにがっつかないで。」

 マルカスタは苦笑いしながら言う。

 夢中で食べていた俺は、自分でも分かるくらい赤面した。


 だってさ。こちらの世界に来て、甘いものなんてほとんど食べたことなかったんだぜ。


「俺にとって、童貞っていうのは、最高の誉め言葉ではあるが、こんなにおいしい料理は初めてだ。なぁ、ルッソ?」

「うん!マルカスタさんは本当に料理が上手だね!」

「ありがとう。素直に受け取っておくわ。」

 マルカスタが微笑む。


「それで、俺に聞きたい事って何だ?」

「そうそう。」


 マルカスタは、袋から破片のようなものを取り出し、トレイに置いた。

「これ、ブルストンが落としていったものだけど。あなたが割った?」

「…」


 ルッソが俺の顔を覗き込む。

「サーノ、これは?」


 ブルストンが来た時すぐに、ルッソに衛兵を呼びに行ってもらった。だからルッソは、俺がブルストンの鑑別に失敗したことを知らない。

 とにかく、スキルの事がバレるのはよくない。ここはオトボケサーノの一択だ。


「さぁな。」


 マルカスタはチラリと俺の顔を見た。

「これは、恐ろしく高価な対魔具よ。一回に限り魔法をキャンセルする。」


 マルカスタはテーブルに手を置いて乗り出し、俺に向かって顔をどんどん近づけてくる。

 …近いな。振り返れば奴がいる状態だ。


「何が言いたい?」

 俺は、マルカスタから目を離さずに言う。


「隙をついてブルストンに魔法を使ったんじゃない?しかも強力な魔法を。」

「…何のことかさっぱりだ。」


 マルカスタはルッソの顔を見た。ルッソはギクリとした様子で、マルカスタから目をそらす。

 

 おいおいルッソ。そりゃバカでも怪しいと思うぜ。


 マルカスタはふぅとため息をもらし、再び俺に視線を戻した。

「隠し事しているわね。私は、洗いざらい話をしたのに、あなたたちは、ダンマリなわけ?」

「…」


 確かに、そう言われたらフェアじゃない。マルカスタは俺たちを信じて、スキルや身の上のことを話してくれたわけだ。

 

…仕方ない。


「…俺は、敵の能力が分かる。」


 マルカスタは、大きく目を開いた。

「…そう思ったわ。あなた不思議と、患者の病気を見抜くからどうやっているのか気になってたの。魔法を使っていたのね。」

「…まぁそうだ。」

「まぁって何よ。」


 医者の診断を魔法と言われると、それは違う。

 病気の診断は、科学の歴史であり、人類の叡智えいちの結晶であり、医師の熟達であり、努力の賜物だと思うのだ。だから魔法と言われると、イカサマのようで、とても後ろめたい気持ちになる。

 地球で頑張っているご同輩。俺は、診断の努力もせず、研鑽けんさんを積むことなく、魔法だけで診察するようになってました。


「申し訳ありませんでした。」

 俺は地球に対して土下座した。


「何でよ?すごいじゃない!医師のスキルは『白魔法で治るかどうか見立てる』って言われてるから。もっとも、医師会はそのスキルを秘匿ひとくしているけど。」

「そうなのか?」


 この世界では、白魔法で治せないものを、医師が対応しているってことか?


 マルカスタは、グラマラスな胸元から瓶詰の薬液を取り出した。

「これが何か分かる?魔法で見抜いてみて。」

「…わかった。」


 俺は鑑別スキルを使った。

 生物以外に使うのは、毒があるかの判定の時だけだが…


 結果は…


 何もわからなかった。


「分からない。」

「そうなんだ。」

「俺は医者だ。生き物相手の仕事なんだ。」

 少し負け惜しみを言ってみた。


「じゃ、これはどう?」

 マルカスタは、小さな籠に入った生き物を取り出した。ハツカネズミに似ている。

 俺は鑑別をかけたが、特に異常のないネズミだった。


「こうしたら…」

 マルカスタは先ほどの薬液をネズミにかけてみる。

 ネズミの動きが止まった。


「死んだ?」

 とマルカスタは聞いてくる。

 ルッソがネズミから目を背ける。


 ネズミに鑑別をかけると、状態が、『睡眠』と出た。


「いや、寝てるだけだ。」

「ご名答。」

「なんの真似だ?これ以上のなぞなぞをすると、危ない女認定するぞ。」

「何よ、危ない女認定って。まぁいいわ。サーノは、何の効果か分からない薬液でも、生体に使ってみると分かるんでしょ。私、効果の分からない薬液をたくさん持っているの。」

「危ない女だな。それで?」

「5000万エムルの大金を1週間で用意するなんて、まともに働いてたら無理に決まってる。あなたの治療院でもね。そうでしょ、ルッソ?」

「…無理です。」

「じゃ、冒険で一獲千金狙いましょうよ。ブルストンの持ってた対魔具のような財宝を見つけられれば、イケるわ!私の薬液を魔物にかけまくって、荒稼ぎするのよ!今まで、なんの効果があるのか、持て余していたけど、置いてて、よかったわ!」


 本気マジか、この女…



 俄然やる気が出たマルカスタに引っ張られて、俺たちは冒険者ギルドにやってきた。


 マルカスタは、自分の持ち込んだ薬液を、あたり構わずぶっかけてやると、汁男優顔負けの意気込みを見せているが、そんなにうまくいくもんかね。


 マルカスタのやる気と裏腹に俺のテンションは下がっていた。冒険に出るとなると、治療院を休業しないといけないしな。

 せっかく治療院の評判も上がってきたところなのに。

 なにより5000万の大金を稼げるとは思えないし、冒険野郎みたいな危険なことが俺は大嫌いなのだ。


 その時である。


 今からストリップショーでもするんですか、と言わんばかりの、極度に露出した女剣士がカウンターに向かって歩いていた。


 俺の視線は、女剣士に釘付けだ。

 あれが、いわゆるビキニアーマーってやつか。


(よし!あの子と夜の冒険に出かけよう!)


 俺は、決死の覚悟でナンパすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ