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第56話 O府あるいはオーク

作者としては、大阪を愛してやまないのですが、設定上ディスることになります。ご容赦ください。

 一夜明けて、俺たちはロビンの金を原資に、手術に必要な薬剤や治療器械を買い付けに行った。また、ロビンを治療した離れの2階建の小屋をラガンが貸してくれるというので、そこで治療院をやることにした。ちなみに2階は俺と、ルッソとフンドが下宿させてもらうという住み込みスタイルだ。


 ロビンの腹蛇、つまり絞扼性こうやくせいイレウスを治療したという噂は、冒険者たちの間で広まっており、食あたりだろうという腹痛も、()()だと心配して来院する者もいた。

 あらかた問診、身体診察、レントゲン、エコーで診断はつくものだ。ほとんどが、経過観察で治るもので、手術が必要なケースは多くはなかった。


 そうして、普通の診療をして、適正価格で対応していたら、治療院は流行はやってきた。


 俺はお金ほしさに、必要以上の金銭や、患者からのプレゼントを要求しようとしたが、ルッソたちにいさめられ、ロビンの言葉通り、適正価格から値上げせずに頑張った。


 実際のところ、俺とルッソとフンドの生活費と家賃程度であれば、そんなに高額にならない。ベーラの実家が支援を申し出てくれたが、ひも付き援助のリスクもあるので、俺は断った。

 『妙なところで頑固なんだから。』とベーラに、ふくれっ面をされたが、これはこれでいいのだ。



 治療院での診療が一息ついた昼下がり。

 ルッソとフンドも市場に買出しに出たため、久しぶりに一人の時間となった。


「仕方ない。前世の記憶を頼りに自慰でもするか。」


 おもむろにズボンを下ろしパンツ一丁で着座する。


 自慰と言えば、高校の同級生だった八田君を思い出す。


 彼は、授業の間の休憩時間10分間ごとに、トイレで自慰行為をするということで、ギネス記録を狙った。もちろん、オカズなどなく、彼の想像力だけの戦いだ。

 八田君は、八田式右脳訓練法という脳トレを開発するべく、様々な鍛錬に挑んでいた。彼は結局、東大に現役合格するのだが、『想像力を極限まで高められる者が受験を制する』という教えを説いて回り、学校での成績は常にトップで、級友ひいては教師からも一目置かれるようになっていた。

 2階の男子トイレの一番奥の個室は、『八田専用機』と書かれた紙が貼られ、そこで、ギネス記録に挑むことになった。もちろん、休憩時間ごとに1回というのは、思春期男子ならだれでも可能な回数だ。八田君は違う。10分間の休憩時間に5回行う。そして放課後までの6回の休憩時間で、計30回発射するという挑戦だ。

 最終6限目が始まった時に、傍目にも八田君はもはや満身創痍だった。それもそのはず、すでに25回の射撃を終えていたからだ。6限終了のチャイムがなる。八田君は、フラフラになりながら椅子から立ち上がった。教室中が静まり返る。『もう立つな』涙ながらに懇願するモブ高校生もいた。しかし、八田君は彼らに、サムズアップし、『僕は、イかなきゃならない』と言い残し、八田専用機に突入したのだった。

 あまりに無謀な戦いに、俺たちは固唾を飲んで見守った。耳をすませば、『逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ』という八田君の声と、摩擦音が聞こえてくる。もはや何を想像しているか分からなかったが、最終的には、ギネス公式認定員が八田専用機の中を確認し、ついに、授業の合間だけで30回フィニッシュという大記録を打ち立てたのである。

 学校中が歓喜に沸き、俺たちは、八田君を胴上げしたのだった。




 フフフ、いけない。


 一度でも前世の記憶を頼りに自慰を試みた者なら分かるだろうが、こうしてズボンを下ろしてみると、自分の中高生時代が走馬灯のように蘇る。


 気を取り直して、俺はパンツに手をかけ、一気に脱ぎ去ろうとした時のことである。


「サーノ、大変だよ!!」

「どうしたぁ!!」


 ルッソが部屋に飛び込んできたものだから、俺は一気にズボンを()()()()()


「治療院に、ならず者がやってきたんだよ。」

「なんだと!」


 ならず者て。イーグル〇かよ。

 

「全く何を言っているか分からないし、治療院の備品を壊してる!」

「すぐに行く!」



 俺が駆けつけると、喧騒とした雰囲気だった。

 傷病者たちは、突然の訪問者に睨みをきかせ『帰れよ!』などと言っているが、手負いのため迫力が乏しい。それに対して…

「誰の許可で、開業しとんのじゃ!ゴルァァァ!!」

「責任者出てこいや!ゴルァァァァ!!」


 ならず者っぽい連中と、おそらく衛兵が一緒に来ている。

 奴ら、患者のベッドを蹴とばしたりと好き放題だ。

 衛兵が注意しないということは、おそらくこいつらもグルなんだろう。


(まいったな。)


 こちらの衛兵は、日本の警察みたいな存在だ。警察がヤクザとグルだったらどうしようもないのだが、腐敗が進んでいるのか、衛兵とならず者のカップリングは、この街ではよくあることらしい。


「というか、ルッソ、分かるだろ?あいつらの言ってること。」

「いや、全く分からない。おぞましい雰囲気だけ伝わってくるよ!」

「…」


 パリーの時もそうだったが、方言に対して、こちらの世界は全く寛容じゃない。聞き取れるスペクトラムが狭すぎる。典型的な関西弁だと思うが。


「俺が責任者のサーノだ。お前たち何の用だ?」

「出てくるのが、遅いんじゃ!誰の許可をとって、ここで店開いてんのや!?エエコラッ!」

「許可だと?そんなもの聞いたことはない。」

「うっさいんじゃー!ゴルァァァァ!!」


 ならず者が、大声をあげる。

 その時、ルッソが前に出た。


(僕は魔物の言葉が使える!この人たちにも、やってみるよ!)


 えっ?魔物の言葉というか、これ関西弁だよ。


「開業する時には、あなた方の許可が必要だったんですか?」

「そうや!それを言うとるんじゃ!」

「まだ、こちらに来たばかりで。もう少し、事情を教えてくれませんか?」

「しゃーないな。このケープリアには、それぞれシマがあんねや…」

 それからルッソは、荒くれ者たちの聞き取りをして、若干場が落ち着いてきた。


 驚いたな。

 関西弁は、こちらでは魔物の言葉らしい。


 大阪、いや、言葉に出すのも、はばかられる。O府、もういい、オークとしよう。オークに住む人間は、戦闘力が高いと聞く。


 これは、初期研修医の時の同期の話だが、オークでは、全国でも殺人や強盗などトップクラスの犯罪率で、朝起きて、ベランダから街を眺めると一人二人の死体が転がっているのが普通らしい。

 当然、性犯罪から身を守るため、女性もヒョウ柄の服を着て、『やれるものなら、やってみんかい!』と凄む練習を、小学校から、授業で繰り返しやるということだ。


 また、修羅と書いて、なんばと読むらしいが、修羅なんばからオーク南部を結ぶ、南海電車がある。

 関西国際空港で全国的にも有名だが、戦闘民族が乗り降りする路線のため、車掌さんは全員プロレスラー出身ということだ。

 客が駆け込み乗車をしようものなら、車掌さんが「()()()()乗車か、ワレェェ!」と車内アナウンスで注意し、客も「タマ取ったろかい!」と車両後方に向かって返す、というのが日常らしい。同期が言うには、『それがボケとツッコミの文化だよ』という。


 南海電車に興味は尽きない。


 他にも、終着駅の修羅なんばでは、関空から入国した海外旅行客向けにちょっとしたサービスがある。コロナ禍で、駅員さんが、非接触の体温計を額に向けるのではなく、本物のチャカを額に突きつけ、『Are you ready?:ここがどんな所か覚悟できてんのやろうなぁ?』と聞くということだ。


 さすが、オーク南部を駆け抜ける電車だ。『阪急電車 片道15分の奇跡』という映画があったが、任侠もので、『南海電車 タマ取りへの片道切符』という映画を作ってもらいたい。コアなファンには絶対ウケると思うんだ。


 というか、東京以外に日本に住める場所はない。俺が学生時代を過ごした地方医大はひどかった。県庁所在地である繁華街の雰囲気が、都内で例えると京急天空橋駅前なのだ。それよりも人通りが少ない。

 日本の地方は、オークを含めて既に青息吐息だ。



 と、俺が、前世を回想しているうちに、ルッソとならず者たちの対話が弾んでいて、ルッソは、応接間に彼らを案内して、お茶を出している。


 敏腕事務長かよ!


「サーノ、どうやらこの人たちは、医師会に依頼されてやって来たらしい。」


 えっ?依頼主とか絶対ゲロしちゃいけない情報ですやん。


「そうだ。穏便に済ませるためにも、早めに医師会に挨拶して上納金を払っておいた方がいい。」

 ならず者が言う。


 めちゃくちゃ、落ち着いてるね!


「サーノ、どうする?医師会のやり方は、ちょっと強引な感じもするけど…」

 ルッソは、俺を伺うような視線を向けた。


「当然、ご挨拶に向かう。金を用意しろ。」

 俺はルッソに言った。

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