表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/77

第48話 腹蛇

今日から最終章開始です。

毎日更新頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

 ワンダ軍曹の旧知であるラガンの店で、シャバに出てきたお祝いをしていた俺たち。

 ところが、隣の客ロビンが嘔吐して、腹痛を訴えた。俺は鑑別スキルーレントゲンモードーから腸閉塞ちょうへいそくと判断し、ルッソ、ベーラとともに、ロビンの治療をすることにした。


「さぁ、救急医療ワークアップだ!」

「えぇい、邪魔だ!ベーラ嬢ちゃん達も早く店から出てってくれ!」

ラガンが俺たちを完全に邪魔者扱いする。


「…いや、あの、ラガンさん。俺たちこの病気治せるかもしれません…」

 俺は恐る恐るラガンに提案してみた。


「はぁ?バカ言ってんじゃねーよ!この腹蛇はらへびになったら大体オダブツ、、なるんだよ…」

 この酒場「熊のねぐら亭」のマスターであるラガンは、ロビンを気遣う様子で目線をやり、フロアに横たわって苦悶の表情を浮かべるロビンに優しく手を当てる。

「と、とにかく、今日は店じまいだ。さっさと行ってくれ。」


 とりつくしまもない。


 ベーラはしゃがみ込み、ウェーブがかったダークブロンドの髪をかき上げながら、ラガンに尋ねる。

「ねぇ、ラガンさん。どのみちロビンさんを運ぶんでしょ?」

「うん?まぁ、ずっとフロアに這わせておくわけにはいかないからな。」

「そこまではお手伝いさせてください。」

「…分かった。正直ありがたい。嬢ちゃんに手伝わせるのは、気が引けていたんだ。」

 

 ラガンが周りを見渡す。

「腹蛇は、冒険者の間では『縁起が悪い』ってことで、誰も近づいて来なくなる。」


 ロビンは辛そうにうずくまっていた。

 百戦錬磨ひゃくせんれんまの戦士でさえ、尿管結石にょうかんけっせきや腸閉塞は、痛みでもだえ苦しむもんだ。

 ロビンを担架に乗せ、俺とラガンは、酒場の離れの物置小屋に運んだ。そこで、テーブルに毛布を敷いただけの簡易ベッドにロビンを横たわらせる。


「腹蛇って聞いたことあるよ。」

 ルッソがロビンの背中をさすりながら口を開く。


「どう言われているんだ?」

「歴戦の猛者もさが急死するといったら腹蛇だよ。医者、白魔道士、教会のお祈りでもお手上げで、助かるか助からないかは、運次第だって。」

「そうだろうな。」


 ベーラが、ロビンの額の汗を拭きながら、俺に尋ねた。

「あんた、腹蛇の何を知ってんのよ?」

「腹蛇は言ったように、腸詰まりが原因だ。ベーラみたいに便秘で、うんこが詰まる場合と、過去の腹に負った傷で、腸が動きにくくなることがある。」

「一回死ねよ!」

 ベーラは、俺の太ももに鋭いローキックを浴びせた。


 あまりの痛みに俺は悶絶もんぜつした。


「痛いですよ!ベーラさん!」

「で、何で腹の傷で、腸が動きにくくなるのよ?」

「ロビンの腹を見てみろ。」

「うん。」

「ここに傷がある。これは腹を刺された後に、回復薬で無理矢理、傷をふさいだあとだ。そうすると、腹の中で、傷が変に治って、腸同士がくっつくことがある。これを癒着ゆちゃくというんだ。」

「癒着…」


 そうだ癒着だ。

 現代日本でも、手術をした時、この癒着をどう予防するかが、とても大切だ。癒着予防シートを、手術の時、腹に中に埋め込んで、癒着による腸閉塞を予防するわけだ。


「で、ここに寝かせてどうするんだ?」

 ラガンは、担架をおいて、ロビンの左半身が下になるように寝かした。


「腹がちゃんと動くまで待つしかないんだがな。」

「サーノ、それで大丈夫なの?」

 ルッソが心配そうな視線を送ってくる。

 

「まぁ、手術という方法もあることはあるが…」

 俺はそう言いかけたが、やめておいた。話題を変える。


「ラガン、聞いていいか?あの長細い肉料理のことなんだが。」

「あ、ミートスティックのことか?」

「そう、それだ。肉を成型せいけいしていた筒を見せてくれ。」


 ラガンは、調理場からゴム管のようなものを持ってきた。


「これか?ロングワームという魔物の抜け殻だが、丈夫で重宝している。」

「貸してくれ。」

「あぁ。」


 カウンター越しに、ラガンが調理しているところを見ていたのだが、面白いと思っていた。このロングワームの抜け殻、ゴムと同じような性質で、細長い管となっている。

 これを、鼻から入れて、小腸まで通し、イレウスかんのような使い方ができないかと考えた。


 管の先端周辺にナイフで切り込みを入れる。これで、管を入れた先の腸液を吸い込みしやすくする。


「…いてぇ。」

 ロビンが冷汗をかいて痛がっている。


 このイレウス管を小腸まで通してやれば、たまったガスや腸液が出て、痛みが軽くなるだろう。


 待ってろよ。


「よし!ロビン。お前の鼻にこの管を入れるぞ!」

「…何すんだお前、おかしなことマネするな!…いてて。」


 ちっ。


 それもそうか。


 俺が白衣を着ていたら、こんな処置に同意書も要らないと思うが。権威がないのは不便なもんだ。俺がロビンの鼻にゴム管を入れるなんて、入れられる方にしたら罰ゲームみたいなもんだしな。

 というか、医療行為自体、針で血を抜かれたり、手術と言って腹を切られたりと、正月の芸人がするような、ひどい罰ゲームばかりだ。


 その時、ルッソがロビンに優しく語りかけた。

「ロビンさん、大丈夫です。サーノは、痛みの原因を分かっています。きっと今の辛さをとってくれます。安心してください。」

「…本当か?」

「信じてください。」

「…分かった。好きにしろ。」


 何だろうな。

 俺も、ルッソの言葉を聞くと、そんな気がしてくるんだよな。


「少しの間我慢してくれ。」


 俺は、ロングワームの抜け殻の先端部に手持ちのはりくくりつけた。

 もちろん、鍼の先端は、消化管を傷つけないように、内向きにする。

 そして、ロビンの鼻にイレウス管を通していく。


 まぁ、このあたりの処置はお手のものだ。


 前世に勤めていた病院では、よく自殺目的で大量に睡眠薬を飲んでくる患者が搬送されてきたが、活性炭かっせいたんで患者の胃を洗う時には、鼻からこの管を入れることが必要だ。俺は、もはや、目をつぶっても挿入そうにゅうできるのだ。

 通すのが難しい幽門部ゆうもんぶもトライツ靭帯じんたいも、鑑別スキルを使えば、管の先端がエコーでもレントゲンでも見える。


 自分で言うのもなんだが、神業だね。


 トライツ靭帯を通る独特の抵抗感を味わいつつ、管は小腸へと抜けた。


 デュルデュルデュル…


 イレウス管を腸液が逆流していく。


 あ、やばい。


「ラガン!早く洗面器持ってこい!」

「え?」


 ビシャーーーーーー!!


 一足遅かった。


 イレウス管を通った腸液が、反対側の先端から流れ出し、ラガンの小屋を順調に汚していく。


「ちょ、ちょ、ちょ、おい!俺の店に何てことするんだ!」

「…。どうだ、ロビン。楽になったか?」

「あぁ、不思議だ。こんなことが起こるなんてな…」

「お前の腹蛇がしぼんでいくぞ。」

「あぁ、本当だ。こんなことが起こるなんてな…」

「ちょ、ちょ、ちょ、おい!話聞いてくれよ!」


 ルッソとベーラが、ラガンを手伝って、ロビンの腸液というか吐物を処理している。

 酒混じりの腸液やら吐物で、あたり一面強烈な臭いを放っていて、ラガンが少し不憫に思えてきた。


「家を汚して、悪かったな。」

 ラガンに詫びた。


「うん、まぁ。それでロビンは良くなるのか?」

「あとは本人次第だ。しばらく絶食だからな。脱水が心配だ。」

「脱水?」

「体から水気がなくなってカラカラになるということだ。」

「そうか。何とかならないのか?」

「まぁ、血管に水気を入れれたらいいんだが…」

「どうやるんだよ?」


 ラガンとやりとりしていた時、小屋の扉が勢いよく開かれた。


「こっちにいたのか。って、おいおい、どんだけゲロ臭いんだよ。今日はもう店じまいか?」

「あぁ、ドリクの旦那!今日は、ロビンが腹蛇になっちまって。」

「なんだと!それでロビンはどうした?」

「今、ベーラお嬢さん達が、治療してくれています。」

「腹蛇を治療だと?」


 短躯たんくの髭モジャと目が合う。


 これは、ドワーフってやつだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ