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第46話 守られたもの

 アンデッドドラゴンが、ダークブレスのチャージをしている頃、ルッソはヒーちゃんに駆け寄り、介抱していた。


「記憶が戻ったの?ヒーちゃん。」

「ルッソ…思い出せない。でもテノワルで暮らしていた。あの黒い笛も…見た。オモイダセナイケド、ワタシガ、マチヲ…アアア!」

 ルッソは、ヒーちゃんを抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だから…」

 ヒーちゃんの涙が、ルッソの背中にこぼれていく。

 

「ルッソ。もう私は…ごめんね。汚れているね。」

 ルッソは、ただ抱きしめるしかなかった。


 ヒーちゃんは、そっとルッソから体を離した。

 そして、ルッソの頬に手をやった。


「ありがとう、ルッソ。こんな私でも、殺さないで仲間にしてくれたこと、大事に思ってくれたこと…」

「ヒーちゃん…」

「サーノもなんだかんだ言って、私を救ってくれた。」

「うん。」


 ヒーちゃんは、サーノの後ろ姿を見やった。

「サーノはあのままだと、いずれ左手が動かなくなる。」

「そうなの?」

「私の治療が必要よ。」

「よし、行こう!」


「ルッソ。」

 ヒーちゃんが、ルッソを真っ直ぐ見つめる。


「好きよ。」

 ヒーちゃんは、ルッソの唇にキスをした。

 ルッソは目を見開いて、真っ赤になった。


「え、なんで…」

 慌てるルッソの首元に、ヒーちゃんは、針を刺した。

「え、これはなんで…」

 ルッソは崩れ落ちた。


「これは『乙女の一針ひとはり』と言って、男に襲われたら刺して眠らせるの。本当に大切な人と結ばれるまで、自分を守るため…」

 ヒーちゃんの大粒の涙が、ルッソの顔を濡らす。

「忘れないわ、あなたのこと。」


 「生きて」とヒーちゃんはつぶやき、サーノの元に向かった。



 アンデッドドラゴンのダークブレスと、ワンダ軍曹の飛び蹴り(ワンダーキック)がぶつかった時、とんでもない衝撃波が起こり、周囲の地面はえぐれた。


「ひえぇ!」

 俺は、その衝撃波に耐えきれず吹き飛ばされ、地面に伏せながら、高エネルギーのぶつかり合いを見守っていた。


 まさかの拮抗状態だ。


 ダークブレスと、紅の炎に包まれたワンダ軍曹のワンダーキックとが拮抗している。ワンダ軍曹がどうやってキックの姿勢を維持しているのか分からないが、紅のオーラがジェット噴射のように推進力になっているんだろう。


 小石とかいろいろ飛んでくるので、目も開けていられない状況だが、これで、俺たちの運命が決まると思うと目が離せない状況だ。


 その時だ。


「サーノ!」

 後ろから呼びかけられた。ヒーちゃんだ。


「ヒーちゃん。ここは危険だ。離れて。…ルッソはどうした?」

 俺の警戒心が跳ね上がる。


「ルッソは大丈夫。私のカミングアウトが重たくて、頭を整理しているみたい。それより…」

「カミングアウトて。というか、ヒーちゃん、言葉が堪能に…」

 俺の言葉をさえぎるように、ヒーちゃんが左手を掴んだ。


 ドキリとした。


 あぁ、分かった。

 フフ、若い男子にはよくある勘違いだ。

 ルッソとヒーちゃんは相思相愛の感じがなんとなくあったが、ルッソってば、それに釣られて告って、フラれちゃったんだな。っていうかお前ら、運命の決戦時に何やってんだよ。


 まぁ、なんつーか。ルッソ、ゴメンな。俺、モテちゃうから。


 ふと、ヒーちゃんと目が合うと、冷徹な眼差しを向けられた。


 あれ?バチが当たったかな?

 ルッソから俺に鞍替くらがえした雰囲気には全く見えないぞ…


「これで大丈夫。左手は自由に動くはず。」

「…ありがとう。治療をしてくれていたんだな。」

「それしか、あなたにすることはないわ。」

「…そうか。」


 …中年の勘違いヤローって、救いがないな。

 

 ヒーちゃんが、アンデッドドラゴンに目を向けた。

「じゃ、私行くわ。」

「ちょ、待てよ!何する気だ?」


 ヒーちゃんは振り返って、俺に中指を突き立てた。

「ググレカス」


 他人の気持ちは、ググっても分からないでしょ!


 俺は髪が気になり頭に手をやっていると、ヒーちゃんは、ニコッと笑った。

「ありがとう。サーノ。」


 その時、大きな石が俺の目の前に飛んできた。あっと思った時には、ヒーちゃんは、アンデッドドラゴンの元に走り去って行った。


 どいつもこいつも、戦闘中にニコニコとフラグを立てやがって!

 知恵絞って、みんなで帰る方法を考えろよ!


 俺は、ヒーちゃんを追いかけ、戦いの激震地へと向かう。


 *


(これは、マズいな…)


 もう目も開けて見ていられないが、二人のエネルギーのぶつかり合いは、無尽蔵のパワーを誇るアンデッドドラゴンのダークブレスが優勢になりつつあった。

 ワンダ軍曹の背中が徐々に地面に着きそうだ。


「フハハハハ、所詮ハ矮小ナル者、消エテ無クナレ!!!」

 ダークブレスがさらに噴き上がった。


「…ナンダ?」

 ヒーちゃんが、アンデッドドラゴンの背中に抱きついていた。


「何する気だよ!ダメだって!!」

 俺は叫んだ。


 ヒーちゃんが、俺を見た。目には涙が溢れていた。

 

「泣いてるじゃねーか!!死ぬのが怖いなら、戻って…」


 俺の言葉はヒーちゃんには届かなかった。


「浄化の礎になれ。サクリファイス!」

 ヒーちゃんを中心に太陽が現れたかと思うほど、白い閃光が周囲にほとばしった。



 グギャーーーーーー!!


 アンデッドドラゴンが悲鳴をあげる。




 光が収まると、ヒーちゃんはどこにもいなかった。

「…ヒーちゃん、自爆しやがった…」

 

「虫ケラガーーー!!!」

 アンデッドドラゴンを見やると、なんと、ただれた黒い肉と骨の化け物が、肉厚の筋肉に包まれた、ファンタジーでよく見るドラゴンに変わっていた。


(ヒーちゃんが、アンデッドを解除したのか?)


 俺はまさかと思い、アンデッドドラゴンに鑑別をかけた。

(鑑別スキル:ステータス)


― 名前:時代によって変わる、種族:古代竜、Lv:70、状態:疲労、弱点:頸部、心臓部、スキル:ダークブレス ―


 が表示されたのと同時に、弱点の赤いポイントが識別されるようになった。


 ややダークブレスの勢いが弱まったようでもあり、ワンダ軍曹のワンダーキックも盛り返してきた。


 「クソー!ゴミ虫ドモガ!!」

 明らかに迫力がなくなり、古代竜の言葉に焦りが滲む。


 今しかない。


 俺は、近くに落ちていたワンダ軍曹の刀剣を拾い、古代竜に全力疾走した。


 ヒーちゃん。かたき取ったるぞ!


(ダーク!)


小賢コザカシイ真似ヲ!!」

 古代竜が、ブレスを吐きながらも、視界を奪われてかぎ爪をむやみやたらに振るう。


 俺は、かぎ爪から放たれる黒い刃をすり抜け、跳躍した。

 頬を黒い刃がかすめるも、古代竜の頸部に刀剣を突き刺した。

 その瞬間、突き刺した部分がフラッシュした。



 グギャギャギャギャーーーー!!!


 古代竜の悲鳴が響く。


「ワンダ軍曹!!今です!!」

「最高のアシストだ、サーノ!ワンドゥァーキィッーーク!!!」


 ついに、ワンダーキックが拮抗していたダークブレスを押しやり、ワンダ軍曹が紅い火の玉となって、古代竜の心臓を貫いた。



「吾輩ガ、敗北スルダト…?」

 すっかり体の内部が吹き飛んだ古代竜は、たおれた。


 俺は、空を見上げた。


 勢いよく古代竜を蹴破り、天高く舞い上がったワンダ軍曹が、まさに全力を尽くして落下している途中だった。


 落下地点に急ぎ走り、ワンダ軍曹の体を受け止めようとする。


 トン!


 拍子抜けするほど、ワンダ軍曹の体は軽くなっていて、着地の衝撃でワンダ軍曹の足首が砂のように消えてしまった。

 ワンダ軍曹の細胞全てが消耗し切ったことを、抱える腕から感じ取った。


「ワンダ軍曹…」

「…サーノ」

「なぜですか…?クララさんが亡くなった分、父親として一人前になるまで、フンド君を育てるんでしょう。子どもに手をあげた拳の痛み、心の痛みを忘れないで、父親としてフンド君を何回でも愛するんじゃなかったんですか!?」

「…」

「どうするんですか?俺と違って、我が子を抱きしめられるのに…俺、フンド君に何て言えばいいですか…死なないでくださいよ…」

 俺には、涙を止められなかった。ワンダ軍曹の体はサラサラと消えていく。


「…サーノ…出来損ないの父親からの…最後のお願いだ…フンドを頼む…」

 最期に力強い眼差しを俺に向けて、ワンダ軍曹は砂となって俺の手からこぼれ落ちた。


「当り前じゃないですか!」

 俺は号泣した。



「サーノ!」

 ルッソが、俺に駆け寄ってくる。


「これは…」

 事の次第を、ヒーちゃんのこと、ワンダ軍曹の事を、俺はルッソに伝えた。

 ルッソはしばらく声を出せないでいた。


 俺は鼻をすすりながら、

「ルッソ。ワンダ軍曹やヒーちゃんが命を懸けて守ったものを、俺たちも、守るぞ…」


 風がビュッと吹いた。俺は空に誓った。

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