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第3話 鑑別スキル覚醒

「今日の身体訓練は、特別にワンダ軍曹が監督のもと行う。新入りのために言っておく。軍曹は、手強い魔物と死闘を繰り返し、もはや軍曹を見れば、魔物が逃げ出すと言われるほどだ。軍曹もこの訓練所で鍛錬を積まれた。各自、軍曹に指導いただけることを喜び、励め。以上だ!」

 と、おそらく普段の身体訓練の担当教官が説明した。


 犬のワンダ軍曹…

 誰も笑っていないところをみると、これは異世界テンプレの獣人だな。

 体格は2メートルほどあって、後ろに並んでいても、ワンダ軍曹の堂々たる体格が目に入る。


 俺はルッソと、訓練スペースに走り、他の訓練生の見様見真似で筋トレみたいな動きを繰り返す。担当教官が、数を数えるのでそれに合わせて、ワークをする感じだ。


(意外と体が動く…)


 死ぬ前はあまりに激務で、それこそ体を鍛える暇もないほどだったが、自重トレをやっている時と比べても体が軽い。

 とはいえ、おっさんの時と比較してだ。俺も16歳だった時は、こんな感じだった気もする。

 隣のルッソは、時々懸垂が上がりきらず、教官に罵声を浴びながらも頑張っている。


 次のワークは片手腕立て伏せだ。

 これがなかなか大変で、結局ボトムポジションから上げ切ることができず、俺はバランスを崩した。

 

(これは無理だね。適当にサボろう。)


 ふと顔を上げると、ワンダ軍曹と目があった。

 

 えっ、死ぬ?


「どうした?続けろ。」

「はい!軍曹!」


 軍曹の気配を背後に感じつつ、俺は再度、片手腕立て伏せに挑むが、やはり上がらない。

 プルプル震える脇腹に軍曹の鋭い蹴りが入った。


「…っ!」

 かなり飛ばされた。

 横隔膜が動かない。

 やっとの思いで息を吸い込もうとしたが、ムセこんだ。


「貴様の色は何色だ!?」

「く、黒です、軍曹…」


 実は、他の訓練生がしごかれている時に、どんな受け答えが求められるかは見ていた。

 語尾に「軍曹!」と付けるのがどうやら正しいらしい。


 質問にも端的に答えなければいけない。


 この「貴様の色は何色だ?」は職業鑑定の儀の色を問うているわけであって、パンティーの色を聞いているわけではない。この場所にいる全員が、黒だ。


「貴様は無能の黒か!?」

「違います!軍曹!」

 やっと息が吸えるようになった。俺が答えられるように少し時間をもらった気もする。


「貴様が黒で、父親は嬲り殺されたか!?」

「はい!軍曹!」

「貴様が黒で、母親は陵辱され、慰み者にされた上で殺されたか!?」

「はい!軍曹!」

「貴様が黒で、兄弟はいたぶられ、散り散りになったか!?」

「はい!軍曹!」

「貴様が黒で、貴様はクソ以下の扱いをされてきたか!?」

「はい!軍曹!」

「全部貴様のせいだ!貴様は悔しいと思わんのか!?」

「悔しいです!軍曹!」


 みんな、このやり取りをやっているので、それに従っている。


 俺は、サーノがどんな事情を抱えていたか知らない。


 多分、みんなそれぞれの事情があると思うのだが、こうして、やり取りしていると、鑑定色が黒ってだけで、不条理にも親兄弟が惨殺された気がして、腹が立ってくる。くそー。


「立ち上がれ!貴様の本気を見せてみろ!!」

「はい!軍曹!」


 再度、俺は片手腕立て伏せにチャレンジする。

 ぼんやりと体が光っている気がして、あんなに上がらないと思っていた体を持ち上げることができた。


「よし!その気概を忘れるな!!」

「はい!軍曹!」


 身体訓練の時間が終わり疲労困憊だが、あの腕立ての不思議な感覚は残っていた。

 同じく倒れそうになっているルッソに話しかける。


「軍曹の訓練って、前回いつ頃だ?」

「そうだね、2年くらい前じゃないかな。かなり前だよ。それにしても、サーノ。君、引き当てるね。前回も、軍曹にしごかれてたよ。」

「男に好かれても意味がない。しかし、あのしごきはキツイぜ…」

「確かに。でも軍曹も獣人だから差別を受けつつも、実力だけで、のし上がってきた人なんだ。僕たちみたいな黒に、少し共感するところがあるのかもしれないね。」


 差別ね。


 人は見た目や肌の色だけで簡単に差別する。

 獣人と呼ばれる亜人が、迫害を受けてきたのは想像に難くない。


「それに、軍曹のしごきって、なんか勇気が出るだろう?」


 いやいや、内臓破裂するくらい蹴り上げられて、耳元で、『全部貴様のせいだ!』だなんて言われたら、豚でも木を登るだろ。殺されるかと思ったぜ。

 しかし、ルッソの目がなぜかキラキラしているので、グッと言葉を飲み込んだ。


 ルッソてば、ドMなのかな。


 その後は夕食の時間だった。

 訓練所は特に年齢に関係なく、その実力によって、最強の第1組から最弱の第5組と序列が決められている。年に1回秋に行われる御前試合で、その序列を判定するらしい。俺とルッソは、()と織り込まれた訓練服を着ているので、()と書かれた汚らしい食堂を使わないといけない。


 本当は食事中も私語はしてはいけない。ただ、ルッソは、俺に付き合い、いろいろ疑問に答えてくれた。

 この訓練所は、正式には、西国王立職業訓練所といい、貿易都市ケープリアの郊外にある国内唯一の施設らしい。国中の黒色の若者を探しても、この収容所に入る程度の数なんだから、黒の鑑定色の人間は珍しく、そして役に立たないクズだそうだ。

 西国というのがこの国の名前だが、他にも北国、東国、南国、中原の国という5つの国が、このヒューマリア大陸にあるらしい。ワンダ軍曹のような獣人のルーツは南国だと、教えてくれた。


 ルッソは本当に博学だ。


 ルッソが言うには、『一度聞いたことは忘れない』ということだ。

 なにその能力。

 俺にもそんなチート頭脳があればなぁと思って、ルッソを見る。


(あ。)


「いやいや、そんなくすぐったく見つめないでよ。」

ルッソが肩をすくめながら言う。


 くすぐったく見つめるという意味が分からないが、急に胸部レントゲンみたいにルッソの骨だけ映し出されたと思うと、


ー 名前:ルッソ 種族:ヒューマン、Lv:3、状態:普通、弱点:不明、鑑定色:黒 ー


 と表示された。


 ステータス…これか、女神が言ってた『適当なスキル』っていうのは。


 トクンと心臓が脈打ち、俺もルッソにときめきそうになったので、一旦目を閉じて、普通に眺めたらステータス画面がなくなっていた。ルッソも骸骨から普通の姿に戻っていた。


 再度『ステータス』と念じてルッソを見やると、やはり骸骨になった。


「だから、そんなくすぐったく見つめないでよ。」


 くすぐったく見つめるという意味が分からないが、(略)


 えっ、これスゴくない?ステータスとかレントゲン像とか。

 鑑別スキルだよ!俺の現代医学の知識がガッツリ役に立つのだ!!


 でも、見られた方は、くすぐったくなるようだからあまり多用しない方がいいよね。


 消灯の時間になり、俺は二段ベッドの下で息をつく。

 夕食は、意外においしかったし、こうして寝るスペースを与えてもらっているので、完全に囚人扱いというわけでもなさそうだ。


(ステータス)


 自分のステータスを見る。

― 名前:サーノ・アウエル(佐野トオル)、種族:?、Lv:3、状態:普通、弱点:不明、鑑定色:黒、スキル:鑑別Lv1 ―


 と出た。


 ステータスを見ることが鑑別Lv1に相当するんだろう。またこの心臓が脈打つ感じの期外収縮きがいしゅうしゅくが出るのも、鑑別スキルを使う時の副次的効果だと思う。


 ルッソにはスキル表示の項目が出てなかったから、まだスキルに目覚めていないということだろうか。

 俺の種族が「?」というのも気になるが、これは転移の影響かもしれない。

 いろいろと考えることが多いが、強烈な眠気が襲ってきた。


 また脳出血したら嫌だなと思いながら、俺は眠りに落ちた。すると、


(ハイサイ!サノトオル)

 若い男が話しかけてきた。

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