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第35話 告白

 屋敷で謎の笛を発見し、オークションで売り捌くため持ち帰ることにした俺とワンダ軍曹。屋敷を出たところで、ワンダ軍曹は、剣を俺の背中に当て、謎の笛をネコババしようとしている。


「…どうか命だけは助けてください。笛を売った分け前は、3分の1でいいので。」

「…いや、そういうことじゃない。」

「じゃ、4分の1でお願いします。生活費が…足りないのです。」


 泣き落としに入る。

 認知症の母…いない。難病の妹…いない。ギャンブル依存症の父…いない。あっ、俺、天涯孤独だった。


「当面の生活費は、訓練所から出るだろう。いや、金のことじゃない。お前は人間か、と聞いている。」


 それは、ちょっとキツイ質問だな…


 『それでもお前人間か?』と聞かれたのは何度かある。嫌な思い出だ。


 俺が救急医長になりたてのころだ。救急外来で睡眠薬の長期処方を希望する妙な患者の対応に思わず、『そんなに長く睡眠薬なんか出せねーよ!』と暴言を吐いた研修医がいて、患者がますますヒートアップして仲裁に入ったことがあった。

 救急外来での処方とかかりつけ医の2重処方になるかもしれないから、長期間の睡眠薬の処方は、かかりつけ医でしてもらうように説得した。

 しかし、『私が眠れなくて死んでもいいっておっしゃるの?…この医者の面をかぶった悪魔が!クソが!!』とこちらを何度も目をむいて罵倒するようになったので、警察を呼んでお引き取り頂いた。

 まぁ患者に罵倒されるのも、救急医のあるある話だ。


「真心のある人間でありたいと思ってはいます。」

「私もだ。…いや、そういうことではなくて、お前の魔法は一体何をやっているのだ。また、どうして魔物の種類が分かる?そんな技は聞いたことがない。それに、お前と戦う魔物は弱体化する。それはお前が魔族だからではないのか?」


 背中に当てられた刃に緊張がみなぎる。


「…」


 悩ましいところだ。


 『異世界からぶっ飛んできてサーノに憑依しやした、すんまへん』と言って、本物の異端殲滅騎士団に駆除されないか?

 ただ、ワンダ軍曹はそうしたマネをしないと思う。

 それに、変な嘘をついて、俺の背中に向けられた剣が、勢いよく、刺し込まれても面白くない。


 …正直に答えよう。


「…元々違う世界から来ました。」

「…そうだったのか。」

「正直に話しますので…剣をおさめてください。」

「…わかった。」

 俺は、ワンダ軍曹から剣呑な雰囲気が少し消えてきたところで、振り向いた。

 

 それから俺は、地球での生活のこと、こちらの世界アンダンテに来てからの事を、ワンダ軍曹に話した。

これで、仮に異端者として追われることになれば、それまでだ。その時のことはその時に考えよう。

 ワンダ軍曹は静かに相槌を打ちながら、俺の話を聞いてくれた。一通り話をしたところで、ワンダ軍曹と目が合う。


「お前にも子どもがいたんだな。」

「はい。」

「妻子を残して、死ぬというのは、私のような騎士団に入っている者でも、悪夢として見るくらいだからな。語りきれないものがあるだろう。」


 整理してプレゼンしたつもりだったが、思わずウルっと来た。

「…ルッソに、いいお嫁さんを見つけてやるのが、出来ぞこないの父親としての役割です。」

「はは。いい奴だからな、ルッソは。」



 その時である。

 

「ギャーーーーーーーー!」

 女の悲鳴がした。


 俺たちは悲鳴がする方に駆け出した。声は城壁の外からした。断続的に悲鳴があがる。声を追って全速力で駆ける。そこには、ルッソや、レナ教官がすでにおり、レナ教官が、ヒーちゃんを介抱していた。


「どうしたんだ!?」

 俺は、ルッソに問う。


「急に、ヒーちゃんが叫んで、痙攣けいれんし始めたんだ!今は静かになっているけど。」


 俺は急いで、ヒーちゃんの脈を取る。脈はしっかり触れるし、乱れもない。残念ながら、肌が青色なので、チアノーゼの有無は分からないが、呼吸が弱っている様子もない。


(心因性てんかんによくある症状だな)


 パニック発作など、強い精神的なストレスにさらされた時に起こるものだ。おそらく、先ほどのオークの繁殖シーンが、若い女性には強烈だったのだろう。あの性欲豚を酢豚にしてやりたいくらいだ。


 その時、ヒーちゃんが目を開いた。

 

「ワタシ…ココ…ココ二スンデタ」

「え?」

「…ココ二イタ。デモ、オモイダセナイ…」

「テノワルにいたの?ヒーちゃん!」

 ルッソが、ヒーちゃんに尋ねる。


「ワカラナイ、デモ…、キャーーー!」

 そうして、またヒーチャンはガチガチと歯を鳴らして、レナ教官にしがみついた。


 まずいかもしれない。


 ヒーちゃんは、多分トラウマを抱えている。しかも、オークの繁殖シーンでフラッシュバックするようなものであれば、性暴力など、かなり重いトラウマだろう。


 俺は、研修した精神科の知識をフル回転させた。


 まずは、フラッシュバックでこじれないようにする必要がある。つまり、辛い経験を思い出させないようにして、身体的な不調を処理していくわけだ。

 そして、ここよりも敵が少ない安全な環境を用意しないといけないだろう。


(カウンセリングの基本は、患者の安全基地の確立なんだが…)


 俺が、どうしようか悩んでいる時、森の方から男が大声を上げながら走ってきた。


「助けてくれんね!!森が、森が腐っていくばい!!」


 なんだ?あの金髪野郎。おまけに九州弁。


 俺は、今、精神療法をトライしようと、忙しいんだ。


「何て言っているのかな?あの人。」

 ルッソが金髪を眺めて、そう言った。


 え…?

 ルッソ。それはいくら何でもあんまりだ。

 日本では、九州弁はかなり人気がある方言なんだぞ。地方は大事だ。みんなの故郷だ。


「あれは、純正なエルフ語に近い…私にもよくわからないが…」

 ワンダ軍曹が、神妙な顔つきで、金髪を見て言う。


 えー。エルフ語は九州弁ぽくて、しかもルッソたちは分からないのか。


 というか、指○物語に出てくる弓使いにクリソツの金髪野郎も、かなりのイケメンで舌打ちしか出ないが、九州弁というだけで少し好感度は上がっている。


 こちらも九州弁ぽく返したらどうなるのかな?


「そげんなこと言うても、時間がなか。帰ってくれんね。」


 ルッソたちの方を見ると、皆驚いた顔をしている。

「え、サーノ、なんでエルフ語喋れるの?すごいね!」


 …感動した様子だ。

 っていうか、これでいいのか?通じるのか?


「ワルは、フユヅラか!こげん言うとんのに、何もせんとね!」


 金髪野郎は、怒り心頭の様子だ。フユヅラって何だろう?とにもかくにも、俺の適当な九州弁で通じるのに、ルッソたちの言語って相当ストライクゾーン狭いな~。


 とはいえ、この金髪も相当焦っている様子だし、ちゃんと話を聞くか…

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