第34話 黒い笛
2021年最後というのに、序盤最大の欝展開です。この先には、ココロオドル展開があるはず…。
ちょっと残酷な表現もあるので、苦手な方はお気を付けください。
ワンダ軍曹が、キャラ通りの脳筋で、魔物の群れに突撃を指示するので、俺とルッソも剣を抜き、ワンダ軍曹に続くという無理ゲーが始まった。
「ブレイブハート!」
ワンダ軍曹がそう叫ぶと、俺の体をぼんやりとした光が包んだ。
(これは!)
訓練所で初めてワンダ軍曹の前で、片手腕立て伏せした時と同じ光だ。
そっか、ワンダ軍曹のスキルだったんだ。
体に力が湧いてくる。イケる気がしてきた。
出し惜しみなしだ!
「獣王無尽拳弐式、多斬!」
ワンダ軍曹は、先陣を切り、すれ違う魔物をみじん切りにしていく。
相変わらず、すごい迫力だ。
(ダーク、ダーク、ダーク、そこにもダーク!)
俺とルッソは、鑑別で見抜いた魔石の位置を共有し、時々黒魔法を交えながら、一匹ずつ葬っていく。魔物とのレベルの差やワンダ軍曹のバフ効果もあるので、他愛もないことだった。
「リジェネーター」
そこで、ヒーちゃんが、体力を徐々に回復させるスキルを発動する。
回復術って凄いんだね!
そうして、ワンダ軍曹が前衛、俺とルッソが中衛、レナ教官とヒーちゃんが後衛という布陣で、テノワルの城壁際までやってきた。
(まだ、残党がいるな…)
鑑別スキルを用いると、まだ城壁内に赤く光る魔石反応がある。
悪臭を少しでも緩和しようと、俺たちは布で口元を覆い、壁内へ侵入しようとしたその時である。
「チョット、マッテ」
ヒーちゃんが呼び止めるので、一旦後方に下がり、周囲を伺いつつヒーちゃんの話に耳を傾ける。
たどたどしいながらに、ヒーちゃんが言うのは、『かなり悲惨な現場だから、気をしっかり持ってほしい』ということだった。
偵察の時、思わず魔物を殺してしまったから、見つかってしまったことを説明してくれた。
最後に『ゴメンナサイ』と言った。ルッソはその様子を見て、『大丈夫だよ』と声をかけている。
今にも泣き出しそうな曇天の中、意を決して、城壁内に入ると、そこは破壊された家々などが並んでいた。また、人の死骸に小さい魔物の幼生が密集していて、死肉を貪っていた。
レナ教官が何も言わずに、魔物ごと死骸を焼き清める。
ヒーちゃんは、まずこの死肉を貪る魔物が多くいたことに逆上し、殺してしまったのだという。そりゃそうだ。この状況は、正直救いがたい。もうルッソの顔は青ざめているからな。
こんな悲惨な光景は医療現場でもまずなかった。精神疾患を患っていて、自分の乳房が自壊するまで放置していた乳がん患者を、俺は診たことがあるが、あの臭いと少し似ている。
まぁこっちの方がひどいものだが。
ブッブッブッ
壊れた家屋の中から物音がした。
俺とワンダ軍曹を先頭に中に入っていく。
物音が大きくなってくる。
ガッと扉をワンダ軍曹が押し開く。
そこには…
腹がパックリ割れた女の死骸にオークがまだ突き入れていた。
「入ってくるな!」
ワンダ軍曹が叫ぶと、一閃。オークの首を刎ねた。
「ギャーーーーー!!!」
ヒーちゃんがこの光景を見てしまったらしく卒倒する。それをルッソが支えた。
「レナ、頼む。」
「分かったわ。」
レナ教官は、その死骸も焼き清めた。俺たちは家屋の外へ出ると、家屋ごとレナ教官が焼き払っていく。
「サーノ、ルッソ。あれがオークの繁殖だ。女を蹂躙し、オークの子種を植え付けると、子種は、一気に成長し、女の腹を割いて出てくる。そして飽きるまで死んだ女を犯し続ける。」
ワンダ軍曹が、プッと唾を地面に吐く。
「ルッソの力は魔物を仲間にする異様な技だ。しかし、人間と魔物は絶対に共存できない。それだけはよく覚えておけ。」
俺とルッソは頷いた。
*
俺たちは、魔物を殲滅しながら、町の中心にある屋敷で足を止めた。
(妙だな…なぜ、ここだけ形をとどめている?)
俺は、屋敷の中に魔物がいないか鑑別スキルをかけた時である。
ゾクリ…
背筋に悪寒が走った。
これは嫌な予感がする。
「ワンダ軍曹。この建物の調査はワンダ軍曹と俺だけにしましょう。」
「うん?」
ワンダ軍曹は俺の表情を見て、ルッソとレナ教官に指示する。
「…分かった。レナとルッソは、城壁外で待機していてくれ。日暮れになっても、俺とサーノが帰ってこなければ、そのまま訓練所に報告するようにしてほしい。ルッソは、まだヒーちゃんを背負えるか?」
ルッソとレナ教官は、ワンダ軍曹の雰囲気を感じ取り
「もちろんです。二人とも無理をしないように…」
「ワンダ、サーノ、無事に帰ってきなさいよ。」
城壁外へ向かっていった。
*
「ヤバいのか?」
「おそらく…」
どうヤバいのか説明できない。しかし鑑別スキルが感覚的に危険を伝えてくる。
屋敷の外門を開く。大きくはないが整備された庭があり、進んでいくと建物に入る立派な扉がある。
建物の中は息詰まるような空気が漂っている。
(あっちだ…)
鑑別スキルを使うと、正面にある二階へ階段のその先に黒く光る何かがある。
魔物の気配ではない。こんな黒い光は初めてだ。
俺とワンダ軍曹は、歩を進め、寝室と思しき部屋に入る。部屋全体にチンさむのような圧力を感じる。
「あそこだ…」
ベッドをずらし、その下を探してみる。すると…
「笛だな。」
そう、笛だ。
鑑別スキルでも、これが黒く光っている。直接触っていいものかどうか?何か結界的なものを用意しないといけないのか?俺は顎に手をやり、熟考の構えをとった時、
「奇麗な装飾だな。」
おーい!脳筋!もう、笛、持っとるやんけ!
こういう物を触ると建物が急に崩れたり、おどろおどろしいラスボスが出てきたりするやん!軽率すぎるやろ!
しかし、あたりを警戒して見渡すも、何も起きない。
(何も起きなくていいのか?)
「ほらっ。」
えー、ワンダ軍曹、俺に笛当ててくるんだけど。触れってか。嫌だな。呪われたらどうしよう。おそるおそる、口元に巻いていた布で包み、笛を持ってみる。
すると、明かり窓から光が差し込み、俺たちと笛が明るく照らされる。
(大丈夫なのかな…)
鑑別スキルを使うも、この笛はレントゲンでもエコーでも問題なかった。鑑別で見ると黒く光ったままで、しばらく様子をみていたが、何も起こらない。結局、ワンダ軍曹の『高値で売れそうだ』という言葉に惹かれ、持ち帰ることにした。
屋敷を出ると、青空が広がっている。
たしかに、腐臭もあるが、もう慣れてしまった。
これから、どのように訓練所に報告するべきかを考えていると、背中に刃物の感触があった。
「…どういうつもりですか?ワンダ軍曹。」
「サーノ、お前はいったい何者だ?」




