第32話 ルッソのスキル
訓練所からの調査団として、俺、ルッソ、ワンダ軍曹、レナ魔法教官がテノワルに向かう途中、魔物来襲の残党であろうオークヒーラーと遭遇する。
葬り去ろうと俺が突きの姿勢で剣を構えた時、ルッソがムツ◯ロウさんみたいなことを言い出した。
「殺さないで!って言っているよ。」
「ルッソ、気でも触れたか?グルグルとしか言っていないだろ!」
「なんで…。いや、サーノ!僕には分かるよ!」
ルッソは、剣を納めろというジェスチャーをしきりにやってくるので、剣をしまう。その瞬間ハッとする。
まさか、話術師というのは…。
「なんで、ここにいるんだい?」
「ググ、グルグル…」
「そっか。命からがら逃げてきたのか。仲間とはぐれてしまったのかい?」
「グルグ、グルグ…」
「元々仲間はいない、孤独を感じていたんだね。辛かったね。」
「グググ…」
オークヒーラーが涙を浮かべる。
ルッソ、スゲー、意思疎通できてる!
話術のスキルかな?というか、このオークヒーラーが人語を理解できるということか。
試しに俺も話しかけてみよう。
「どうして、訓練所を襲ったんだ?」
「ググレカス…」
えっ!聴き慣れた罵声だよ、それ?
「…ルッソ、なんて言っている?」
「私は、オークジェネラルに強制的に連行された、って言ってるよ。」
「…そうか、辛かったな。お前みたいなオークヒーラーは他にもいたのか?」
「ググレヨ、カスガ…」
いや、完全に罵声だわ。
っていうか、「グ」と「ル」しかコイツ発音できないんじゃないの?
「…ルッソ、なんて言っている?」
「私以外にはいなかったと思う、って言ってるよ。」
そうなのか?
このオークとルッソで俺をモニタリングしているんじゃないか?
俺は自分の頭に手をやる。
今でこそ、サーノの体に憑依し、黒髪フサフサになっているが、前世の俺は、生え際が危険な状態だった。それは、ひとえに研修医時代の指導医の責任だと思っている。仮にその指導医をここでは、クソと呼ぼう。
『ググレカス!』と、そのクソはよく、俺を罵った。患者の容態よりも、クソの機嫌を気にしないと、まともに相談も乗ってくれなかった。
研修医が、指導医に気持ちよく教えてもらうために、『ナベオタマ』を使いましょうという。なるほど!とか、勉強になります!とか、言うのだ。
それをあのクソにやろうものなら、
なめんな!
勉強しろよ!
オツム弱いな!
大概にしろ!
幻か?お前の身体所見は?
という、研修医殺しのナベオタマを使ってくる。クソのせいで、俺の髪はズンズン抜けた。診療部長にやんわり、指導医とソリが合わないことを直談判したこともあったが、『耐えなさい。諦めたら医者終了ですよ。』と、優しい顔で追い込んで来たから、相談はしなくなった。しかも診療部長はパンチパーマで、たぶんカタギではなかったと思う。『薬剤師さん』と看護師が、病棟で呼ぶたびに、『ヤクザ医師さん』と空耳し、診療部長の影に怯えたものだ。なんで、俺あの病院で初期研修したんだろ?
「クソが!死ね!」
「サーノ!なんて事言うんだよ!」
俺はハッとする。オークヒーラーがこれまでにないくらい怯えている。
「…申し訳ない。」
とにかくだ。研修医にマウントを取って、愉悦に浸る、クソ指導医など、早く死ねばいい。それと俺の髪を返せ。
俺は、そんなクソ指導医になりたくねぇと、相談されれば、相手の目を見て、微笑み、機嫌の悪さは隠す努力を続けたのだ。まぁヒドゥンカリキュラムだ。
「ルッソ。」
俺はルッソに手招きし、そばに寄ってもらう。
(あのオークヒーラーには、回復術Lv2のスキルがある。脅して同行させられるか?)
(いやいや、わざわざ脅さなくてもいいだろう。)
(相手は魔物だ。どちらが強いのか分からせておかないと寝首をかかれるぞ。)
(うーん…)
犬と一緒だ。なめられると噛みつかれるし、厄介な事にしかならない。吠えたら、喉に拳を突っ込むなどして吠えさせないよう、躾ける必要があるのだ。
ルッソはオークヒーラーに体を向け、はにかみながら言う。
「俺んとこ、こないか?」
フ、フーッ!
思わず合いの手を入れてしまったが、まずい。昭和生まれがバレる。
すると、ルッソの体がピカッと光ったと思うと、光が移動し、オークヒーラーの体も光る。何か神々しいぞ。
「ワカリマシタ」
すごいな!
魔物の勧誘できたんだ。しかも、オークヒーラーの言葉が俺も分かる!
勧誘出来たら、俺も言葉が分かるようになったということか。
「すごいな!私も、オークヒーラーの言葉が分かるぞ!」
「あたし…まだ信じられない。」
ワンダ軍曹と、レナ魔法教官も舌を巻いた。
「しかし…」
ワンダ軍曹が頭を掻く。
「オークの性別は全て牡と決まっているはずだ。しかし、このオークヒーラーは何というか、牝だと思われる。」
確かに。無視しようと思っていたんだがな。声も女だ。
しかも…顔は団子鼻で、立派な八重歯が生えているのだが、ちょっとチャーミングで、上背があってボンキュッボンなスタイル、確かに肌は青色でエキゾチックであるのだが、大事なところほとんど隠れていないじゃないか!という布地。
全くけしからん。けしからんのだ!
魔物を抱けるのか?と問われたら、むしろ抱きたい。そんな風貌なのだ。
「サーノ?目がヤラシイよ。」
「…サーノは少し自重すべきだな。」
「…キモい。」
チームメンバーが声を揃える。
いやいや。確かにガン見していたけれども。ひどくない?
「キモチワルイ」
…このオーク、結構言葉が堪能だね!
ったく、なんだよ。リアルに傷つくわ。
俺が肩を落としていると
「それで名前はあるの?」
ルッソが尋ねる。
「ナイ」
「名前がないんだね。それだったら、ヒーラーのヒーちゃんはどうかな?」
ルッソ、お前ってば、ネーミングセンス壊滅的だな。
どう見ても「ヒーちゃん」という雰囲気じゃないだろう。むしろキガン嬢とか、ドンブラ娘とか似合うと思うんだが。
「…ウレシイ。ヒーチャン、ウレシイ」
…どうしたもんかな。女心って分からないな。
「まぁ、そのなんだ、煽情的かもしれないし、サーノが馬鹿みたいに鼻を伸ばすのもよくないからな。あたしの予備のローブを貸してやろう。」
レナ教官は、黒いローブをオークヒーラー改め、ヒーちゃんにかぶせてやる。
「アリガトウ」
ヒーちゃんは嬉しそうだった。




