第31話 テノワル調査隊
ユバル団長の怒声を聞きつけ、俺とワンダ軍曹は、急いでその場へ向かった。
そこでは、教会騎士団とケープリアから応援に来た王国騎士団の面々が睨み合い、一触即発の雰囲気になっていた。
「馬鹿な事と言うが、それは陛下に対する発言ということか。ユバル異端殲滅騎士団長。」
「くっ!」
「もう一度言う。即刻王都セントリアに帰還し、王都の警備に当たれという陛下の思し召しだ。それは教皇台下のご意思でもあるのだぞ。」
「…分かった。」
王国騎士団側のリーダー格と思しき金髪オールバックの男が、ユバル団長を睨みつけている。
「ユバル団長…」
「おぉ、サーノ戻ったか。どういう経緯があったか分からんが、我ら異端殲滅騎士団は至急王都に赴くことになった。魔物たちを殲滅できたかの判断、テノワルの状況把握も、まだできていない状況でだ!」
「ユバル異端殲滅騎士団長!」
金髪オールバックが、ユバル団長を牽制する。
ユバル団長はワンダ軍曹を見やり、言う。
「ワンダよ。お前は長期休暇中だったし、しばらく、ケープリア周辺で静養するがいい。」
「はっ!」
「サーノよ。あとは頼んだぞ。」
「わかりました。」
ユバル団長が率いる教会騎士団が訓練所から去っていく。その中には、諜報部として活躍したリサの姿もあった。
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「え!?鑑別レベルが上がったの?」
「そうだ。鑑定の色だけでなく、職種も分かるようになった。」
「それ凄いね。」
俺とルッソは、第1組の宿舎にいる。
ワンダ軍曹と帰還した後は、オークジェネラルの討伐報告を訓練所側に行った。訓練所の幹部は、また状況が落ち着けば、褒美をくれてやるということだったが、目もつけられたくないので、丁重にお断りした。
そして、何よりも勝利の味である。
オークジェネラルの肉を全て用いて、食堂の総力を結集して最高の料理を作ってもらった。そもそもオークジェネラルの肉など、市場になかなか出回ることがなく、その料理は、涙が出るほどおいしいものだった。さすがに満足のいく量はなかったが、少量だとしても、訓練生全員で噛み締める味は格別だった。
夕食が終わった後、俺とルッソは第1組の宿舎に来たのだが、ここでは、2人でスイートルーム並の個室が用意されている。10人が二段ベッドで寝て6畳一間に押し込められる、第5組の環境とは雲泥の差だ。
「試しに見てみるか?」
「なんか、自分の鑑定職を知ると言うのもこわいものだね。」
「どうする?」
「やるよ、見てみて。」
そういうことで、ルッソに鑑別をかける。
(鑑別スキル:ステータス)
― 名前:ルッソ 種族:ヒューマン、Lv:31、状態:普通、弱点:特になし、鑑定職:話術師、スキル:話術Lv2 ―
と出た。
「…話術師だ。」
「…なんか詐欺師みたいだね。聞いたこともない職種だよ。」
「話術というスキルがあるが…どんなスキルなんだ?」
人を騙し信じ込ませる。人を励まし力を与える。人を思うように操ることができる。
とか。
「ルッソ、僕は実は、王家の血を引いている。と言ってみろ。」
「えーなんでよ。」
「いいから!」
「僕は、王家の血を引いている…」
「もっと気合を込めて言え!」
「僕は、実は王家の血を引いていたんだ!」
「嘘だ!」
「サーノが言えって言ったんだろう!」
信じ込まされる感覚はない。違うのだろう。
「ルッソ、サーノ、君は最高だ。と言ってみろ。」
「えーなんでよ。」
「いいから!」
「サーノ、君は最高だ…」
「もっと気合を込めて言え!」
「サーノ、君は最高だよ!」
「嘘だ!」
「もういいよ!このやりとり!」
最高だという自信は湧いてこない。違うのだろう。
そうなると…
「ターニャ副所長に、服脱げって言ってみてくれるか?」
「殺す気!?」
まぁそうだな。あの糞腐女子は、ルッソがそんな事を言わなくても、あわよくばと虎視淡々と狙っている。実験台には適さないか。
「ルッソのスキルはどんなモノなんだろうな?」
「実際どうやって使うかも分からないと言うのは、不便なものだね。」
魔法系統だったら、あの言葉がトリガーになるはずだが。
「ルッソ、アンダンテの名において。と言ってみろ。」
「アンダンテの名において。」
「どうだ?」
「いや、どうだと言われても、何もないよ…」
魔導士系統ではないのだろう。
しかし、この鑑別スキルも、職種が分かってもそれを説明できないってイケてないな。
「とはいえ…」
ルッソが口を開く。
「サーノのそのスキルはあまりに危険だね。スキルが分からないけど、職種が分かるなんて、本当に世界を変えることになると思う。」
「そんなもんかな。」
「とんでもない職種なのに、鑑定色が黒ということだけで埋もれている才能もあるかもしれないよ。」
「…世界がひっくり返るかもしれないな。」
俺は、ゴクリと息をのんだ。
「サーノ。魔物に使っても、その鑑別スキルは人に使わない方がいい。少しくすぐったい感覚がするから、鑑別スキルがバレるかもしれないし、拷問とかでスキルの内容が分かったら、消されるか、人格を崩壊させられて、スキル判定の道具にされちゃうよ。」
「…それはイヤだな。」
確かに、ルッソの言う通りだ。このスキルはバレてはいけない。
「ルッソ、これは俺とお前との約束だ。このスキルは、誰にも言わないし、対人には使わない。」
「うん。」
そうして、ルッソのスキルの正体については、結局分からずじまいで、床についた。
翌日、俺はベイズ所長のから呼び出され、訓練所長室へ向かう。
「サーノ、お前に依頼だ。テノワルの町に向かって欲しい。」
「私がですか?」
「そうだ。教会騎士団からワンダ軍曹、訓練所職員からレナを同伴させる。」
「…分かりました。」
部屋の中には、ターニャ、ワンダ軍曹、レナ教官もいて、ワンダ軍曹が頷いている。ワンダ軍曹とレナ教官のコンビというと、痴情のもつれがあったと思うが、それを指摘するのも無粋というものだろう。
「あの、ルッソも同伴してもらって良いでしょうか?」
「なんだと!ルッソ訓練生が危ないではないか!」
案の定ターニャが突っ掛かってくる。
「これまでのタッグの経験です。彼は非常に優秀なので、今回の調査でも、きっと貴重な提言をしてくれると思います。」
ベイズ所長は、ターニャを怪訝そうな顔つきで見た後、承諾した。
俺たちは午前中に、訓練所を発ち、ウ・デス川沿いの街道を進んだ。
距離にして地球の単位に直すと約120km先である。レナ教官とワンダ軍曹が馬を連れているが、ワンダ軍曹の馬は全員の荷物を載せているので、ワンダ軍曹と俺とルッソは徒歩である。おおよそ2日間で歩くのだが、身体的には1日60kmの行軍もそんなに苦ではない。小走りでテノワルへ向かう。
しかし、行く景色はむごたらしい。
街道沿いにも時々、民家と思しきものが密集しているところがあったが、すべて魔物が通った後で、凄惨な状況だった。秋の刈り入れが終わった後だが、こうした農地は再び使えるのか?ここの農夫たちはどうなったのかを考えると、暗澹たる気持ちになる。
「おや、あれは?」
人影である。
これまで、人っ子一人いなかったので、俺たちは警戒し近づいていく。
ギリギリ視界に捉えたところで、鑑別スキルを発動する。
(鑑別スキル:ステータス)
― 種族:オークヒーラー、Lv:25、状態:疲労困憊、弱点:炎、スキル:回復術Lv2 ―
(オークか!しかもオークヒーラーって何だ?)
「サーノ、どうだ?」
オークジェネラル追撃の時に、ワンダ軍曹は、俺に敵の種族が分かる能力がある事を知った。俺の様子を見て聞いてきたのだろう。
「オークヒーラーです。」
「なんだ、それは?」
「聞いた事ないわね。」
ワンダ軍曹もレナ教官もそんな魔物聞いたことはないと言う。
オークヒーラーがこちらを向いた。
戦闘になるか?と思ったら、逃走した。
え?
ひとまず、魔物を野放しにはできないので、追いかける。
敵は弱っているので、比較的すぐに追いつく。
「おい、止まれ!」
レナとワンダ軍曹が先回りし、俺とルッソが剣を抜き、接敵する。
「グルルル…」と唸るが、まるで町娘が襲われているような佇まいだ。
何だか調子が狂う。こっちが悪者みたいじゃないか。
ルッソが呼びかける。
「この地域にいる限り、僕たちはお前を駆除する必要がある。魔物の森へ帰るんだ!」
「グル、グルル!」
おいおい、ルッソ。
お前ってば優しい奴だな。
オークなんて女の敵だ。
『オク、即、斬』という言葉を知らないのか。
どうせ、先の魔物来襲の残党だろう。ここは俺に任せてくれ。
魔石の位置に狙いをつけて、新選組三番隊隊長のように突きの姿勢で、剣を構える。
「サーノ待って!殺さないで、って言っているよ!このオーク。」
えっ、ルッソ何で分かるの?




