第30話 討伐証明
ユバル団長の聖剣技、ホーリーホライズンから逃れた魔物を始末するため、俺とワンダ軍曹は、早馬で残党狩りに出た。もちろん俺は乗馬などできないので、ワンダ軍曹の後ろに乗っけてもらい、ニケツだ。
「それにしても、私は感動したぞ、サーノよ。」
「いえ、皆の力を合わせた結果なので。」
「短時間でありながら、一流の練兵をやってのけたと言っていいぞ。」
「はぁ、ありがとうございます。」
「ふふふ、本当に若人らしくない、可愛げない落ち着きっぷりだな。」
「申し訳ありません。」
「いや、褒めているのだ。」
こうしたやりとりをしていると、視界に豚らしき化物が入ってくる。
鑑別スキルをかけてみる。
(鑑別スキル:ステータス)
― 種族:オークジェネラル、Lv:35、状態:衰弱、弱点:炎、スキル:鬼強姦 ―
…ボスですやん。
あの団長、なんで取り逃してるの?雑魚とか言って、真っ先に殺さなあかん奴ですやん!
そもそも、スキル名も許しがたい!
「ワンダ軍曹、2刻の方向に敵影あり。オークジェネラルです。」
「なんだと!!」
「このまま接敵しますか?」
「そうだな、まずは様子を見る。」
さすが、ワンダ軍曹。慎重だ。
好感がもてる。
と思ってたら、馬を加速させた。
「え?木陰か何かに隠れて、様子を見るんじゃないんですか?」
「一太刀を加えてから、様子を見るのだ。」
一太刀加えるって…えぇ…脳筋。
オークジェネラルとの距離がどんどんと詰まる。
こちらに気づいているのか良くわからない。
よし!このまま敵が気づいてないうちに不意を突こう。
「我が名は、ワンダ!いざ尋常に勝負!」
名乗りをあげるんかーい!
相手は魔物ですよ。意味あるんですか?その行動。
オークジェネラルはさすがにこちらに気付き、戦斧を投げてくる。
ワンダ軍曹は、それを抜いた刀剣で捌き、馬からジャンプする。
(だ、誰が手綱をにぎるの?)
「獣王無尽拳弐式…刺突!」
空から突きの姿勢で、オークジェネラルの顔面に狙いをつける。
ワンダ軍曹の様子を駆ける馬から見ていたが、ついに俺は落馬した。
まぁ受け身はとっているし、この体はかなり頑丈だ。
地面を転がりながら、シュタッ!と攻撃姿勢を取った時には、オークジェネラルの目から後頭部にかけて、ワンダ軍曹の刀剣が突き抜けていた。
「グォォーー!!」
と、オークジェネラルが断末魔の咆哮をあげる。
クルクルっと回ったかと思うと、バタンと倒れた。
一撃だ。
すごいな、ワンダ軍曹。
「オークジェネラルは既に手負いだったからな。意表を突けば、造作ない。奴の防御は精彩を欠いていた。」
ワンダ軍曹は事もなげに言う。
「さぁ、解体するぞ。」
ワンダ軍曹は、早速オークジェネラルの首を刎ねた。
頸動脈から、ピューピューと血が吹く。
「オークの解体は覚えておいた方がいい。まずはこうする。」
ワンダ軍曹は、心肺蘇生の場面でよく見られる、心臓マッサージ、つまり胸骨圧迫をオークジェネラルにやり始めた。
なんと。
「こうして素早く血抜きをするんだ。サーノ代われ。1,2,3!」
「はい!」
「タイミングがばっちりだ!スジがいいぞ!」
今まで救急外来で、心肺停止患者を胸骨圧迫してきたことは多々あったが、首がなくなった患者を胸骨圧迫したことはなかったな。
これって救命処置というより死体損壊だぜ。
「よし、血を吹かなくなってきたな。次は足をこの縄でくくれ。」
言われた通り、オークジェネラルの足に縄を巻いていく。
「これでいいですか?」
「よし!少し離れていろ。」
「はい。」
下腿に残った血液を、縄で圧迫して外に排出するのかと思っていたら、ワンダ軍曹が、その縄を自分に巻き付けたあと、人差し指を左から右へと動かし、半円を描く。
(あの動きは!)
「いくぞ、おらーー!」
(ジャイアントスイングだ!)
遠心力によって、オークジェネラルの首元から流血がほとばしる。
流血試合!いや、相手は首を失っているが。
ワンダ軍曹の熱気に当てられ、俺も回転数のコールを入れる。
「1、2、3…えっ」
いや、もう数えられない。
途中から4回転ジャンプ並の回転速度になるし、血がこっちまで飛んでくるし、とにかく無理なのだ。もはや洗濯機の脱水運転だ。
「ふぅ。」
ワンダ軍曹がジャイアントスイング改め、脱血運転を終える。
オークジェネラルの皮膚全体が澄んでいて、もはや耳たぶなど透けて見えている。
血抜きしすぎだろ!
「サーノ見てみろ。」
ワンダ軍曹が、やや似つかわしくない苦笑いをこちらに向けてから視線をオークの股間にやる。
うわ、キモ。勃ってる。遠心力で股間に血が集まったのか。
「これをこうしてやると、血が逃げない。」
おもむろにワンダ軍曹が、オークジェネラルの一物に糸をかけて縛る。
アウチッ!
何となく見ていて痛い。
「こうしたら…」
着火剤みたいなもので火を起こし、ナイフを火で炙りつつ、
「こうする!」
軍曹が一物を睾丸ごと剣で刎ね上げ、切断面に火で炙ったナイフを当て止血する。
ジューー!
ア、アウチッッ!!
もう見てられない。
「ははは。これはオークの討伐証明だ。」
「…なるほど。」
「オーク種は特に、女性にとって天敵だからな。こうして一物を刈り取るというのは、ある意味儀式なんだ。それに、こいつはオークジェネラルの一物だ。高く売れる。」
「そうなんですか?」
「やんごとなき貴族の中には、女性に『他の男を一生寄せ付けさせない』という意味で、この討伐証明を婚約の品として送ることもあるそうだ。」
「…」
いやー、俺、現代日本生まれで良かったわ。
指輪の代わりに、でかい化物の一物贈られたら、婚約破棄以外の意味思いつかんわ。
「…その一物は、どれくらいのお金になるんですか?」
「ふふふ、オークジェネラルだからな。しがない男のひとり暮らしが10年できるくらいだ。」
「…すごいですね。」
「私は教会騎士団に拾われる前までは、冒険者というヤクザな商売をやっていたからな。金の匂いには鼻が利く。」
『金の匂いに鼻が利く』なんて、紫煙をくゆらせ言ってみたいセリフだ。
ワンダ軍曹は、一物を保存液と言われるものにつけた。ホルマリン液みたいなものか。
その後は手慣れた手つきで、オークジェネラル本体の肉をサッサと捌いていく。
さしずめ、キャンプで大活躍お父さんだ。
そういえば、俺の親父はキャンプに行くたび、テントを組み立てられずにいつも癇癪を起こして、俺とおふくろが組み立てていた。
親父、何でキャンプ行きたがってたんだろう?
それと比べると、カッコイイお父さんという雰囲気がワンダ軍曹から滲み出ている。
「どうかしたか?」
ワンダ軍曹が、俺の眼差しに気付いて問いかける。
「いえ、何も。」
レナ教官が惚れるのも分かるな。いつかは俺も渋い男の横顔を手に入れたいものだ。
ワンダ軍曹は、筋肉の走行を上手に見極めながら、切れ込みを入れていく。
「よしできた。」
俺たちは、馬にオークジェネラルの肉を積み、訓練所へと帰還した。
正門を抜けると、
「何を馬鹿な事を言っている!」
ユバル団長の怒鳴り声が飛んできた。




