第29話 ホーリーホライズン!
訓練生がローテを回して白兵戦を展開している間に、徐々に剣などに刃こぼれが生じて、魔物を殲滅する時間がかかってくる。
このあたりが限界か。
「徐々に下がれ!」
あらかじめ決めていた指示だ。ローテで回すが、前線を徐々に押し下げていく。敵に押し込まれる形だ。訓練所正面から100m離れた第1土壁と、その内側にある第2土壁の間に敵が充満していく。
(えっ、熱い?)
熱を感じた時、上空を炎の渦が通り過ぎ、敵後方に着弾。大爆発を起こした。
すげーー!
横目で術者を確認する。レナ教官だ。このところ俺のレナ教官への評価はうなぎ上りだ。
魔物たちは恐慌を起こし、ますます前線へ魔物が押し寄せる。
いやいや、もう前線は耐えきれませんよ。
「くそっ、キリがねー!」
身に降りかかる敵については、ショートソードで急所を突き殺し、隊を組むメンバーが危険な状況になれば黒魔法を用いて援護している。しかし、常に前線で指揮を執っていることもあり、かなり疲弊してきた。
足元の砂時計を見ると、合図まであと残り3分程度である。
合図は諜報部が鳴らす鋭い笛の音だ。朝の最終訓練時に聞いたが、ビックリするくらい大きな音が出る。
パキッ!!
カマキリ型の魔物が振るう鎌を防いだら、ショートソードの刃が折れた。
魔力の節約のために、ダークのみを使い、敵を錯乱させる。
虫型の魔物は外皮が硬い。俺は、魔物の胸部に拳を突き入れ魔石を破壊するが、もう腕もボロボロだ。
(あっ!)
レベルが上がった感覚があった。自分に鑑別をかけてみる。すると…
― 名前:サーノ・アウエル(佐野トオル)、種族:?、Lv:30、状態:衰弱、弱点:肋骨(癒合途中)、鑑定職:黒魔導士、スキル:黒魔法Lv1,鑑別Lv2(エキストラ) ―
と、ステータスが出て、自分の腕がエコーイメージで見えるようになっていた。
これまでレントゲンモードのみだったが、エコーモードも使えるようになったのだ。
このピンチで、まさかの鑑別スキルのレベルアップ!
って、無意味なほど地味すぎる!!
俺は周囲を確認し、訓練所の正門に近い第2土壁まで全力で駆ける。
「サーノだ。撃つな。」と声を出しながら第2土壁を飛び越えた。
第2土壁の内側には、ほとんど訓練生は残っておらず、すでに正門から訓練所内へ退避していた。
「サーノ!」
「ルッソ、お疲れさん!」
この場には、バトルロワイヤルで最終戦をやったメンバーが揃っていた。
「最後の一本だ、飲め。」
ゴウトから回復薬を手渡され、一気に飲み干す。
堀の前に置かれた、予備のショートソードを手に取り、ジギに確認する。
「空斬脚は!?」
「いつでもいける!」
「援護する。ぶちかませ!」
俺たちは、土壁の上に立ち、ジギの側面から寄る魔物の急所を突いていく。
「空斬脚!!」
ジギの周囲30mほどの魔物が、血しぶきをあげながら、切断されていく。
何度見ても恐ろしい技だ。
力を尽くして崩れ落ちるジギを、傷だらけのガランが抱える。
第2組のガランは、あのバトルロワイヤルでジギの空斬脚を受けて、リング外に吹き飛ばされた男だ。
「すまない。俺も離脱する。情けないが、一番役立ちそうもない。」
「頼む!」
ガランがジギを背負って、正門内部へ避難する。
「こっちは5人。あっちはまだ後ろが見えないな…」
ジギが葬り去った魔物のスペースに別の魔物が殺到する。
第2組のリム、第3組のゴウト、ザック、そしてルッソ。皆、満身創痍だ。
何も考えずに、回復薬飲んでしまったけど、お前らも大概の疲労状態だぞ。
「いや、6人だ。」
後ろからワンダ軍曹がやってきた。
「さぁ、蹴散らすぞ!」
**
時間は少し遡る。
ワンダ軍曹は、他の教会騎士団の団員たちと、訓練生の後方支援を考えていた。主には、訓練生の戦線離脱の手伝い、危険な戦いの場面での助太刀というところであった。しかし、ほとんど手を出す必要がなかった。
「素晴らしい指揮だ。」
ワンダ軍曹は、シンプルにサーノの考えた戦略と、その運用に舌を巻いた。しかも、これだけの魔物を前にして冷静に、負傷者が出ないように手堅く戦った。
手元の砂時計では、もうそろそろ、聖剣技を出すタイミングである。
「サーノよ。訓練生の身でありながら、よくぞここまで戦った。」
ワンダ軍曹は、小さくつぶやいた。
ワンダはサーノの元へ走り寄る。
「いや、6人だ。」
ワンダ軍曹は5人の訓練生の元に駆けつけた。
**
ワンダ軍曹がやってきた。
何だろう。
どこに今まで居たんだよと思ったが、ちょっと泣けてくるほど、頼もしい。
魔物が、第2土壁を乗り越えて俺たちに押し寄せてくる。
「獣王無尽拳弐式…多斬!!」
おおぅ、厨二!
ワンダ軍曹が、刀剣を目にも止まらない速さで振るい、魔物たちが細切れになる。
堀の中が斬られた魔物の死骸で埋まっていく。
うげー。凄まじい攻撃だ。軍曹どこまでもついていきますぜ!
その時だ。
ピーーーーーー!!!
えっ!嘘!聖剣技来るの?今のタイミングで!?
ええい、ままよ!
「全員、堀の中に退避!飛び込め!!」
正門から離れて戦っていた全員が、もはや血のプールと化した堀に飛び込む。
血飛沫が飛び、顔の近くに魔物の目玉があった。
きゃーー。
ズワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
頭の真上を波動砲のようなとんでもない圧力が通り過ぎていく。
耳と目を指で押さえ、口を半開きにするという、東京空襲下の知恵を実践した。
生きた心地がしない10秒程度であったが、圧力が和らいだので、目を開いてみる。
顔を上げると、目の前には何もない空間が広がっていた。
立ちすくむ 晴れた荒野に 血みどろで
いやいや、何これ。
こんなん、魔物を引きつける意味あった?
最初に先制攻撃でやったら、魔物を追い払えたでしょ。あの団長、馬鹿じゃないの。
振り返ると、膝をついたユバル団長がいた。
「張り切りすぎて、出力が大きすぎた…動けない…」
…この人、バカポンコツだわ。
*
俺たちは、何とか訓練所正門にたどり着いた。
そこには、訓練所幹部を含めて、重要なメンバーが揃っていた。
ユバル団長はあぐらをかいて座っており、
「サーノ、貴様達訓練生の働きは素晴らしかったぞ!貴様のその敢闘に当てられて、思わず張り切りすぎた。」
そうだよな。射程300mという感じではない。500m以上なぎ払っているよな。
それに、堀の中まで波動砲来てたよ。1mの深さって危なかったんじゃないの?
作戦をノリで変えるのやめてほしい。死んじゃうから。
「…いえ、ユバル団長の聖剣技そして、皆一人一人の努力の賜物です。」
「そう親父くさく謙遜するものではないぞ。」
中年親父だからね、中身は。
その時、ユバル団長の元にリサがやってきて、何か耳元で囁いた。
ユバル団長は、イケメンスマイルを浮かべて、俺に言った。
「ところで、サーノはまだ戦えるか?」
「はっ?」
「私の聖剣技を免れた雑魚がいるようだ。ワンダとともに始末せよ。」
「はい、わかりました!」
あれを受けて生き残った奴いるんだね!
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