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第28話 交戦開始

 講堂に集まった、人間社会では完全に落伍者であり、『力あるものが、全てを支配する』というシンプルなルールの中に生きる訓練生達。それは、地球が核の炎に包まれた後に、ヒャッハーなど言う荒くれ者が暮らす世界と同じ哲学が支配している。即ち、


 力なければ死ぬ。


 確かにそれは事実であるが、俺はそれにあらがいたいと思った。

 だって、他人よりも弱くても、楽しいことがあってもいいだろう。

 人間だもの。


 ルッソが前に出てくる。

「サーノ。第2組のリムさんや、第3組のゴウトさんも力になってくれるよ。それぞれの組をまとめてくれるって。」


 ゴウトが俺に言う。

「サーノ、俺はお前と直接手を合わせられなかったが、あのアレンを倒したってことで、本物だと分かっているつもりだ。お前がナンバーワンだ。指示には従う。」


 俺は頷き、講堂に集まった訓練生達を見た。

「最初に、はっきり言っておく。俺に実力はない。アレンの事も、たまたま運がよかっただけだ。」

 

 俺の言葉に、講堂がざわつく。


 俺は二の句を継いだ。

「明日の昼には、1万の魔物たちはここに到着し、俺たち訓練生が、その前面に立たなければいけない。これも紛れもない事実だ!」


 講堂がシーンと水を打ったように静まり返る。


「作戦名はガーギュッポンだ。」


 一部の訓練生が目を丸くする。


「俺たちが、敵の侵攻を食い止める。ユバル団長は必殺聖剣技を後方から放つ。俺たちは、合図で敵の攻撃から即座に離脱し、聖剣技を避ける。俺たち訓練生は、魔物の大群と必殺の聖剣技、その狭間で戦う。」


 訓練生から、「え?」「死ねということか?」との声が漏れる。


「まさに敵と味方に挟み撃ちされるようなものだ。それは、普通に魔物と戦うより、恐ろしく死亡する可能性が高い。」


 うつむく者もいる。


「もちろん、元々生きる価値がないとされてきた俺たちだ。敵前逃亡はありえない。」


 俺は、沈黙の時間を作った。

 そしておもむろに口を開く。


「だが、俺は死ぬつもりはない。ここにいる誰一人死なせるつもりもない。アレンを打ち破った俺には、臆病者なりの策がある。俺を信じろ。」


 最後に言い切った。

「ともに戦おう!黒の俺たちでも、デカイことができると、見せてやろう!!」


 そこで、隣のルッソが叫んだ。

「ガーギュッポーーーン!!」


 え、ルッソ。そんな選挙動員のサクラみたいなことしちゃうの?

 ていうか、そのシュプレヒコール、いろいろ無理だと思うんだけど…


 その時である。


「ガーギュッポーーーン!!」

 訓練生達のときの声が講堂に響き渡った。


「…」

 拳を突き上げ何度も、ガーギュッポンと叫ぶ訓練生達を、俺は静かに見守った。 



 俺の立てた作戦は塹壕戦だ。いや、正直よくわからない。


 だって、俺、元医者だぜ。


 ミリタリーオタみたいに軍事なんか知らないし、塹壕なんて、『西部戦線異状なし』で少し見た程度だ。

 

 とにかく、土壁を用意して、魔物たちを迎え撃つ。


 魔物は、遠距離射撃などなく、おそらく自ら土壁を飛び越えて攻撃してくるだろう。その土壁の裏に、ユバル団長の聖剣技から身を隠すための堀を造る。


 土壁は、目印の意味しかない。


 パニックになった訓練生対策だ。土壁の裏に必ず堀があるから、聖剣技の合図が鳴ったら、無我夢中でそこに飛び込めという寸法だ。


 ワンダ軍曹に尋ねたところ、ユバル団長の聖剣技は、『ホーリーホライズン』というらしい。なかなかの厨二っぷりを感じるネーミングだと思うのだが、半径300m程度に、斬撃を飛ばす技らしい。1mの深さの堀に隠れたら、大丈夫ということだった。


 しかし、1㎞に伸びた敵勢を300mに収めるように、食い止めろなんてムリゲーだろ。200人で、1万相手に15分程度戦線を維持するということだ。1匹3分で殺したとしても、その時点で、既に20匹近くに囲まれている。


「いやーきついね。」


 ローテで白兵戦を展開することになる。消耗しきる前に、後ろに下がらせ回復薬を使って、また前線に復帰させる。敵に囲まれないように、こちらも隊列を組んでやるしかない。


 訓練所の組ごとに隊列を組んでもらう。

 第5組は実戦では厳しいものがあるので、夜間徹夜での掘削作業に当たってもらうことにした。

 訓練所正門に、ユバル団長が立ち、正門から100m離れたところに第1土壁、正門から50m離れたところに第2土壁を作ることにして、土壁の手前に深さ1m程度の堀を作ることにした。


「面白いことを考えているようね。」

 ポンコツ攻撃魔導士レナがやってきた。ワンダ軍曹は気まずそうだ。


「ワンダ。もう別にいいわ。あなたが悪いわけではないし、あたしの力不足が原因だわ。」

「レナ…すまない。」


 レナは、ワンダ軍曹に少し微笑み、俺に言った。

「サーノ訓練生、堀を掘るなら少し手伝うわよ。土魔法も使えるの。ただ、明日の戦闘に備えて、寝るまでの時間だけど。」

「レナ教官、ありがとうございます。大変助かります!」


 俺は、そのあと鑑別スキルを用いて、1,2,3,4組の連中のレベルに応じて、隊列のローテを組んだ。また、第5組の連中が、レナの土魔法に感嘆しながら、夜を通しての土壁作成に取り組む。俺も堀の掘削作業を手伝ったりしながら、仮眠をとった。



 翌日の昼刻。

 はるか先に、土煙が見え、得も言えない地響きが近づいてきた。


(来やがった!)


 狼系の魔物が先行し、虫系、などが続き鈍重なオークが最後尾にいるという敵の構成だということは諜報部から連絡を受けている。比較的低位の魔物が中心だということだが、全く油断はならない。


(ドキドキするぜ…)


 俺は最も外側の第1土壁の堀の前に、他のメンバーとともに待機している。


「緊張するね。」

 ルッソが隣で、固唾を飲んでいる。


 土壁は約1.5mほどの高さがあり、その壁越しに大軍団がけたたましくやってくるのが見える。

 鼓動が高まるのが分かる。もう、背の低い魔物は壁に隠れて見えなくなった。

 彼我ひがの距離15m。


(来る!)


「ガルゥゥ!!」

「ウルフだ!腹を狙え!」


 跳躍し土壁を乗り越えたウルフがやってくる。

 既知の魔物で、魔石の位置もよく知っている。堀に着地したウルフは、背中から長槍を刺されて絶命する。訓練生は自分の得物で、次々に飛び掛かってくる魔物たちの急所に打ち込んでいく。


(ほぼ一撃だな!)


 その他、雑多な魔物が飛び越えてきたが、跳躍してくる時間に鑑別をかけ、急所を周りに知らせる。そうすれば、ほぼ一撃で倒すことができて、戦いに余裕が出る。しかし、疲労を溜めないうちにローテしないと、すぐに戦線は壊滅する。


「2隊前へ!1隊下がれ!」

 1,2,3組それぞれのリーダー格であるジギ、リム、ゴウトには、俺の声を聞いて、急所の場所や隊列の指示を出すことにしてもらい、タイムラグがなるべく起こらないように戦う。


 その時、敵最後尾の方から大音響の音が鳴り響いた。

 魔法部隊が挟撃目的の魔法攻撃を加えたのだろう。

 正面へと向かって、敵勢がますます殺到してきた。

 

 げげげ。

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