第24話 炎(ほむら)
今回から第2章突入です!さらに、テンション上がる展開が待っています!
士官候補生アレンとの決闘を終え、一息つきたい俺たちであったが、隣町であるテノワルが魔物たちによって陥落したという。しかも魔物の大群がすでに、この訓練所に向かっているとのことだ。
ユバル・ロコル異端殲滅騎士団団長は、この場にいる者の中で最も権威と実力がある。おのずと彼が陣頭指揮を執る。
「リサ!すぐに諜報部を通して、魔物討伐隊を組織するよう国王陛下と教皇台下に奏上しろ!」
「分かりました!」
「魔物たちの動きを探りたいが、もうすぐ日が暮れる。魔物達の侵攻速度と位置を見極めるため、精鋭の斥候を組織してテノワル方面に向かわせろ!」
「分かりました!」
「この訓練所は、元は要塞だ。防衛戦略を練る。」
ユバル団長は、辺りを見渡す。
「訓練所長!都合のいい場所はあるか?案内してほしい。」
「こちらです。ユバル団長。」
「訓練所長、ここにいる非戦闘員を速やかに避難させられるか?」
「はい。すぐに、ケープリアに向けて夜営をしながら向かえる者を組織します。」
ユバル団長は、観客席の者たちに呼びかける。
「この訓練所にほど近い、テノワルが魔物たちの手によって陥落した!その魔物たちは既にこちらに向かっている。腕に覚えのある者は、ここに残って私とともに戦え!」
観客席のあちこちから、「よしっ!」「やるぜっ!」と気炎を吐く者もいる。
ターニャ副訓練所長も呼びかける。
「非戦闘員の方はこちらへ。ケープリアに向かうキャラバン隊をすぐに出発させます。」
ユバル騎士団長を中心に、騎士団と、訓練所幹部が迅速に行動したことで、観衆は特にパニックを起こすことはなかった。
いやいや。大変だね。魔物襲来なんて。
さ、わたしゃ闇に紛れて、この訓練所から逃亡することにしますかね。
「ベーラ、すぐにケープリアに戻るんだ!」
「分かったわ。」
「俺とルッソも連れて行ってくれ!」
「はぁ?」
「俺たちがお前のでかいスカートの下に隠れるから、そのまま馬車に乗れ!」
「何言ってんのよ!あんたたち二人も入るわけないじゃない!」
仕方ないな。
俺はルッソの肩に手を置く。
「ルッソ。良いか。お前はこの場所に残って、第1組として活躍するんだ。そして、晴れて訓練所を退所するように頑張るんだぞ!」
そして、ベーラに改めて向き合い言った。
「ベーラ!俺一人だ、逃げるのは!」
「死ねよ、卑怯者。だいたい私のスカートの中に隠すわけねぇーよ!」
「サーノ…」
ルッソが哀しそうにつぶやく。
その時だ。
「楽しそうな会話をしているではないか?」
げっ!ワンダ軍曹だ
「そちらの女性は?」
「ベーラ・ユドルスクと申します。以後、お見知りおきを。」
サッとスカートの裾を少し上げて、格式ありそうな挨拶をするベーラ。
おいおい、さっきまで、『死ねよ』とか暴言吐いてたのは、誰だよ。
「私は、ワンダだ。教会騎士団に所属している。そして、こいつは倅のフンドだ。」
「こんばんは、ベーラ様。」
フンドが、伏し目がちにベーラに挨拶する。
「様なんてつける必要はありませんわ。ベーラお姉さんとお呼びくださいな。」
「分かりました。ベーラお姉さん。」
ベーラがこちらにスッと寄ってくる。
(かわいい子ね。たまらないわ。)
(誘拐しようとか考えるなよ。)
(しないわよ。)
すると、ユバル団長がこちらに向かってくるのが見えた。
「ワンダ軍曹ではないか!」
「ユバル団長、ご無沙汰しております!」
「歴戦の猛者が、この場所にいるとは僥倖だ!貴様は長期休暇中ではなかったのか?」
「はい、それで倅と御前試合を観戦しておりました。」
「ワンダ軍曹、聞いての通りだ。貴様の長期休暇は今日で終了だ。」
「分かりました!」
「今から、訓練所長室で軍議だ。来い!」
「はい!」
スゲーな。
さすが騎士団。『お前の休暇は今日終了だ!』とか、並みのブラック企業では言えないセリフだ。
ワンダ軍曹は振り向き、ベーラを見た。
「ベーラ殿、私は騎士団に戻ることになった。もしよければ、フンドを連れてケープリアに先に戻っていただけないか?無理を承知で申し上げているのだが。」
「もちろんですわ。」
「これは、車代だが。」
「今は緊急事態。お車代とフンド君の宿泊費は、後払いとさせていただきます。」
「かたじけない。」
ベーラとワンダ軍曹のやり取りを見て、ふと、ユバル団長を見ると目があった。
ユバル団長は、俺を見ると、ニヤリとした。
えっ、こわい。
「サーノ、貴様は軍議に参加しろ。晴れてトップ訓練生に昇格したのだからな!」
ちくしょう。やっぱりか…
「わかりました…」
「それと、軍議の前に、回復薬で顔洗ってから来い。ひどい面構えだ。」
そう言って、ユバル団長は俺に、回復薬を手渡した。それも2本。
あら、気風のいい男前じゃないのさ。
「分かりました。」
ルッソに持ってきてもらった桶に、回復薬を入れ、顔を洗い、口を濯いでいると、出血は止まり、歯も生えてきた。顔をペタペタ触ってみるが、おそらく鼻骨も完治している。
まぁ、鼻骨は粉砕骨折というわけでもなかったから、これくらい回復薬にかかれば、簡単なものなのだろう。
ふと、リングを見やると、フードをかぶった教官が、アレンの死骸の前に立っている。
そうか、あの攻撃魔法を使うフード教官だ。
以前はリサに殺された逃亡者ノロスの死骸を焼いていた。毎回、火葬とは、律儀なことだ。
「…」
フード教官が何かつぶやいている。
「アンダンテの名において。火柱となり敵を燃やせ。プロミネント!」
爆炎がアレンから吹き上がり、死骸は一瞬にして灰になった。フード教官のフードもめくれ上がる。
(あ、女だ)
未だ消えない魔法の炎に照らされるのは、清楚さの中に妖艶さが混じった、大人の女性だった。
何だろう、何と言えばいいのだろう。この胸に熱くなるような感じ。
恋なのかな?
その時、急に耳がもがれる痛みが走ったかと思うと、隣には、炎に照らされた般若顔、ベーラさんがいた。
「…見過ぎだろ?」
「…はい、見過ぎました。」
「…耳の穴から手突っ込んで、奥歯ガタガタ言わすぞ?」
「申し訳ありませんでした。」
なんだろな、機嫌悪いな、生理かな。
女性の機嫌の悪さに出くわした時の、心の一句を思い浮かべてしまった。
それからは、ベーラに気づかれないように、フード教官をちらちら見ていると、フード教官がこちらにやって来た。
奇麗な女性にドキマギモジモジするのが10代で、鼻の下が伸びるのを隠して、背伸びしながら声をかけるのが20代だとしたら、男の30代は違うぞ。自然に鼻の下を伸ばして声をかけることができるのだ。
「訓練生サーノです。今日から第1組のトップになりました。」
フード教官に手を差し出す。
ついでに借り物イケメンスマイルも使っとくか。
ニコリ。
「坊や。名前は何ていうの?」
フード教官は俺の隣を何も言わず通り過ぎ、フンドに話しかける。
ガン無視かよ。
しかし、フード教官には、ただならぬ威圧感があり、フンドはベーラの後ろに隠れてしまう。
ベーラはやや強ばった顔で、フード教官に話しかける。
「あの…教官様。もう少し笑顔で近づかれるとよろしいかもしれません…」
「坊やのお父さんの名前は何ていうの?」
ベーラを無視して、そのまま刮目してフンドに話しかけるフード教官。
いやいや、怖いって!
「…ワンダお父さんです…」
フンドが怯えながら答えた。
「ワンダ…ワンダ…ワンダァァァ!!」
急にフード教官が野獣のような声を上げる。
「こんな小さな子どもを隠していたなんて!!」
あぁ、ダメだ。この人メンヘラだったんだ。
「きぇぇぇぇぇ!」
フード教官は走り去った。
女が大きなストライドで駆ければ駆けるほど、男の目は、好色から尊敬の眼差しに変わるのも真実だ。それに、奇声が加われば、俺の淡い恋心はジエンド。
星空を見上げて呟いてみる。
「初恋、失恋に終わりけり、か…」
ベーラに思い切り足を踏まれる。
だから、痛いですって。




