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第23話 哀しい死亡確認

 アレンは、『烏賊聖拳奥義!烏賊妖拳いかようけん!』という技で、折れた手足の他にも手足を体から噴き出し、イカの足みたいに10本になった。


 キモい!!


 しかも、3本足で、一本折れてても『動けるんだぜ、俺は』的な軽やかなステップを踏んでるところが、ますますエモい。


 しかし、これはまずい展開だな。


 奴の折れた以外の手足が8本鈍く光りだす。

 あれが全部急所攻撃になるなんて。食らったら死ぬぞ…


「お祈りは済んだか?」

 アレンが邪悪な笑みを浮かべる。


「それはこっちのセリフだ。ゲソ揚げにしてやるぜ!」


 もってくれよ、俺の魔力。


 アレンの5本の伸びた手が、俺に一斉に向かってくる。

 俺もアレンに向かって全速力で駆ける。


(パラリシス!アンジーナ!)

 奴が苦悶の表情を浮かべて、手足の動きが止まる。

 

(アンジーナ!アンジーナ!アンジーナ!アンジェリーナジョリー!)

 俺は呪いの言葉のように、アレンに胸痛を起こす黒魔法を何度もかけながら、猛ダッシュで近づく。


 今度は、必ずチョークスリーパーを決めてやる。

 何があってもしがみついて離れない。決死の覚悟だ。


 再びアレンの後ろから、奴の首を抱え込み右肘でロックする。

 アレンの手が3本ほど俺の急所を狙ってうごめく。


(パラリシス!アンジーナ!)

 手足の動きが止まるが、すぐに手足が蠢き始める。

(パラリシス!くっそ!なんで頸動脈が決まらない?)


 その時、すっとアレンの首が伸びたかと思うと、そのままアレンの頭が俺の鼻っ先に落ちてきた。


(痛ってー!)

 鼻骨と前歯が折られた。

 鼻血が流れ、口の中に鉄さびの味が広がる。


 鈍く光ったアレンの手足が俺の胸をしたたかに打ち、バキっという音と共に俺は、吹き飛ばされた。

(ちくしょう。肋骨も2,3本折られたな。)


 リングに何とか着地した。俺はアレンの姿を探す。


 いた。

 ろくろ首のように首が伸びていた。


 観客から悲鳴が上がる。


「ふはは!なかなかいい攻撃だったが、それまでだ。とどめを刺してやるぞ!」

「…ってめー、首伸ばせたの何で隠していた!」

「…キモいからだ。」


 …腰が抜けそうになる。

 奴の美的感覚とか、うんこだったはずだろ。

 最初から首伸ばしとけよ。なんでここで、隠し技みたいなノリになるんだよ。


「驚いたぜ。そのうち、口から黒い精液でも吐きそうだな…」

「…お前なぜ、その技を知っている?」


 あるんかい!


 というか、こんな変態に負けるなんて、本当に悔しくなってきた。

 奴に弱点はないのか?

 鑑別スキルをダメ元でかけてみる。

 すると、奴の折れた手足が黄色く光った。

 そして…


(あれは?)

 背中に赤く光る点が見える。


(おそらく、あいつの急所だ。それか魔石か。奴は魔物なのか?)


 俺は、自分の痛み緩和のために用意していた、はりに手をかける。


 おそらく、黒魔法は打てて、あと数発。この鍼に命運を託す。


 口にたまった血をプッと吐く。

「まさか、お前が魔物だったとはな。」

「違う。俺はスキルを極めた男なのだ。」


(パラリシス!)

「ふはは、最初は手足が動かんかったが、今ではもう、それは効かんぞ!!」


 やはりそうか。

 パラリシスを連用すると耐性ができてしまうのか。いや、俺の黒魔法をくらい続けて、奴のレベルが上がってしまったのか。それは分からない。


 しかし…


 俺は、鼻血を流しながら猛ダッシュをする。


「無駄だ。死ね。」

 奴の手足が光り、俺をめがけて伸びてくる。


(ダーク!)

 「なに!」


 俺は、跳躍した。

 そして、アレンの伸びる手足を避けた後、奴を飛び越し、背後の赤い点に、鍼を突き刺した。その瞬間白くフラッシュした。

 俺はそのまま前転して、奴と距離をとり、身構えた。


(うぅ、痛ぇ…)

 二日酔いのような頭痛と吐き気が出る。

 魔力切れだ。

 しかし、ここで倒れるわけにはいかない。俺は頭を振って、アレンを睨む。


「ハハハ!お前の決死の技が背中に針を刺すことなんてな。全然効いてないぞ!」

 アレンが伸びた手で、背中に刺さった鍼を抜いて笑う。


(くっそ、やっぱりぶっつけ本番はダメだな…)


「終わりだな!じゃ、死ね!」

 アレンの手足が光り、また伸びてくる。


(ここまでか…やんぬるかな。)

 俺は鍼を取り、疼痛緩和のツボ、左手にある合谷ゴウコクを刺し、目を閉じた。



「うわぁぁー!!」

 目を開けると、アレンが悲鳴をあげていた。

 そして、奴の8本の手足は目の前で千切れていた。


 アレン側の根元と、手の先、足の先側に申し訳程度に筋肉が付着しており、骨の伸びに筋肉がついていけず、引きちぎれてしまったようだ。

 アレンの手足の根元からは大量に血が噴き出している。


「くそ…」


 アレンの増えていた10本の手足は、元の4本に戻るが、左手足は骨が露出し、筋肉を失っていた。アレンはそのままバランスを失い、ドシンと倒れる。


 俺は二日酔いのような辛さが合谷を刺したことで若干マシになり、少しずつアレンの元に近寄る。

 大量の出血で、アレンは息も絶え絶えの様子だった。


 おそらく、あの赤い点は、筋肉をこわばらせるツボで、無理に手足を伸ばしたことで筋肉が伸長できず、引きちぎれてしまったのだろう。


「た、たすけてくれ…」

「…」

「た、たのむ…たすけてくれぇ…」

「勝手なこと言いやがって!貴様はそうやって、命乞いした者を何人殺したんだ!!」


 決まった、完全に。

 まさか、俺がこのセリフを言う日が来るとはな。


「ほ、ほとんど盗賊だ…お、王令に違反した奴らだ…」


 まぁそうだよね。仮にも騎士団候補生だったよな、こいつ。


 放っておけば、勝手に失血死すると思うが、助けるなら回復薬を使うのか?

 判断がつかないので、俺はユバル団長に相談することにした。


「ユバル団長。勝負ありました!」

「あいわかった!」

 ユバル団長が、リングに上がってくる。


「だ、団長… た、たすけてください…」

「アレン、それはできない。これは決闘なのだ。」

「そ、そんな…たすけてくださいよ…」


「…アレン、それではせめて私の剣で楽にしてやろうか?」

 ユバルは、剣に手をかけたところで、リサの声が響いた。

「ユバル様、それはなりません。剣がけがれます!」


 おうおう、リサの奴、厳しいね…


「それもそうか。サーノ、お前は決闘に勝利した。その戦いぶり見事だった。ルッソとともに第1組に昇格とする。更に励め!」

 颯爽とマントを翻し、ユバル団長はリングを降りていった。


「ち、ちくしょう…」

 アレンが涙を流しながら仰向けになる。

 

「アレン、お前はもう手遅れだ。せめて楽に逝かせてやる。」

 俺は、アレンの下腹部にある、関元カンゲンに鑑別スキルを用いながら鍼を刺す。


「これで、少しは痛みがマシになっただろう。」

「の、呪ってやる…サーノ、お、お前だけは地獄で…の、呪い殺してやる…」


 そう言って、カッと目を見開いたかと思うと、アレンは事切れた。


 俺は、鍼をアレンの瞳孔に当て、角膜反射がないことを確認した。そして、奴の胸に耳を当て、心音、呼吸音がないことを確認し、

「正確な時刻も分かりませんが、ご臨終です。」

 静かに黙とうした。


「まさか、自分が殺した奴を死亡確認する日が来るとはな。」

 俺は、アレンの目元に手をやり、閉眼させた。


 人をあやめた時の、このやるせなさを忘れてはいけないと心に誓う。


 ルッソが、足を引きずりながらやってくる。

「アレンの最期は…」

「ああ。痛みを和らげてやったら、『ありがとう』なんて柄にもなく言って逝ったぜ。」

「そうだったんだ…」


「サーノ!!」

 声の方を見やると、ベーラが俺の胸に突っ込んできた。


 痛い、痛い。あばらが折れてるんだぜ。


「ばか!もう死んだと思って、気が気じゃなかったわよ!」


 こんな時は、肩を抱いてやるべきか?

 ルッソを見る。うんと頷いているから、そうなんだろうな。

 そっとベーラの肩を抱く。


「…サーノ。」

 ベーラが顔を上げて、俺を見つめる。

「えっ、あんた前歯なくなってんじゃん!ふふ、ひどい顔!」


 あ、そうだった。しかも鼻骨も折れてるんだな。

「速く回復薬、使いなさいよ!」

「ありがとう。とにかく疲れたな…早く、風呂にでも入りたい。」

 

 俺が大きな一息をいれた、その時である。


 一人の男が、今にも死ぬんじゃないかという表情で野外競技場に走り込んできた。

「ユバル団長!」

「なんだ?」

「伝令です!ここからほど近い町テノワルが、魔物たちに滅ぼされました!」

「何だと!」



第1章 完

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