第22話 決闘
ユバル団長に、どちらかが死ぬまで決着がつかないという決闘を説明をされて、俺は、『まぁ、そうだろうな。』と思っていた。
以前、ターニャ副所長が、俺たちのトレーニングの場に現れて、ルッソの絞り汁を飲み干すという奇行をやってのけた日があった。その時に、『アレンはどんな手を使っても、お前を殺しに来るだろう』と忠告を受けていたからだ。
もっとも毒殺や、試合中の事故死などを装って仕掛けてくると考えていたので、用心はしていた。俺の鑑別スキルは、毒も黄色に光らせるので、俺には通用しない。
「それに…」
俺は、ズボンに編み込んだ鍼に触れた。
万事休すという場面になれば、この鍼を自分のツボに刺して、痛みを緩和して死んでやるのだ。俺が前世で味わった、くも膜下出血の頭痛はトラウマだ。尿管結石の100倍痛い。痛いのはもう嫌なのだ。
「サーノ、今の説明で十分か?」
ユバル団長が俺に問う。
「分かりました。ただし、この決闘に勝てば、ルッソと俺は第1組になるということでいいですね。」
「アレン、どうだ?」
「望むところだ。ジギも、それでいいな!」
皆の視線がジギに集中する。
「アレンが思うようにやれ。」
ジギは、リングから降りた。
俺も、ルッソに視線を送る。
ルッソがその意味を理解してリングから降りる。
「では、このリングで、双方そのまま戦え。お前たちの邪魔にならぬよう、私は外から見守ることとする。どちらかが絶命すれば呼べ。」
ユバル団長は、そのままリングを降りる。ユバルに付き添っていた女も降りようとするが、俺に目線を寄越した。
(どこかで見た顔だな…)
女は、ニヤーと口を歪め、長い舌を出して、舌なめずりした。
(ヤバいよヤバいよヤバいよ)
頭の中で、俺の生命警戒音(通称デガワ)が鳴り響いた。
あぁそうだ、リサだ。あの逃亡者ノロスの首をねじ切って殺した女。
なんで、こいつ、団長と一緒にいるんだ。
そんな疑問が浮かんだところで、リサは団長とともにリングから離れていった。
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「ユバル様、よろしいのでしょうか?」
リサは、ユバル団長に付き添いながら小声で尋ねる。
「何がだ?」
「ユバル様は、かねてよりアレンにしかできない役割があるとおっしゃっていたのでは?」
「そうだ。」
「仮にアレンが死ぬようなことがあっては…」
ユバル団長は、リサに微笑みながら言った。
「奴の役割は、咬ませ犬だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「…分かりました。」
ユバル団長は、振り返り、サーノを見やる。
「面白いものを見せてくれよ。」
**
俺とアレンは、リング中央で対峙している。
ユバル団長の合図を待っているのだ。
アレンが口を開く。
「お前には去年のように、ケツを蹴られ続ける犬の散歩をさせようと思っていた。毒針を仕込んだ足で、てめえのケツの穴を蹴り上げて、体の中から腐らせていく最高の作戦だったんだ…」
「頭の中身もイカ以下だとわかる、くだらない作戦だな。」
「その毒針も、奴らとの戦闘でなくなってしまった…」
「大事な毒針だろ?紛失届を出すといい。」
「全部、全部、全部、お前のせいだーーーーーー!!絶対殺してやる!殺してやるぞ、サーノ!!」
アレンが咆哮をあげた。
壊れてやがる。
頭に血が上って、単調な攻撃になってくれたらよいのだが。さて。
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「なんでよ…」
ベーラは、消え入りそうな声で言った。
咆哮をあげるアレンの前に立つサーノの姿が、もう滲んで見えてしまう。
ユバル団長が裁定者になって決闘になってしまったことは分かる。
でも、心が追いつかなかった。
「ここで死んだら何にもならないじゃない…」
「お嬢様…」
執事は、ベーラの肩が震えているのを、見守るしかなかった。
**
「二人とも用意はいいな!」
ユバル団長の声が凛と響く。
「はい!」「はい。」
ユバル団長は静かにうなずく。
「ただ今より、アレンとサーノの決闘を行う。はじめ!」
合図とともに俺は、ひれ伏す。
その瞬間、俺の頭の上を、伸びる両腕が過ぎ去っていく。
医学部時代から培ってきた、ジャンピング土下座をなめんよ!
低い姿勢から猛然とダッシュする。
両腕が伸びてスキができたアレンの鳩尾に右掌底をぶち込もうとしたら、奴の左膝に阻まれる。
(織り込み済みだ…アンジーナ!)
アレンの顔が苦痛にゆがむ。
俺は、アレンの折れた右足を払い、奴が戻しつつある腕に気をつけながら、奴の首を固めに行く。
(頸動脈締めて、逝かせてやるぜ!必殺チョークスリーパー!)
アレンの首元にある頸動脈洞を右腕で完全に締めあげる。
渾身の力を込めた。
(7秒で気絶させてやる!)
その時、奴の曲がるパンチが俺のわき腹を突いた。
(嘘だろ…息が、できない…)
むせ込みながら、俺は転がり、アレンから離れて距離を取る。
(奴の拳が…光ってる?)
アレンの拳が鈍く光っている。
「ふはは…何をやったか知らんが、鋭い一撃だったぞ。しかし、俺の烏賊聖拳に到底及ばん!」
「烏賊聖拳だと…?」
「烏賊聖拳は、生者必殺の技!拳の当たる所、これ即ち急所となるのだ!」
…キモい。
ちょっとでも手に当たったら、そこが急所とかキモい。何よりネーミングセンスがキモい。
いや、エモい?
「サーノ!お前には特別に、地獄の苦しみを味合わせてやる!うおおお!」
またこれ、うんこの構えだ。させるか!
(パラリシス!)
「なっ!」
俺は、動けなくなったアレンに対して、奴の足にタックルをかまし、転倒させた。そして、右手を固めに行く。
アレンは右足を伸ばしていない。おそらく骨折したら、イカみたいに動かせないようだ。
パラリシスの効果はもってあと数秒だろう。それまでに、右手を…
バキーーー!!
「ぎゃぁぁ!!」
アレンの悲鳴があがる。
腕ひしぎ十字固め。
格闘技で最もポピュラーな技だが、それだけに素人がやると大けがをする。俺はガチで折るつもりで、腰入れてのけぞったが、良い子はマネしちゃいけないぞ。
もう一回、頸動脈を決めに行こうと思ったが、奴の体が動き始めたので、急いで距離をとる。
観察すると、右手足が変な方向に曲がっている。
バランスを取るのも大変そうだ。
「ゴミが!!死ねーーーー!!」
アレンは、左手を伸ばしてくる。
当たると急所攻撃になるというのだから、ここは逃げの一手だ。敵に背を向けて走り、手に当たるかもというところで、クイックターン。方向を変えて奴の姿を追う。
「くそが!ちょこまかと!もう許さん!!」
再度、アレンが気合を込める。
(ちっ、パラリ… ダメだ。間に合わない。)
「烏賊聖拳奥義!烏賊妖拳!」
アレンの体が光を放ち、まぶしくて見てられない。
やっと視力が戻った時、俺は奴の姿に驚愕した。
「俺がこの技を出した以上、お前は数秒の命だ!」
なんとそこには、手が6本、足が4本となったアレンがいた。
「…」
「死への恐怖で、言葉も出ないか…サーノ、討ち取ったり!」
「…」
「ふはは、何か反応してもいいのだぞ!」
「…」
「おい!」
いやいや。
キッッッモ!!!




