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第21話 アレンの提案

 上級者の戦いへの歓声と、サーノとルッソのあり方に対するブーイングが鳴り響く中、観客席には、ワンダ軍曹親子もいた。


 「すごい…」

 フンドは、目を見張った。


「お父さん。あの人たちのかまいたちを出す技、反則じゃないの?」

「あの者たちが使っている、空斬拳、空斬脚というのは、自分の壁を超え続けた猛者にしか使えない技で、固有のスキルとは違う。お父さんもあの技は使えるんだぞ。」

 ワンダが声を張って説明する。

 フンドが頷く。


「あのお兄ちゃんたちも残っているね。」

「うむ…。あれは、運がいいのか、実力があるからなのか、分からん。」

「そうなんだ。」

「しかし、戦場では、最後まで立っている者が勝者なのだ。」


 フンドは心配そうに、サーノとルッソの二人に目を向けた。

(弱そうなお兄ちゃんたち、頑張って!)

 フンドは、サーノとルッソにエールを送った。



**



 観客席にいたベーラは、驚きと嬉しさを隠せなかった。

 

「何してんのよ、あいつら!」

「ふふふ、お嬢様、そうおっしゃるわりには嬉しそうなお顔をされていますよ。」

「何言っているの!あぁ、情けない姿!コソコソと逃げ回って。」

「ふふふ、失礼いたしました。」


 ベーラが見てきたサーノとルッソは、いつもルッソが最初に『降参です』と叫んで、そのあと『降参』と言い遅れたサーノがボコボコにされるというパターンだった。

 それでも、サーノとルッソの出番はいつも最後なので、ベーラは御前試合のすべてをVIP席から見ていた。


 たしかにかっこ悪い。そしてズルい。他の試合と見比べてもダーティーすぎる。

 でも、これまでとは違う戦いを見せて、すでに、4人が脱落し、サーノとルッソが第3組以上の序列昇進を決めたことは嬉しかった。強制労働奴隷になる可能性はグッと減ったのだ。


「頑張りなさいよ、サーノ、ルッソ。」

 ベーラは小さくつぶやき、祈った。



**



 アレンが、『ゴミ掃除をしないとな』と俺たちに目を向けた。


 アレンの目の前にいる、リムとゴウトはすでに、ジギの技を受けて、血みどろになり、満身創痍の状態である。アレンと最初から戦闘し、空斬拳を少し食らったゴウトは、立っているだけで精一杯な様子だ。


「ゴミ掃除なら、まずお前がゴミ箱にダイブしろ、イカ野郎!」


 アレンの空斬拳タイムは既に終わっている。

 俺は、アレンに向かって、駆け出す。


「ゴミくずが!ひねりつぶしてやる!」

 アレンが大声をあげた。


 俺とアレンとの距離が詰まり、奴の射程に入りそうな時である。


「汚ねーぞ!!!」

 アレンが叫ぶ。


 俺は、先ほどアレンがリングを切り裂いた時に生じた細かい砂石を、アレンの目に向けて投げつけてやったのだ。目くらましだ。

 そして、必殺エルボータックルを、奴の右膝目掛けてぶち込む。


 バキーー!!

「ゴミがー!!!」


 俺とアレンはもつれるように倒れ込む。

 すかさず、俺は、奴の右足を固めに行く。


 サッと鑑別スキルを用いて、アレンをスキャンすると、奴のスネの骨は…


 黄色く光っていた♡


「折ったどーー!!」


 試合が始まる直前にアレンを鑑別したとき、奴の右脛骨はたしかに回復していたが、わずかに変位があることを俺は見抜いていたのだ。


 相手の故障部位を最後まで攻め切る。これぞスポーツマンシップなのだ。


 アレンの右足に関節技をかけようと、体をひねり込もうとした時である。


「平和を乱す悪党め!トウッ!」

 ルッソの助走をつけたインステップキックがアレンのこめかみに決まる。


 ボス!


 ちなみに、ルッソが攻撃するときに、『悪党め!』と声を出せと指導したのは、俺だ。

 ヒーロー達は黙って、暴力を振るわない。

 敵対勢力に、『平和を乱す悪党め!』と言えば、誰でもヒーローになれるのだ。


 しかし、ルッソは痛そうに足を押さえ、アレンを見る。

「痛い…なんて硬さだ…リムさん、ゴウトさん。今です!」


 第2組のリムと第3組のゴウトが最後の力をふり絞って、仰向けになっているアレンの急所に、肘を中心とした打撃技を叩き込んでいく。


 俺は、リングコーナーで空斬脚を繰り出したジギが妙な動きをしないか警戒していた。しかし、力を使い果たしたのか何をするでもなく、悔しそうに床を叩いている。


(演技じゃないよな…)


 俺はアレンの右足にアキレス腱固めを決めながら、アレンの表情を伺い知ろうとすると、アレンは気を失っているわけではなく、プルプル震えていた。


(ルッソ渾身のキックを急所に食らって、マウント取られて、よってたかって急所攻め立てられたら、普通は意識無くすだろうよ…)


 アレンの様子は気味悪いが、ビクトリー大作戦は継続だ。


(さ、この関節技で、ウインナーのCMみたいに、バキッと奴の脛骨を皮膚から飛び出させてやる。再起不能の複雑骨折にしてやるぜ!)


 俺が力を込めようとしたら、奴の足がスルッと抜け、俺は胸を蹴り飛ばされた。


(ぐぇっ!えっ、なんで?)


 俺はそのままリングを滑るようにアレンから離れた。


 俺は驚き、アレンを見てみると、なんと…



 奴の左足が伸びていた!



 そのままアレンは、右手をニョーンと伸ばし、重傷を負っていたリムとゴウトを薙ぎ払い、リング外へと吹き飛ばす。ルッソは辛うじて、その攻撃をかわした。

 アレンは、手足を元の長さに戻すと、顔を下に向けたまま、右足をかばうように立ち上がった。

 俺も、立ち上がった。


 これだけは言っておかなねばならない。


「アレン、お前。正真正銘のイカ怪人だったんだな!!」


 あのイカ臭イカ野郎。ベーラをのぞき見していた時からイカ臭いと思っていたが、納得だ。手足をぐにゃぐにゃさせやがって!


 …そうか。


 俺が、初めてアレンと戦った時に、パンチもらったのも、野郎、手の長さをいじってやがったんだな。訓練所の喧嘩でスキル使うなんて、王令違反で死刑だろうが!


 観客席のざわつきが大きくなる。


 審判員が叫ぶ。

「アレン選手!スキルの使用は御前試合では禁止されている。よって、失格とする!」

「…」

「今すぐ、リングから降りなさい!」

「待てよ!」

「え…」


 いやいや。


 『ちょ、待てよ』とか、キムタ〇気取りかよ。

 そりゃお前の精子みたいな顔、鏡で確認してから言えってんだ。


「イカ臭いから、審判の方も消えろっておっしゃってるだろう。消臭剤を撒いてから消えろ。」

 俺も審判員に加勢する。


 その時、アレンの腕が伸びて、審判員を吹っ飛ばす。


 えー、何それ。

 壊れたのか、こいつ?


「サーノ!決闘だ!俺と決闘しろ!!」

「いやだね。早くリングから降りろ。ついでにルール違反したんだから土下座しろ。」

「こいつ、殺すぞ。」


 アレンはルッソを指差した。

 

(野郎、瞳孔の光が全くない。ガチのサイコパスと全く同じの目だ。本気でる気だ。)


「しょーがねーイカ怪人だな。決闘ってどうすんだ?」

「誰か裁定者を!」

 と、アレンが観客に向かって叫ぶ。


「あいわかった!」


 観客席から声がしたかと思うと、イケメンがやってきた。しかも女連れ。

 なんだよそれ。

 こちとら、これからイカ怪人征伐なんだから、そんなリア充見せつけなくてよいよ。


「ユバル団長!」

 アレンが言う。


 あ、そうだ。このイケメン、団長だった。


「アレン、サーノ。決闘の裁定者は私ユバル・ロコルが務めよう。異存あるまいな。」

「ありません!」

 アレンが背筋を伸ばして言う。


「あの。決闘の規定を教えてください。」

 と俺は言った。

 だって、俺はトリセツ読まないと、家電製品使えない男なんだぞ。


 ユバル団長は口を開いた。

「もちろんだ。これからお前たちは、命をかけて戦う。決着はどちらかが死ぬか、戦闘不能になるまでだ。全ての力つまり、スキルを用いることも可能だし、武器の使用も許可する。簡単に言えば、相手をどんな手を使っても殺せばいい。」


 えー。どちらか死ぬまで決着つかんのですかー。

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