第20話 ハイレベルな戦い
御前試合の花形と言われる、3番リングの最終試合。見守る観衆がどよめいた。
なんと、ザコでしかない第5組の連中が第4組を打ち破ったからだ。
しかし、そのダーティーなやり方に、ブーイングがはじまる。
ユバル団長も試合を見守っていたが、一人神妙な面持ちで、サーノとルッソの動きを見ていた。もちろん、鬼気迫る戦いを繰り広げる第3組と第1組の戦況を把握しつつだ。
「下らない連中が残りましたね。」
「そうだな…」
部下に相槌を打ちつつも、ユバル団長は、サーノとルッソの戦いに単純に興味が湧いた。
見たこともない体術、熟練のタッグプレイ。
ユバル団長の目に喜色が浮かんだ。
「面白い連中だ。」
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第4組を離脱させ、俺は周りの様子を伺った。
第1組のアレン&ジギのペアは第3組のゴウト&ザックのペアと交戦中。
第2組のリム&ガランは、動かず経過を見守っている。
もちろん、どの組の連中も、俺たちを警戒しており、時々視線がぶつかる。
「ルッソ、ビクトリー大作戦継続だ。」
ルッソが頷き、今度は第2組の二人に呼びかけた。
「リムさん、ガランさん。今戦うべきは第1組です。みんなで第3組に加勢しましょう!」
「…」
第2組のリムとガランは、慎重かつ現実主義者だ。
ルッソの情報によると、魔物との戦いでも、撤退の判断は完璧で、戦いの嗅覚が優れている。
第2組の連中にとって、序列を上げるには第1組を倒すしかないのだが、後ろから刺されることにも警戒しないといけない。
こういう状況では、動かないというのも手である。
実際俺たちが動かないと、第2組は動かないだろうな。
ルッソに目で合図を送ると、俺たちは、猛然と第1組の後ろに走り込み、第3組と挟撃する形をとった。
「ゴミどもが!何のつもりだ?」
アレンが、俺たちに背中を向けたまま、挑発してくる。
「お前の前に立つと、イカ臭くてやりきれないからな。」
ひとまず、挑発で返してみる。
「お前だけは時間をかけて殺してやるから待ってろ!ジギ、ちょっと時間を稼げ!」
アレンはジギに指示した後
「うおおおお!!」
と唸り始めた。
(うんこでも漏らすのかな。)
ジギは、アレンの前に出て、第3組のゴウトとザックの連撃を一人で捌き、互角の戦いを繰り広げていく。
俺とルッソはジギの気迫に押されて、動けない。ちなみに、アレンのうんこボイスも迫力があって、なおのこと動けない。
「ジギ離れろ!」
アレンがそう言ったかと思うと、ゴウトとザックに向かって急に距離を詰め、拳を繰り出す。
(分かりやすい正拳突きだな。適当にいなしてカウンターを狙えばいい。)
そう思ったが、
「ゴウト、よけろ!」
ザックが叫ぶ。その声を聞いてゴウトが右に跳ねる。
拳をかわしたところで、ゴウトの体に、無数の切り傷が出現し、血が吹き出した。
「空斬拳…」
ゴウトが目を見開きつぶやく。
(えぇぇ、空斬拳って何?防御できないの?ヤバくない?)
俺が、一人テンパっていると、アレンの気持ち悪い声が響いた。
「ヒャハー!次は死ね!」
アレンはゴウトに連続の空斬拳を繰り出していく。
アレンの迫力に、ザックが息を飲むと、「お前の相手は俺だ。」という声とともに、ジギのハイキックがザックを襲う。
「…っ」
かろうじてその蹴りをザックがよけると、ジギは、蹴り技のラッシュをザックに浴びせかける。
目にも止まらない蹴り技、最大集中しても防戦一方だったザックの首元に、避け切れない鋭い蹴りが迫る。
その瞬間だった。
「…何の真似だ?」
蹴りを浴びせていたジギが後ろに飛びのき、驚いたように言った。
その必殺の延髄斬りはザックに当たることはなく、ジギの前には、第2組のガランが、ザックを守るように立っていた。
「ジギ。お前の蹴り技は見ていてあくびが出る。本物を教えてやろうと思ってな。」
「ほう。寝ぼけてしまって、俺の技がよく見えないようだな。」
第3組のザックと第2組のガランがタッグを組み、第1組のジギに対峙する。
*
ガランがザックの助けに入ったように、第2組のリムは、第3組のゴウトの助太刀に入っていた。
アレンが口を開く。
「俺に歯向かおうなんて、頭おかしくなったんじゃないか?へっぽこリムさん。」
「黙れ、アレン。ゴウトとか言ったな。あいつの空斬拳は、ある程度時間が経てば使えなくなる。」
リムは、目線をアレンから外さず、ゴウトに話しかける。
「なるほどな。」
ゴウトは、フンと鼻を鳴らした。
*
(やったね!)
俺は、ほくそえんだ。
狙った構図になった。
第2組と第3組が協力して、第1組と戦っている。
このままお互いに体力を大いに削ってほしい。
これが、漁夫の利、いや、ビクトリー大作戦の真髄なのだ!!
しかし、俺とルッソは、戦闘の気迫に押されて体が自由に動かなかった。
(ここにいれば、とばっちりを受けて、偶発的に死ぬ。)
連中から見えないように、ソロリソロリと後ろに下がろうとしたその時である。
アレンがこちらに手刀を切るマネをしたので、急いで飛びのいた。風が目の前を通り過ぎ、足元のリングが、切り裂かれ、粉々になった石が散らばった。
(いつでも殺せるってことね。口で言えよ、イカ野郎。)
三つ巴の戦いは激しさを極めた。
アレンの空斬拳を使える時間は限られているので、その時間をやり過ごそうと、第2組のリムと第3組のゴウトは逃げ、アレンは二人を追いかけるという、壮大な鬼ごっこをしている。
第2組のガランと第3組のザック、そして第1組のジギの戦いは、全員が素早い足技得意とするところもあって、その蹴り技がぶつかる波動をモロに感じる。
アレンの繰り出す空斬拳のとばっちりもあるので、結局、俺とルッソは、リングの片隅で肩を寄せ合う形で避難していた。
俺たちに一番近いところにいる観衆が、「お前ら!チ◯コついてんのか?!戦えよ!」と罵声を浴びせてくる。
訓練所の女子諜報員たちだ。
女の子がそんな乱暴な言葉使いしてはいけませんよ。
その時である。
ジギが、ガランとザックから距離を取り、『うおお!』と叫びながら、リングコーナーに潜んでいた俺たちに走り向かってくる。
(えっ、やばい!)
これは、さっきのアレンがやった、うんこの唸りだ。おそらく必殺技が出る!
「ルッソ、アレンへ向かって走れ!」
ジギはこちらを見やり、『チッ!』と舌打ちし、俺たちの元居たリングコーナーに位置取る。そして、追いかけてくるザックとガランへ振り返った。
「ジギ!これで終わりだ!真蹴撃!」
ガランは、ものすごい速さのドロップキックで、ジギとの距離を詰めていく。そして、ジギの顔面に、ガランのキックがめり込もうかというその瞬間…
「空斬脚!」
ザックとガランは、もろにかまいたちを伴う蹴りを受けて、血しぶきを上げながらリング外へ吹っ飛ぶ。
そしてその余波は、アレンと対峙していたリムとゴウトをも襲い、二人から鮮血がほとばしった。
「ジギ!」
アレンが叫ぶ。
ジギはリングコーナーで、手をつき、息も絶え絶えの様子であったが、うつむいたまま、アレンにサムズアップした。
俺とルッソは、ジギの必殺技が来ることを見抜き、アレンと距離を詰めていたので、空斬脚のダメージをもらうことはなかった。おそらく、ジギはアレンにダメージを与えるようなマネをしないと思ったからな。
というか、今から、リングコーナーで必殺技を出して弱っているジギを、ドスコイ。寄り切ろうかしら。
いや、手負いの虎は侮れないというし…
結局、俺とルッソは、こっそり別のリングコーナーに、肩を寄せ合い避難した。
ふと、アレンを見ると、目が合った。
アレンは拳を握りしめ、言った。
「忘れてた…ゴミ掃除をしないとな!」
じぇじぇじぇ!




