第19話 花形リング
サーノには辛い思い出がある。
この3番リングでの戦いもその一つである。
3番リングには、第1組のトップレベルと、第2~4組の実力者、第5組の最下層が並ぶように訓練所側が組み合わせを考えている。
訓練所が収入を得る数少ない機会が、この御前試合だ。そこにはある種のエンターテイメントが求められる。
第3番リングは花形リングだ。ここに集まるのはどの組でもエース級だ。しかし、第5組の選出者に求められる役割は、コミックリリーフである。息もつけないような激しい戦闘の前に、いかに無様に負けるか。それだけの存在だ。
去年、サーノは第1組の奴から、みぞおちに一発決められ、嘔吐して這いつくばった。そして、『犬の散歩だ!』と尻を蹴られながら這いずり回る。他の組の連中にも足蹴にされ、最後は、盛大に蹴り飛ばされ、場外負け。
会場がドッと沸き、観衆の紳士淑女たちの嗜虐心を満足させる。
人間とは業深い生き物だ。
「畜生めぃ!だーいきらいだい!」
くそったれ。
だが、今年の俺、サーノは一味違う。かなりの修行をしてきたからな。
「ルッソ、行くぞ!」
「うん。」
正面の広場には、全員の男子訓練生の名前を書いた試合表が掲示されていた。
「じぇじぇじぇ!」
俺は3番リングでの最終試合、それもアレンとの組み合わせだった。
あいつが仕込んだのか?
まぁ、因縁があるし、二度とベーラに近づけないよう、ぶっ飛ばしてやるぜ!
「ルッソ。今年は開始一番の降参はナシだぞ。」
「うん。いつもそれで、サーノが痛めつけられるもんね。」
「…。と、とにかく、アレン以外の組の奴は、油断してくると思うから、ビクトリー大作戦を決行するぞ。」
「…いや、たぶん無理だと思うよ。」
説明しよう!
ビクトリー大作戦とは、相手をそそのかし、同士討ちを行わせることで、漁夫の利を得ようという、全く他力本願な作戦である!
だってさ、無理だべ。リング上の敵8人を相手にするのは。
「イケる。ルッソなら大丈夫だ。お前にはなんとなく説得力がある。」
「意味わからないけど…まぁやれるだけやるよ。」
ここはルッソを使って相手の情に訴える。『よってたかって弱いものいじめから始めるなんて、お前の技が泣いておるぞ。』的な感じでやれば大丈夫だと思う。だって、あの三つ目さんも説得されていたんだから。たぶんね。
「久しぶりだな!サーノ!」
そう呼び掛けられて、後ろを振り向くと、コスプレ犬マッチョがいた。
「ワンダ軍曹!いらしていたんですか!」
「元気そうだな。それに少し凛々しくなったのではないか?」
「いえ、滅相もありません。」
いやいや、なんで俺に話しかけてくるの?
俺、あんたに腹蹴り飛ばされただけの貧弱男子だよ。全然印象残ってないでしょ。
すると、ワンダ軍曹の後ろに隠れていた子がひょっこり顔を出した。
なんと。可愛いモフモフ犬っ子ではないか。
「ワンダ軍曹、そちらのお子様は?」
「ああ、私の倅のフンドだ。フンド、挨拶しなさい。」
「…フンドです。よ、よろしくお願いします。」
そう言ってフンドは、またワンダ軍曹の後ろに隠れてしまった。
なんだろう。なんと言ったらいいのだろう。
萌え。
「すまんな。人見知りというか、軟弱というか。こうした戦いの場を見て、経験を積めればと思ってやってきたのだ。」
「そうだったんですね。フンド君、俺はサーノ。よろしくね。」
「僕はルッソだよ。フンド君、よろしく。」
おそらく人間の子どもであれば10歳届かない位か。まぁ父親が軍曹みたいだと子どもも大変だろうな。
というか、こんな可愛い子に戦士の才能あるわけない。
「お前たちはいつ出番なのだ?」
「今日最後の時間帯です。3番リングです。」
「花形だな。健闘を祈る。」
「ありがとうございます!」
ワンダ軍曹とフンドが去っていく。いや、全くあの父親からどうしてあの子が。お母さん似なのかな。
とにかくだ。軍曹も見てるし、ベーラも見ているということで、ますます無様な格好で負けることが難しくなってきた。負けたらまた、腹蹴られて腕立て伏せさせられそうだしな。
*
試合はジャイアントキリングなどなく、順当に終わっていく。第1組と第5組がそのままの序列を維持し、時々第2、3、4組で序列が時々変わることがあるかなという感じだった。
ルッソはあまり試合を見ず、俺たちの対戦相手の情報を得るため、いろんなクラスに聞き込みに言っている。あいつ、地味に顔が広いからな。
やや、夕刻に近づいてきた頃、ついに俺たちの出番が来た。
(ちょっと緊張するな。)
リングに上がる。
対戦相手にざっと鑑別スキルを使うと、アレンたち第1組が、やはり俺たちよりもレベルは高い。次にレベルが高いのは、意外に第3組の奴らで、その次は、第2組の奴らだった。第4組の連中と、俺とルッソは拮抗しているが、そこまでのレベルの開きはない。
第1組だけが頭一つ抜けている。
一応、対戦相手に怪我や病気がないかスクリーニングをしたが、黄色く光る部位はなかった。
ちっ。弱点があれば、そこをネチネチ突いてやろうと思ったのに。
(ルッソ、まずは第3組の奴らを説得して、アレンたち1組の奴らに仕向けよう。できれば、第1組の奴らにヘイトを向けてくれ。)
(簡単に言ってくれるね。)
(頼むぞ。)
俺たちは、それぞれの組と等間隔に距離をとり、ちょうど20m四方のリングで、五角形のような形になった。
もちろん同じ組内で、戦闘してもいいのだが、野外訓練の時のペアでもあるために結束は硬い。となると必然的にタッグで他の組を倒していくことになる。
そして、ついに戦いのゴングが鳴らされた。
「ゴウトさん!正々堂々とやりましょう!」
ルッソが開口一番口火を切った。
「なんだ、どういう意味だ?」
第3組のゴウトがルッソに問いかける。
ルッソは、すでに情報収集で、相手の名前、特技なども掴んでいる。あの4組のポンチとタルトが意外と情報通で、いい情報が得られたらしい。
そして、ルッソの話しかけた相手が第3組のゴウトだ。典型的な熱血漢で仲間からの信頼も厚い。
「そのままの意味です。『弱きを助け、強きを挫く』を信念として努力してきたと聞いてます。それなら、今こそ巨大な敵に向かう時でしょう!」
「……。ザック、やっぱり作戦変更だ。やりたいときにやらないと、結局最高の力で戦えんだろうが!」
「…ったく。好きにしろ。」
そういって、ゴウトは、アレンと対峙し、思い描いた通りに、第1組と第3組のタッグファイトが始まった。
「ルッソ、ナイス!」
小声で言い、俺は第4組の奴に近づいていく。
「なんだ?」
第4組の奴が俺に警戒して、構えをとる。
「俺たちも一緒に戦わないか?第1組を倒せば、序列が上がるぞ。」
そう言いながら、俺は、爽やかスマイルで歩き続ける。
相手が怪訝な顔をしている。
スッと手を出し握手を求める。相手が何となく手を出してきたところで、そのまま手を取り、胸倉をつかみ、勢いよく大外刈りを決めてやった。
俺みたいな素人の大外刈りは、勢い任せのため、相手の後頭部が地面に直撃し、ノックアウトとなった。
「ってめ!この野郎!」
ペアの第4組の奴が、俺に、殴りかかってくる。
俺は後ろに飛びのき、
「ギョエーー!!」
と身の毛もよだつ絶叫を浴びせてやった。
相手が少しまごついたところに、後ろからルッソが、
「トウッ!」
と、そいつの股間を蹴り上げた。
悶絶して倒れ込んだ所に、俺が腕ひしぎ十字固めを決める。
「右腕をへし折るぞ!降参しろ!」
「こ、降参だ!」
訓練所は、打撃中心の体術体系であるから、こうした関節技の返し方は知られていないし、初めて関節技をかけられると、腕を折られる恐怖感に駆られる。
心を折るには十分なのだ。
俺とルッソは周囲を見渡した。
(さてと…残った連中をどうしてやるかな。)
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