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第17話 副所長ターニャ、暴走

今回の話は、やや性的でBL的な表現が含まれます。苦手な方は読み飛ばしてもらっても、ストーリーの把握に影響ありません。

どうぞよろしくお願いします。

「なんということだ!」

 サーノたちが訓練しているという場所に向かいながら、ターニャはひとりごちた。


「よりによって、訓練所内でサーノ訓練生とルッソ訓練生が男色に耽っているとは!」

 わずかな怒気を含みつつ、ターニャはつぶやく。

「あぁ、ルッソたん…」


 ターニャは気が動転していた。

「あのいたいけなルッソ訓練生、いやルッソたんが、サーノ訓練生に、あんなことやこんなことをされ、挙句あんなものを突き入れられているなんて…」


 ターニャは一息おいた。

「私はなぜ、知らなかったのだ!」


 ターニャが報告者を問い詰めると、最近の諜報部は、その話題でもちきりで、やれ今日は、サーノが攻めだったが、急に守りに入っただの、ルッソが白目を剥いていたなど、顔を赤らめて話しているという。


「全くけしからん!全くけしからんのだ!」


 ターニャの歩調が自然と速くなる。

「そういう情報は、すぐに私に報告するべきものだ。文書の山に混ぜるものではない。直接口頭で、いの一番で報告しなければならない。男色は、神への冒涜行為であり、異端審問に諮るべき内容であり、異端審問官としての職務の中心であり、そして私の本懐なのだ!」


 すでにターニャは駆け出していた。鼻息を荒くして、報告されていた場所に到着する。

 サーノとルッソは、対面に向きあい、お辞儀をしている。


(組み手か?いや、これは!!)

 ターニャがゴクリと息を呑む。


(お互いが、距離を付かず離れず牽制しあい、ルッソたんとサーノ訓練生がもみ合うように地面に倒れ、その後激しく、上の体位、下の体位と状況がめまぐるしく変わっていく!)


 ターニャは、サーノとルッソの組手を食い入るように見ている。

(とんでもないことだ!!しかも熱量が上がっている!!)


 ターニャの職種は、『熱覚師』である。

 あらゆる温度を視覚的にとらえることができ、使用されたスキルの『熱』の残滓を感じることができる。諜報部員にとって恵まれた才能といえよう。

 人は嘘を付く時も熱変動はあり、その変化をターニャは見抜くことができた。拷問といえば、ターニャの仕事と言っても過言ではない。


 ターニャは砂かぶりの位置まで、二人に近づこうとする。


「あまりにしんどい!!ルッソたん、もう少し私に、その熱い表情を見せてくれ!」


 匍匐ほふく前進をしながら、ターニャの独り言は止まらなかった。

(あぁ、ドキドキが止まらない。思えば、ルッソたんに注目しはじめてから、二人がベーラ嬢と面会する時には、必ず速記官として入った。ベーラ嬢が美しく眼福なこともあるが、何より、ルッソたんが可愛らしい。そして、ルッソたんとサーノ訓練生が並ぶと、二人の背景に大輪のバラが咲くのだ。ルッソたんの近くにいるということで、サーノ訓練生に嫉妬もしたが、まぁもう正直に告白すると、この二人の絡み合いが見れて、最高だ。)


「辛抱たまらんですたいね!フォー!」


 ターニャはジリジリと胸を焦がしながら、二人に近づいていく。

 それでも独り言は止まらない。

(この二人は何をしているのだ?お尻か?お尻にマウントを取りに行っているのか?見たこともない絡み合いだ。こういう絡みはもう少しゆっくりやるものではないのか?いや、夢にまで見た二人の絡み合いに、体が熱い…。ダメだ!ダメだぞ、ターニャ!こんなところで。ええい私の指め、勝手に動くな!)


 ターニャは片手の匍匐前進を続けながら、もう一方の手で秘密の部分に触れると、すでにそこは大洪…



「何をしている?」

「えっ!」


 ターニャが見上げると、ルッソとサーノが、汚物を見るようにターニャを見下ろしていた。


「鼻息荒く、もぞもぞ芋虫みたいに俺たちに近づいてきて…キモいわ!」

「ターニャ副所長…キモいです。」


(いや、キモいとか、正直やめてほしい。)


 ターニャは、着衣をただして、立ち上がった。

 ターニャは上背があるので、サーノには少し負けるものの、ルッソを見下ろす形になる。


(ルッソたん、かわいい♡)


「サーノ訓練生、ルッソ訓練生。貴様たちに、神への冒涜行為の報告があり、監視していた。なんだあの、男色に耽る様子は?恥を知れ!」


 ターニャは、ぎりっと奥歯を噛んだ。

(ルッソたん、ごめんね。これ、私の仮の姿なの。あとで、不問にするから。あぁ、少し怯えるルッソ君、たまらんですたい!)


「いやいや、恥を知れって。何を垂れ流して匍匐前進したのか分からんが、すでにズボンが泥だらけじゃないか。」


 サーノに指摘されてターニャは自分のズボンを見下ろす。

(なんということだ!サーノ訓練生の言うように、股間部分が泥まみれだ。房中術を会得し、スパイとして、数多くの男を沈めてきた私でも、これは恥ずかしい。どう切り抜けるか…)


 ターニャはキリッとした表情で2人に言い放った。


「…失禁した、大量に。」

「…こわい。」

 ルッソは怯えた。


(あぁ、かなり怯えるルッソ君、たまらんですたい!)


「ターニャ副所長、後ろを見ろ。」

「うん?」


 サーノに指摘されて、ターニャが振り返ると、諜報部員達がターニャを冷ややかに見ていた。


(これは、改めて組織訓練が必要な状況だな。)


 ターニャは威厳をもって、諜報部員たちに問う。

「お前たち、いつからそこにいたのだ?」

「長官の様子が少しおかしいと思い、気になったのであとをつけたのであります!」


(最初からか。厳しいな。)


 そこで、ルッソが口を開く。

「ターニャ副所長。自分たちは、単に体術訓練をしていただけです。」


 ルッソが、怯えながらもターニャに説明する。


「それは本当か?ルッソたん、いや、ルッソ訓練生。」

 ルッソは、ターニャの物言いにドン引きの表情をしたが、続けた。


「はい。こうして押し倒された後も、何とか戦闘できるように訓練していました。決して男色に耽っていたということはありません。」

「なるほど。サーノ訓練生は何か申し開くことがあるか?」

「いや、ルッソの言った通りだ。俺たちは御前試合に向け特訓に励んでいる。」


 ターニャは二人の顔をじっと見る。

「分かった。ただ、サーノ訓練生は、アレン訓練生とひと悶着あったことで、周りの目が厳しくなっている。今の体術とやらを練習していると、要らぬ誤解を周りに与えるやもしれん。今度、この体術の練習をする際には、私の練習場でやるようにしろ!」


「えー!本気ですかー!」と後ろの女子部員達が騒ぎ立てる。


 ルッソとサーノは顔を見合わせ、大きなため息を付き、言った。

「お願いします。ターニャ副所長」


 ルッソとサーノは、魚が死んだような目をしていた。

「分かった。さらに練習に励むとよい。では、帰るぞお前たち!」


 ターニャはブーブー言う部下たちを引き連れて、颯爽とその場を後にした。

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