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第14話 士官候補生アレン

 面会室から退室した後、俺とルッソは駆けていた。


「ルッソ、面会室から正門までの間で、面会者に一番近く接近できる場所はどこだ?」

「第1棟と馬車を待たせる厩の間に、第3棟の突出した場所がある。おそらくそこだと思う。」

「急ぐぞ。」


 基本的に面会者は、中の訓練生と自由に接触できない。

 ただ、この訓練所はもともと、軍事目的に作られた施設を、訓練所に改変したものである。

 つまり、外部の面会者の動線を考えて設計されたものではない。それで、面会所も、やや入り組んだ場所に作らざるをえず、面会者は施設内で結構な距離を歩くことになる。



 第3棟の突出した廊下部分で、ベーラをいやらしく見つめる男がいた。

「ベーラ・ユドルスク。今日は一段と美しいな。今に俺の女にして、よがり狂わせてやるからな。」

「そんな大声で、気持ち悪いこと言っちゃう奴は、驚くべき童貞イカ野郎だ!」


 男が振り返る。

「誰だ!?」

「ベーラが惚れてる男、サーノだ。」

「貴様!」

「お前…アレンだな。どおりでイカ臭いと思ったぜ。ベーラを見て、もう射精してんじゃないか?早く自分のパンツ確認しろ、早漏野郎!」


 …最悪だな。


 よりによって、ベーラを狙っていたのが、訓練所で最も力量があるアレンだったとは。


 第1組なのに、第5組の俺になんで、わざわざ絡んでくるのかと思っていたが、ベーラのことで嫉妬してたのか。


 ひとまず後先考えず罵倒してみたが、相手が悪すぎる。

 どうやってこの場を離脱するか考えないと…


「サーノ、お前、どうやって死にたい?」

「よく聞け、童貞イカ野郎。俺に面会者がいることをシコシコ突き止め、ここでベーラをシコシコ見ていたと思うと虫酸が走るぜ。」

「本気で殺されたいらしいな。それと言っておくが、俺は童貞ではないぞ。」

「微笑ましいな!童貞が童貞じゃないと意地張っちゃうのは!この訓練所にいたら童貞に決まってるだろう。」


 アレンがニヤリと笑う。

「第1組が、教会の騎士団に従属して訓練していることを知っているか?俺たちは、そこで盗賊狩りをやるんだ。盗賊を皆殺しにすると、時に囲っている女が出てくる。」

「へぇ。そんな盗賊が抱き散らかした女に、お前の粗品を入れるなんて、正気の沙汰じゃないな。」

「盗賊に囲われた女は軍規で、その場で殺すことになっている。心が壊れていて、解放後まともな生活ができないからな。生き恥をさらしたくないと自殺する奴も多い。だから、進んで『殺してください』というわけだ。だがな、殺し方は問われていない。」

 

 俺はゾクリとした。


 こいつら、こうやって人を殺す抵抗感とか倫理観とかをぶっ壊してきたんだな。


 確かに、強姦は心の殺人だ。

 犯されて、心を壊されてしまって生きていけるほど、この世界は甘くないのだろう。


「…可哀想な女たちなんだから、その場で一思いに楽にしてやれよ。」

「突っ込みながら、首を刎ねてやるのが一番気持ちいいんだろうが!」

 アレンは下卑た笑いを浮かべて言い切った。


(こいつ、正真正銘のクズだな。)

 俺はギリっと歯を噛みしめた。


「童貞というのは前言撤回だ…」


 童貞というのは、俺にとっては敬称みたいなものだ。

 30代までならMr.という意味で、40代以上ならSir.という意味を持つと言えば、分かりやすいか。

 つまり、『童貞イカ野郎』というのは、言葉こそ迫力があるが、真意は『イカ氏』ないし『イカ卿』だ。しかし、奴の所業を聞けば、敬称をつけるわけにはいかない。


「この、イカれたイカ臭イカ野郎!!」

「…言いたいことはそれだけか。じゃ死ね!」


 もの凄い勢いで、アレンが距離を詰めてくる。

 俺はバックステップとともにアレンに鑑別スキルを使う。


(鑑別スキル:ステータス)


ー 名前:アレン 種族:ヒューマン、Lv:25、状態:激怒、弱点:不明、鑑定色:黒 ー


 アレンは違和感を感じたのか、あたりを見回す。

 俺の鑑別スキルは、くすぐり機能つきだ。


 俺はその隙に全速力で逃げ出す。

 アレンも追いかけてくる、流石に早い。


 このタイミングしかない。


 距離が詰まってきたところで、俺はバスケの要領で、素早く後ろに切り返し、アレンのスネをめがけてエルボータックルを仕掛けた。


 バキッーーーー!!!

(痛ってー!!)


 確実に俺の左肘にヒビ入ったな。


 振り返ると、アレンは足を弾かれ、そのままの勢いで前方に転倒するかと思ったが、上手に手で体を跳ね上げ、左足で着地した。


 サッと鑑別をかけると、アレンの右脛骨が黄色く光っていた。

 

 折ったどー!!


「…貴様ぁぁ!!」

「アレンはん、あんさん、足折れておま。観念して土下座しなはれ。」


 あのミスタープロレスでさえ、引退に追い込まれた脛骨骨折だ。

 戦えるわけがない。

 動きがにぶったところに、もう一回タックルかまして、右足にアキレス腱固め決めてやるぜ!

 

 すると、アレンが地面に両手をついた。

 こいつまさか…土下座するのか?


 「うおぉぉ!」


 両手と左足を使って、四足歩行の野獣のように駆け、急速に彼我ひがの距離を詰めてきた。

 そして、一気に両手で跳ね、右ストレートに全体重を載せて、◯ルトラマンのように飛び込んでくる。

 俺は相手の右ストレートを、右手で外側に払いつつ、クロスカウンターの要領で右肘を、相手の鼻っ面にぶつけてやろうとした。


 バキッ!!


 ありえない方向から頭を殴られ、意識を刈り取られそうになった。


(パンチが見えねぇ…)


 俺はダウンし、アレンにマウントポジションを取られた。


「ははは、じっくり殺してやるよ。まずは目玉だ!」

「お前たち、何をしている!私闘は禁じられているぞ!」


 面会室の速記官が走ってきた。


 遅えよ、ルッソ…もう少しで殺されるところだったぞ。


 俺は意識を失った。



 目を覚ますと心配そうに見つめるルッソがいた。


「大丈夫?」

「ルッソ…、お前、教官呼んで来るのにどれだけ時間がかかってんだよ。かなり時間稼ぎしたんだぜ、これでも…」

「ごめんごめん。結局、あの速記官にお願いしたんだけど、サーノの印象が悪くてね。なかなか動いてくれなかったんだ。」


 …自業自得か。

 まぁ、間に合ったんだから、よしとしよう。


 訓練所の規約では、喧嘩した奴は両成敗ということで、監視下におかれることや、回復薬1本の罰金が課される。


「それにしても…」

 俺は自分の左肘を触る。


 左肘が痛い。腫れているしな。


 ルッソが俺の左肘を見やりながら言う。

「サーノ、君が意識を失っている間、左肘が腫れて来たから、回復薬を何回か使ってみたけど、良くならない。たぶん折れてる。」

「そうか、ありがとうな。」


 やっぱりな。

 鑑別スキルを使うと、やはり黄色く光っている。左肘頭骨折だ。


 骨折はギプスで固定して、しっかり治療するとなると、2ヶ月かかるのが普通だ。

 とはいえ、御前試合まであと3ヶ月しかない。

 アレンとの実力差を考えると、現時点で、野郎の足元にも及ばないだろう。


 ここで2ヶ月の静養は痛すぎる。


「ルッソ、骨折の治し方はどうなんだ。」

「まぁ、痛くなくなるまで、え木で固定かな。お金のある奴は、回復薬を毎日少量飲んだり、貴族にもなると白魔法で治したりするらしいよ。」


 俺には、毎日回復薬飲むほどの回復薬もなければ、金もない。

 これは、普通に静養するしかないか。

 幸い明らかな肘の異常はないので、固定だけで治るはずだ。


 その時である。


「訓練生サーノ!至急、訓練所長室に向かえ!」

 教官が医務室の扉を開けるやいなや、俺たちに指示した。


 やれやれ。お説教だけで済めばいいけど。


 ルッソに、副え木と、包帯を巻いてもらい、左腕を固定した。

 そして、重い足取りで所長室に向かった。


「サーノ入ります!」

「入れ!」

 所長室の扉を開けると、もうすでに、速記官と何となくオーラがある中年男、たぶん訓練所所長、そしてアレンがいた。アレンはこちらを野獣のように睨んでいる。いや、淫獣というべきか。


 中年男が口を開いた。

「君たち二人の所業は、隣にいるターニャ副所長から聞いた。」


 えっ速記官、副所長やったんかい!


「今回は、二人とも同じようなケガということで、罰金だけで済ませることにした。」


 そこにアレンが割って入ってきた。

「所長!それは、事実と異なります。サーノ訓練生が急に殴りかかってきたので、仕方なく私は対応したのであります!」


 はぁ?何言ってんだ、このイカ臭野郎。

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