第12話 新たな黒魔法
ハイサイ!
昨日は、イケメンに憑依した小汚いおっさんがイケメンの胸を借りながら号泣するという、BL小説もドン引きの展開でしたね!
はぁ、クール系救急医のイメージがドンドン崩れていくな。
もう忘れよう。スッキリしたし。
昼食の時間に4番食堂へ、ポンチとタルトの様子を確認しに行った。
「おう、サーノ、ルッソ。足の痛みはだいぶいいぞ!」
ポンチが言う。
「そいつはよかった。再発もなさそうだし。また気になることがあれば、声かけてくれ。」
ひとまず、一旦フォローアップ終了だ。
ポンチとタルトはしっかりと約束を果たしてくれて、医務室に行くと、俺の回復薬が3本増えていた。バーで自分のボトルがある感じだ。ちょっと嬉しい。
薬草を調合して回復薬を作るらしいが、200ml程度の回復薬を作るのに、500本程度の薬草が必要なようで、結構コストもかかるらしい。
この訓練所では、貨幣制度がなく、回復薬と物を交換している。例えば、中級武具防具の1セットレンタル20回分が回復薬1本と同じ価値くらいだ。
うーん、スキーのレンタルウェアが1回1万円として、20万円くらいの価値?と思っておこう。
そして、こちらにも季節がある。
日本と同じように春夏秋冬だ。ただ、こちらの方が日本に比べて気温差は厳しくないようだ。
ちなみに今は、春の季節にあたる。秋の季節には、新訓練生がやってくる御前試合があって、年に1度ランク変更される機会だ。
仮に俺たちが、もう1度第5組にランク付けされれば、5年連続第5組という評価になり、もはや訓練を受けさせる価値がないとみなされる。強制労働奴隷へと身分が変わり、訓練所退所になる。強制労働奴隷は、ほぼ1年で全員死ぬらしい。
ってオイ!それって実質的な死刑でしょ!
と、とにかくだ。
俺たちは、命をつなぐために次の御前試合で何とかランク上げる必要がある。
「ルッソ、とにかく御前試合でランクを上げるには基礎体力が大事だ。俺の知っている訓練で鍛えて行こう。」
「分かったよ!」
そうして、ルッソと俺で、本気の肉体改造を始めたのである。
まず、身体訓練についてだが、監督する教官はやる気がない。第5組はどうせ強制労働で死ぬことが分かっているので、指導にやる気をだしても意味がないからだ。第5組の講義や訓練の教官は軒並みやる気がない。教官が途中でいなくなって、自習や自己トレということもよくある。
転移初日にあった、ワンダ軍曹の激アツの訓練の方が珍しいことがよく分かった。
生前俺がやっていた、6種類の筋トレ、ラン、そして、体術練習を主な訓練として、やり込んでいくこととした。
「じゃ、いくぞ!」
「いいよ!」
ルッソとは組み手をしている。これは、俺が中高生時代に体育でやっていた柔道だ。
この世界の体術はほとんどが打撃中心だ。もちろん日本拳法のような金的といった技もない。強いて言うならキックボクシングという感じか。
つまり、こちらの世界では珍しい、柔道の関節技や寝技、そして何と言っても投げ技は、相手の戦意を削ぐ上で大事だと考えた。
基本的な投げ技、そしてプロレス技、柔道で禁止されている急所攻撃など、ルッソに伝授していく。
「ルッソ、努力と筋肉だけは嘘をつかないぞ!」
「キャラ変わってるんですけど!」
そうかもしれないな。
ま、中高生でも、高齢者でも、足腰を鍛えることはパフォーマンス向上につながるのだ。
鑑別スキルでツボは青く表示されるので、足三里など疲労回復のツボをルッソにも教えた。トレーニング終了後は、疲労が溜まらないように、お互いに鍼治療をする。
ペアでトレーニングすると負荷は二倍になる。
例えば、肩車をして片足スクワットをする、腰にしがみつかれた状態で、片手懸垂をする。俺たちは、筋肉という筋肉を追い込んでいった。
黒魔法についても進歩があった。
毎晩、『どんなんかな〜?』と、魔力が枯渇するまでダークを使い続けると、数日ごとに使えるダークの回数が増えていった。筋肉と同じで、魔力も追い込めば超回復するのだろう。
そしてついに俺は、新しい黒魔法に挑戦する。
「ルッソ準備はいいか?」
「大丈夫だよ!」
回復薬と漏斗のようなものを用意し、ルッソが待機している。
俺はおもむろに仰向けになった。
呼吸を整える。とんでもない魔法だ。
一歩間違えれば死ぬ。それを今から自分を実験台に唱えるのだ。
俺は呪文を詠唱した。
「アンダンテの名において。四肢の動きを封じ込めよ。パラリシス!」
ドーンと来た!
くっ!手足が全く動かない…
幸い呼吸はできる。横隔膜の動きまでは制限されないということか。
万が一、呼吸不能に陥った時にそなえて、ルッソに回復薬を用意してもらったが、杞憂に終わったようだ。
「実験は成功だ!砂時計で測ってるな?これは大変な魔法だぞ!!」
声も出せる。俺のボルテージは上がっていた。
ふと、ルッソを見るとプルプルと震えている。
「どうしたんだ?」
「いや、ごめん。『大変な魔法だぞ!』って興奮してるけど、サーノ。横になって悶えているだけだからね。あぁ我慢できない。面白過ぎるよ。アハハハハ!」
なにそれ。
いきなり羞恥心を煽るとか、やめてよ。
おおよそ3分程度で、麻痺状態は終了した。
「ルッソ、確かに黒魔法は地味だが効果的だぞ。お前にもかけてやろうか?」
「いや、ホントごめんね。僕も真剣にやるよ。」
次の魔法は、恐怖の魔法だ。
俺も、いろいろと呪文を試行錯誤しつつ、おしっこの出る前というか、ちんサムな感じになった言葉が、今は、ダークと、パラリシスと今から試すこの呪文の3つだけだ。
「ルッソ準備はいいか?」
「大丈夫だよ!」
俺はおもむろに仰向けになった。
呼吸を整える。これも、とんでもない魔法だ。
死ぬ恐怖を味わうことが分かっている。それを今から自分を実験台に唱えるのだ。
…よしっ!
「アンダンテの名において。心を掴まれる恐怖を与えよ。アンジーナ!」
ドーンと来た!
くっ!胸がつまる。冷や汗がとまらない…死の恐怖がこれか!!
俺はのたうち回った。
「実験は成功だ!砂時計で測ってるな?これも大変な魔法だぞ!!」
ふと、ルッソを見るとプルプルと震えている。
「ルッソ君ごめん聞いていい?今の笑う要素あったかな?」
「いや、ごめん。なんか、刀で斬られた後の、悪代官みたいなリアクションだったからね。アハハハハ。」
なにそれ。
なんで、ルッソ、暴れん坊◯軍知ってんの?
あのシーン再現していたと思うと、死ぬほど恥ずかしいわ!
俺も子どもの頃、ブラウン管越しに、成敗された奴のしつこい死に際を見て、『お前もういい加減死ねよ』って思ってたし。
「ルッソ。黒魔法の真髄を見せてやろうか?」
「いや、ホントごめん。僕も真剣にやってるんだけどね。」
最後は、重ねがけだ。
俺の魔力が枯渇するかどうかの問題もあるが、この3つを同時間で重ねがけできるかをやってみる。
気持ちを整えて…よしっ!
「アンダンテの名において。その瞳に暗き影を落とせ。ダーク!」
「アンダンテの名において。四肢の動きを封じ込めよ。パラリシス!」
「アンダンテの名において。心を掴まれる恐怖を与えよ。アンジーナ!」
死ぬ、死ぬ、死ぬ!
目が見えない、体が動かない、胸が詰まって息ができねぇ。
黒魔法の重ねがけが成功したのはいいが、自分の黒魔法の威力にドン引きだ。
時間が経過し、やっと効果が切れてきた。
「大丈夫?」
「…ルッソ、これはヤバい。トラウマになるぞ!」
起き上がると敷いていたムシロが、冷や汗でビチョビチョになっていた。
(男のシーツがビチョビチョって誰得だよ…)
俺は毒づいた。
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