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第9話 重症!ポンチ

 俺たちが、訓練所に帰還すると、先に帰っていた、第2,3,4隊のメンバーがもめていた。


 「お前、いい加減にしろよ!!」

 「いや、でも…」

 「そんな小さな傷で回復薬を何本も使える訳ないだろう。」

 「いや、ほら、見てくれよ!足の色が少しおかしいというか…」

 「甘ったれんなよ!お前の足が元々汚いだけなんだよ!美容目的に回復薬要求すんな、コラ!」

 そう言って、2番のパッチを貼った訓練生が、4番の奴を蹴り飛ばす。


 たぶん、第4組の奴の回復がうまくいってない感じなんだろうな。


 面倒そうなので、無視しようと思っていたら、すでにルッソが声をかけていた。


 オオィ。


 「大丈夫かい?」

 ルッソが心配そうに問う。


 「…ゴミか。お前には関係ない話だ。」


 俺たち第5組は、数字にあやかって、他の部隊から、ゴミと言われている。

 5だけにゴミ。それは上手いこと言う。

 ってふざけんなコラ!


 「動くのも辛そうだよ。」

 「だから、関係ないと言ってるだろ!」


 ほら、言わんこっちゃない。

 まぁ痛いだろうし、気が立ってるんだろう。今は無視、刺激しない方がいい。放っておきましょ。


 「サーノ、何とかならない?」

 「…」

 「サーノ!」

 「…分かったよ。」

 

 俺は、蹴られた4番の奴の元に腰をかがめて言った。

 「まぁ、あまり気乗りしないかもしれんが、傷だけでもみせてくれないか?」

 「…好きにしろ。」


 そうして、俺は訓練生の足を診察しつつ、鑑別のスキルを使って病状を把握しようとした。


 ー 名前:ポンチ 種族:ヒューマン、Lv:7、状態:激痛、弱点:不明、鑑定色:黒 ー

 レントゲン画像では、右脛骨みぎけいこつ腓骨ひこつ骨幹こっかん部、つまり、右のふくらはぎの骨が黄色く光り、ズレながらもくっ付いていた。


 すごいな。鑑別スキル。

 病変部が黄色ではっきり映される。


 ただ惜しむらくは、骨のズレを矯正してから、回復薬をぶっかけてほしかったところだが、まぁ仕方ないか。あと、親ももう少し、マシな名前つけてやれと思うけど、これも、まぁ仕方ないか。


 「ルッソ、これまで腹とか切られて、回復薬で治療した奴で、そいつの腹の傷、腐ってきたことあったか?」

 「たぶん、これまでの記録ではないよ。」

 「さすがの記憶力だな。」

 「いや、サーノが昔、魔物にビビッて、『どれくらいの傷だったら回復薬で治るのか覚えといて』って言ってただろう?」


 …サーノ。

 お前は、ルッソの素晴らしい能力に支えられて生きてきたことを感謝しろよ。


 ま、とにかくだ。

 回復薬を使うと、切開した傷でも、感染を起こしにくいらしい。


 「おい、ポンチ。お前のすねは、腫れあがって、足の指先が冷たくなっている。このまま放っておけば、足は切り落とすどころか、死ぬぞ。」

 「なんで俺の名前知ってんだよ!というか、死ぬのか?」

 「死ぬ。」


 ルッソとポンチが目を見開く。


 コンパートメント症候群。


 骨折の際に最も注意しないといけない合併症の一つだ。骨折後の内部の出血によって、神経や血管の通り道が圧迫される。そうすると、神経の障害や血流障害が出現する。

 おそらく、傷の内部で出血していることを確認せずに、回復薬で傷を閉じたから起こったんだろう。放っておけば、足の切断。最悪、筋挫滅きんざめつの影響で、全身状態の悪化、死亡も考えられる。

 救急外来でも、『すぐに整形外科の先生をお呼びいたせ!』となる病気だ。


 「いやいや、ゴミの言うことだぜ。信用できるわけないだろう!」

 ペアの第4組の奴が言う。


 「まぁ信用するもしないも、お前次第だ。」

 そう言って、俺は、鉄剣を取り出した。


 「何をする気だ!」

 一気に場が剣呑な雰囲気になっていく。


 「おい、ポンチ。お前が決めろ。俺の言うことが正しいなら、お前の足を、この剣で傷つけたとしても、お前は何も感じない。」

 「そんなことがあるもんか!」

 「なぁに、指を切り落とすわけじゃない。ちょっとしたかすり傷だ。やってみるか?ふふふ、お前にはそんな勇気はない。なぜならポンチだからだ!」

 「うるせー!名前とは関係ないし、親に謝れよ!」

 「それで、どうするんだ?」

 「…やってみろよ!その代わり痛かったら、お前を叩き切ってやる!」

 俺は頷き、ルッソに呼びかけた。


 「ルッソ、ポンチに目隠しをしてくれ。こいつは痛くもないのに、()()と言いそうだ。」

 「そんなことヘタレなマネしねーよ!」


 ルッソがポンチの目に布を巻いた。もう一人のペアの奴にも見えるように、立ち位置を変え、ポンチには仰向けで寝てもらった。


 「まずポンチの足を、俺の指で押す。痛かったら言ってくれ。」

 「…分かった。」


 そう言って俺は、()()でポンチの足の甲を軽くぶっ刺した。


 「どうだ?痛いか?」

 「指で押すくらい、痛いわけないだろう。」


 ルッソとペアの奴が、目を丸くした。


 俺はポンチに自信満々で言い放った。

 「ポンチ。お前は死ぬ。絶対にな。」

 「なんでだよ!」


 俺は剣をしまい、ポンチの目隠しを取った。


 「おい、ペアの奴。何かポンチに言ってやれ。」

 「ポンチ。お前は死ぬ。絶対にな。」

 「なんなんだよ!!」


 ルッソが、ポンチの体に手を添えて起こしてあげる。

 「ポンチ、君の足を見てみて。」

 「え?」


 ポンチの足は、切り傷から少し出血していた。

 

 俺はポンチが最大限怖がるように病状説明をする。

 「これで分かっただろう、ポンチ。お前の足はもはや痛みを感じられない。すでに腐りかけているといっても過言じゃない。お前はもう死ぬしかないんだ…」

 「え…何とかしてくれよ!」

 「いくら出せるんだ?」


 分かっている。

 急に場が白けて、『この場で、それ言っちゃう?』みたいな寒々しい雰囲気になったのは。


 ただ、医療には、残念ながら金がかかる。一時の情け心で治療をやっちゃいけない。患者を治療し続けることが責任ある医者の姿なのだ。持続可能な開発目標なのだ。


 お金ほしい。


 「…回復薬1本だ。」

 ポンチが絞り出すように言った。


 「あらあら、随分安い命だったんですね。ポンチさん。」

 「…回復薬2本だ。それ以上はムリだ。」

 「…」


 考え込んだフリをして沈黙を作る。客観的には、放っておけば足は悪くなるし、一刻も早く痛みから解放されたいというのが、ポンチの心情だろう。

 つまり、こちらは相手の心臓握って交渉するようなものだな。


 イヒヒ。


 こうした場面では、適当に黙り込んでやれば、必要なメンツが勝手に踊り始める。


 「頼む!頼むよ!」

 「…」

 「あの、俺も金を出すからポンチを助けてやってくれ!」

 「…どうでもいいが、お前、名前何て言うんだ?」

 「今聞くか!?タルトだ!」

 「タルトか…」


 ペアの奴が言い出す。あとひと踏ん張りだ。俺は目をつむる。

 薄目にポンチとタルトの顔色が絶望に染まっていくのが分かった。

 身ぐるみ全部はいでやるぜ。うひょひょひょ。


 その時である。

 「サーノ、僕も何でもするから、やってくれないか!」


 いやいや、ルッソさん。お前は何もしなくていいから!


 俺は慌てて言った。

 「分かった!お前たちの友情に俺も心動かされた。回復薬3本で手を打とう!ただ、この治療で回復薬は1本使う予定だから、合計4本用意しろ。」


 ポンチとタルトの二人がこうべを垂れる。

 「…分かった。頼む。」

 「それから治療が終わったと俺が言うまでは、俺が何をやっても黙ってろよ。」

 「…分かった。早くやってくれ。」


 よし。インフォームドコンセントも完璧だ。

 本当は支払い額を示した契約書も用意するべきだが、あまりやり過ぎると、今度はルッソの目が痛くなってくるからな。


 「まず回復薬を持ってきてくれ。」

 ルッソとタルトが回復薬を取りに行っている間に、創部にかける布や、処置に使うであろう食器などをかき集め、救急治療のセッティングしていく。


 「回復薬取って来たよ!」

 「ありがとう。」


 俺は、その場にいるメンバーの顔を見やり、言った。

 「さ、救急治療ワークアップだ!」

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