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北の魔女  作者: 覧都
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第九十九話 大男の懇願

試合が終わって、キキちゃんが走ってきます。

でも、少し様子が変です。

血相をかえてわたしに突進してきます。

そんな勢いで来たら、わたしは受け止めきれませんよ。


案の定わたしは、キキちゃんに体当たりされて吹き飛びました。

そして、またまた、さっきの逆立ち失敗の時の状態になりました。

キキちゃんの頭が当たった肋骨が何本か折れたみたいです。

痛くて動けません。


でも、キキちゃんは悪くありません。

だって、悪気が一ミリも無いのですから。


わたしはスカートを直すと、痛む胸を押さえ立ち上がった。

折れた骨は、すでに治りかけている。

でも、まだまだ、すんごい痛い。


「ど、どうしたの、キキちゃん」


「あわわわわ」


キキちゃんは後ろを指さしあたふたしています。

わたしがその方向に目をやると、あいつです。

ロボダー!


「あなたは、なんなんですか」

「こんなかわいい少女を追い回すなんて」


キキちゃんはわたしの後ろに隠れて、顔だけちょこんと出して、ロボダーを見ています。

かわいい、人見知りです。


「うるせーブス」

「関係ねーやつは、黙ってろ!」


だーー、なんだとー。

ブ、ブスっていいやがった。

よりによって、一番気にしていることを。

くっそ!


だめだ、全然悲しくないのに、目に涙が溜まってきた。

あかん、もうこぼれそうだ。


いま、わたしは気が付いた。

本当は今のわたしは、無理をしている。

こっちの世界に来て、分からないことだらけ。

その不安は、語り尽くせない。


そもそも、こっちに来た理由さえわからない。

ずっと、ずっと耐えてきた、帰りたいという気持ち。

涙が、出そうになると、涙を出したいという気持ちが次々にわいてきて、もうこらえきれない、だめだ泣いてしまう。

こんなところで、いい年をしたわたしが涙を止められない。


ドンッ


後ろで地響きをともなった音が聞こえた。

振り返るとギホウイさんだった。

ギホウイさんが足を踏みならしたのだ。

わたしは、地響きと、振り返りで涙がこぼれ落ちた。

ばれないように、ギホウイさんに近づき、ちょこんとつかまり、ギホウイさんの服で涙を拭いた。


そうだ今日、あいちゃんに会いにいこう。

心の故郷あいちゃんの所へ。

この世界で唯一故郷日本を感じる事が出来るあいちゃんの所へ。

わたしはホームシックだ。

弱いわたしを治療して上げないと、心が壊れちゃうから。


我慢していたつもりだが結構な量の、なみだが出ていたようで鼻水まで出ていました。

それもついでにギホウイさんの服で拭った。

顔をギホウイさんの服から離したらデローンと鼻水が糸を引いた。

あらーっと思っていたら、ロボダーさんとギホウイさんにしっかり見られていました。


「きさま、まな様に失礼は許さんぞ!」


ギホウイさんはわたしの鼻水は無かったことにしてくれたようだ。


「何だ、てめーは」


「わしか? わしは、イホウギである」


「ばかか! イホウギは、南トランの大将軍だ、こんな所にいるわけがねえ」

「……」

「いや、まさかそんなはずはねえ」


ロボダーさんは、イホウギさんを知っているようです。


「おいおい、じーさんとまな様、こんなところでなにやってるんだ」


後ろにコウさんも心配して来てくれました。


「て、てめーは何もんだ」


「はーはっは、言っても知らねーと思うぞ」

「ミッド商会の会長のコウって者だ」


「なーー」

「ミッド一家の大親分!」


ロボダーさんはコウさんも知っているようです。


「おまえこそ、何者だ!」


イホウギさんとコウさんが、怒りの表情でにらみ付けた。

この二人ににらみ付けられたら、そりゃあ怖いです。

ロボダーさんは、少しびびっているみたいです。


「お、おれは、ファン国の青龍団、支団長ロボだ」

「おれを負かすほどの、その嬢ちゃんと、少し話をしてみてーと思っただけだ」


「それなら、その嬢ちゃんの主人にあたる、まな様に話を通すのが筋ってもんだ」


コウさんがにっこり笑い、わたしをみつめる。

うわーー、わたしじゃ無ければイチコロの奴だ。


「あんたいったい何者なんだ?」


ロボダーさんが耳元に顔を近づけて、小声で聞いてきた。


「ついてきて、そうすれば分かるわ」

「クーちゃん、ノルちゃんのところへ」


わたし達は、峠の茶屋の二階へ移動した。






「おまえ、名前は?」


ハイは、自分の下僕になった大男に問いかけた。


「おでは、デラだ」


「そうか、デラか、いい名だ」

「今日からお前の仲間になる者達を紹介したい」

「クロ! 私とデラを城へ移動してくれ」


ハイとデラは、薄暗い石造りの広い部屋に出た。

壁には幾つもの穴が空いていて、奥でごそごそ何かがうごめいている。

ここは、以前ミッド一家のアギの部下が来た部屋でもある。


「お前達出てこい、喰うなよ」

「今日から仲間になるデラだ!」


ハイが呼びかけると、穴からゾロゾロ異形の者がはい出してきた。


「ぎゃーー!!」


デラが悲鳴をあげた。

出て来た者達は、皆恐ろしい姿をしていた。


「みんな、可愛いだろー」


それらの異形の者をハイはうっとり眺めていた。


「喜べ今日から、お前もここの住民だ」

「喧嘩するなよ、お前では勝てないぞ」

「じゃあな、時々ちゃんと会いに来る」


ハイは、一つコレクションが増えて上機嫌である。


「ま、待ってくでー」

「ここは、嫌だー!」

「何でもするからここに置いてかないでくでー」


大の大男が涙ながらに懇願するのだった。

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