第九十八話 キキの戦い
「キキちゃん、次ですよ」
壇上から審判のパイさんがキキちゃんを呼んでくれました。
キキちゃんは、わたしの顔を少し潤んだ目で見上げています。
わくわくしているのが伝わってきます。
「キキちゃん、ちゃんと手加減してね」
「相手が死なないようにね」
キキちゃんは、神妙な顔でうなずきます。
これならコウさん、ギホウイさん、ハイさんの三人の様に、相手を死なせるような事はないと思います。
「きゃーー、ロボ様―」
見た目のいいロボダーさんは、女の人からキャー、キャー言われています。
人気があるのですね。
こんなに小さくて可愛い少女キキちゃんと、対戦しようと考えるようなクズ野郎なんですけどね。
「ねー、クーちゃん」
「ロボダーさんのこと、詳しく分かりませんか」
「はい、クロ様の情報をのぞいてみます」
クーちゃんは、元クロちゃんの分体なので、クロちゃんの情報を覗けるみたいです。
「あまり詳しくは分かりませんが、ファン国の青龍団の支団長みたいですね」
「し、支団長って、強いってことじゃないの」
「あのヤロー、強いくせに、弱そうな子供を相手に選ぶなんて、なんて卑怯なんでしょう」
「キキちゃん大丈夫かなー」
そんなことを言っている間に、ロボダーさんとキキちゃんが開始線で、にらみあっています。
って、キキちゃん怒っていませんか。
そうか、さっきロボダーさん、わたしのリボン引っ張ったから、キキちゃん怒っているのかもしれません。
無理しないでね、キキちゃん。そいつ、強いですよ。
わたしが両手を握ってお祈りのポーズで、不安そうな顔をしていると、それを見たロボダーさんがニヤニヤしています。
本当に不快な男です。
「はじめーー」
パイさんが号令をかけると、キキちゃんが凄い勢いで助走して、ロケットの様に頭からジャンプ。
顔面パンチを喰らわして、そして胸に頭突きです。
ロボダーさんは勢いそのまま吹っ飛びました。
殴られて首の骨が折れたのか、頭があり得ない角度に曲がっています。
鳩尾が大きくヘコんでいます。
あれは心臓が潰れていますね。
って、あれでは、死んでしまいます。
「クーちゃん、お願い」
わたしが、クーちゃんに助けを求めると、クーちゃんが直ぐに対応してくれました。
ロボダーさんは、吹っ飛びながら、となりのステージで戦っている人、二人を巻き込み三人でステージの向こう側へ落ちました。
巻き込まれた二人も体があり得ない方向に曲がっています。
三人とも心肺停止状態でした。
クーちゃんが治癒で少しダメージが残った状態まで直してくれました。
三人はゆっくり立ち上がります。
「勝者キキ選手!!」
三人が立ち上がるのを見て、パイさんがキキちゃんの勝利を宣言してくれました。
のろのろロボダーさんが開始線まで歩きます。
すっかり悄気ちゃっています。
少しいい気味です。
「キキちゃんやり過ぎですね」
「あんな、パンチや頭突きは相手を死なせてしまいます」
「あのー、まな様パンチや頭突きって、見えたんですか」
治癒の終わったクーちゃんがわたしの独り言に質問してきます。
「えっ、見えましたよ」
「私には、速すぎてなにも見えませんでした」
クーちゃんに見えないほどの速い攻撃がわたしに見えた。
まさか、まさか。
これは、わたしのレベルが上がったってこと。
そうか、先日勇者より強い魔人を倒したから、大きくレベルが上がったんだ。
ひょっとして逆立ちぐらい出来るんじゃ無いかな。
わたしは人差し指を立てると、その人差し指で逆立ちをしてみた。
わたしは、レベルが上がったので、人差し指で逆立ちが出来ると思ってしまったのだ。
「せーのー」
「いだーー」
グキッ、カクンッ、ゴンッ
わたしは、出来る一択なので加減もせず、人差し指で勢いを付け、逆立ちに入った。
だが、指が体重を支えきれる訳もなく、グキッとなって折れました。
そして、折れた指のまま勢いが付いている為、体は垂直になり、今度は腕がカクンッとなって、くの字に曲がりました。
当然、体は真下に落ち、石で出来た床に頭をしこたま打ちました。
頭にゆで卵位のたんこぶが、ぷくーっとできました。
折れた指とたんこぶが、めちゃめちゃ痛いー。
しかし、大変なのは、それではありませんでした。
わたしの着ている服はセーラー服です。
体が垂直になった時、スカートがばっさーっと、頭の方に垂れ下がり、今わたしの下半身は、あられもない姿になっています。
わたしは、丸出しのスカートの中身を素速く直そうとしましたが、体が上下反対になっているので、押さえたスカートが手を離すと落ちてしまいます。
三回やって、最初に体勢を直さないといけないことに気付きました。
ようやく頭を上にしてスカートを直し、恥ずかしい体勢から元に戻ると、誰かに見られてないか辺りを見渡しました。
はーー。
なんか、会場中の視線を集めていました。
もうお嫁にいけません。
いま、勝利したキキちゃんが、わたしの方を見て釘付けになった為。
それが会場の視線誘導になり、キキちゃんを見ていた人達が皆、わたしの方を見ていたのです。
会場中の人達は、わたしのパンツを見て、あの白いのは何だとざわつき始めました。
あーー、これは、パンツですよ。
会場は、わたしのはいているパンツにだけ関心を示しています。
って、少しははいている方の、セクシーなわたしにも感心を示せよなー。
まあ、おかげでお嫁には行けそうです。
やはり、この世界には、レベルというものはなさそうです。
わたしの筋力は日本にいた時と変わって無いようです。
視力と聴力だけは、わたし良かったんです。
他はなにも取り柄はありませんでした。
北の魔女の治癒能力は、すごいです。
指もたんこぶも秒で治りました。
でも、激痛はそのままでした。
全く変な世界です。
レベルも、ステータスもないなんて!