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北の魔女  作者: 覧都
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第九十七話 ハイの戦い

壇上にはすでに大男の姿があった。

その目は、怒りに燃えハイをにらみ付けていた。


対するハイはまなに投げ飛ばされ、腰を折り曲げ、お尻をさすりながら、よろよろ老人の様に壇上に登って行く。

お尻をさすっているのは痛いからでは無く、まなに投げられたことを噛みしめ、何度も反芻しているからだ。


折角、まな様に教えて頂いたのだから、なんとか投げで勝利したいわ。


ハイの頭の中は、投げで勝利することで一杯だった。


「おでは、女がにぐい、覚悟じろ!」


舞台の上に立つと大男が、ハイをにらみ付けながら言い放った。


「あら、なんでそんなに女の人を憎むのかしら」


ハイが、涼しい顔で質問する。


「女は、おでを化け物とか醜いとかいって、おでから逃げていぐ」


大男は、体が大きくなる病気なのか、容姿が正常ではない。

頭蓋骨が異常に大きいため、骨の成長に皮膚が間に合わず横にギュッと引っ張られる形になり、鼻が低く横に広がっている。目の上の骨が前に大きく突き出しバランスがすごく悪い。

体も全体にずんぐりし首がほとんど無い、頭髪もまばらに生えているだけである。


「あら、私はかわいいと思うわよ」


ハイは、魔王軍最高幹部第十席の魔人で、城と領地を持っている。

その城に好んで醜い魔人や魔獣を集めて、配下にして城に住まわせている。

ハイという美女は、本当にこの大男を可愛いと思っているのだ。


「嘘を言うなー!」


大男が大声で怒りをぶちまける。


「本当ですけどね」

「では、こうしましょう」

「あなたがこの試合で私に勝ったら、私はあなたのお嫁さんになりましょう」

「どうですか」


「そ、そんなの、できるわげねえ」


「出来ますよ、私は約束を破りません」

「それに、私は浮気もしません、旦那様一筋です」

「想像してみてください、私をお嫁さんにした生活を」


ハイに言われると、大男は目を閉じてハイが嫁になった生活を想像した。


疲れて家に帰り、玄関の扉を開ける。


「お帰りなさい、旦那様!」


美しい女神のようなハイが玄関にパタパタ駆けてくる。

そして、満面の笑みである。

だが、顔が真っ黒でどんな顔か想像出来なかった。


「んー、駄目だ笑顔が想像でぎねー」

「あんだ、笑顔が想像出来ねー」

「笑顔を見せでくれ」


「えっ」

「笑顔ってどうすれば……」


今度はハイが困ってしまった。


「くすくす、簡単ですよ」

「照り焼きバーガーを食べたときいい顔をしていましたよ」


姿を消した小さな妖精姿のクロの分体が肩の上で、ハイの耳に直接声を入れた。

こうすると、イヤホンと同じで、ハイにしか聞こえない。


ハイは、目を閉じ初めて照り焼きバーガーを口一杯に、頬張った時のことを思い出した。

女神ハイの顔にとろけるような笑顔が現れた。

その笑顔はその顔を見ることが出来た、運の良い者達の心をわしづかみにした。

もちろん、大男の心もぎゅうっとわしづかみにした。


大男は、再び目を閉じ想像した。

疲れはて家に帰り、玄関の扉を開ける。

妻の美しい女神がパタパタ駆け寄ってくる。


「お帰りなさい、旦那様」


そして、ここで女神のあの笑顔である。

大男の体から疲れがすべて飛んでいった。


「いっ、一生大事にするー」

「おでも浮気はしねー」


「くすくす、私はしませんが、あなたの浮気まで止めませんよ」


ハイは楽しそうに笑うと、今度は急に怒りにも似た表情をする。


「で、おまえは私に何を差し出す」


「なんだど?」


「この試合に私が勝ったら、おまえは何を差し出すのか聞いている」


「おでは、全財産をやる」


「それでは、釣り合わない」

「私は、嫁になると言ったんだ、お前もその命を私に差し出せ」

「その一生を私の下僕となり命を使いつぶせ」

「裏切りは許さん」


「わがっだ、負げだら、おめーに絶対の忠誠を誓う」

「この命自由に使っていいだ」


大男が覚悟を決めると、ハイがゆっくりうなずいた。


「あのー、そろそろいいですか」

「一応、試合なので私語はだめなんですよ」


この試合の審判はパイが引き受けたようだ。

その審判パイが申し訳なさそうに二人に問いかけた。

二人が、うなずくのを確認する。


「では開始線まで離れてください」

「はじめっ」


パイが手を挙げた。

同時に大男が飛び出した。


大男は巨大な拳を、ハイに突き出した。


「ちっ!」


ハイは舌打ちをした。

大男が、ハイの腹に右手の拳を出したのだ。

大男は、自分の嫁の美しい顔を殴れなかったのだ。

ハイは、大男の渾身の一撃をつかんで投げようと思っていたのに、こうも軌道が低くては、投げられない為舌打ちをしたのだ。


「ぎえええーーえーー」


大音響の悲鳴が響き渡った。


大男の拳は、ハイにとっては止まっているのに等しい。

ハイは手首を持つのは諦めて、大男の右手の二の腕をつかんだのだ。

だが、大男の二の腕が太いため、ギュッと手のひらで持てるだけ肉を握ったのだ。

大男にとって丁度、二の腕の内側を二カ所ペンチで力一杯つままれたような形になり激痛が走ったのだ。


大男の体から痛みのため力が一瞬抜けた。

ハイは、その一瞬で大男の体の下に潜り込んだ。

だが、大男は先程ハイが投げ飛ばされた所を見ている。

これが何を意味しているのか瞬時に理解し、軸足に力を入れ踏ん張った。


「ぎええええーーええーー」


大男の悲鳴が上がった。

投げの体勢に入っているハイが、フリーの右足で踏ん張っている足を蹴り飛ばし折ってしまったのだ。

大男の体は、踏ん張りがきかなくなりハイの背中にのしかかった。

ハイは、大男の骨を折った右足で、そのまま大男の腹を蹴り上げた。


大男の体が浮き上がった。

だが、腕が握られている為、大男の体は地面と垂直になった。


これを見てパイは、大男の体が落ちてくる場所を予想して、大きくジャンプし

立ち位置を変えた。

この試合を見ている者の目が一カ所に集中した。

それは、ぶるん、ぶるん、激しく暴れるパイさんのパイに。


試合を見ている人の視線がパイに集中している、その一瞬にハイが大男を床にたたきつけた。


ドーーン


ハイは白地に青い刺繍、金の縁取りのワンポイントが入った、チャイナドレスのような、深いスリットの服を着ている。

その服の裾が、大男を投げるとき大きく上に舞った。

そのため、中からピンクの振り振りのおぱんつが一瞬だけ顔を出した。

だが、こちらには誰も気が付かなかった。




「はわわわ、まなさま、分体の私では治しきれません」


わたしがパイさんのパイをボーっと見ていたら、クロちゃんが慌てて私に助けを求めてきました。

大男の体を見ると、床に半分位めり込んでいます。

良く見ると、めり込んでいません。

床は石で出来ているので人の体がめり込むはずがありません。

潰れています。


「ぎゃーー、クーちゃーん」

「少しダメージを残して直して上げてー」


「もーあの三人反則負けで良いんじゃ無いかな」


クロちゃんに話しかけると、


「本当に何とかして欲しいです」


いよいよ、次はキキちゃんの番です。

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