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北の魔女  作者: 覧都
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第九十六話 武術大会のコウとギホウイ

舞台の上に、コウと対戦相手の小男の姿があった。

小男は、コウに顔を近づけ、小声でささやく。


「おれはザン国出身だ、ゴルド一家の親分さんとは親しくしている」

「わかるよな」


嫌な笑いを、浮かべコウに顔を近づけた。

それを聞くとコウは、震えだした。

ゴルド一家とはザン国に本拠地を置く、この世界一の極悪組織である。


「まあ、ゴルド一家って聞けば、それが普通ってもんだ」


小男は、開始線に下がると、勝ち誇った表情でコウを見つめた。

コウは下を向き、表情はわからないが、相変わらず肩が震えている。


「はじめーー」


開始の合図と共に、コウはゆっくり小男に近づいた。

小男はすでに勝ちを確信して、余裕の表情で構えることすらしていなかった。


ドカアッ


コウの拳が小男の顔面にめり込んだ。


「ぎゃーー、コウさんなにしてるのーー」

「相手が死んでしまったら負けですよー」


コウの肩の上にいるクロが思わず声を出した。

手加減をしていないコウの拳は、小男の頭蓋骨を砕き、脳まで破壊していた。

小男の体は、大きく宙に浮きそのまま場外に吹き飛ばされた。

飛んでいる小男の体の上で、姿を消したクロが少しずつ治癒をかけている。


クロはある程度ケガが残っている状態で治癒を止めた。

小男は四十センチ程の高さの舞台から場外に落ちた。

上半身を起こした小男は、顔から大量の血が落ち、地面を赤く染めた。

同時に顔に激しい痛みを感じた。


「くそー、いてーー」


小男は、舞台の端で自分を見下ろすコウの顔を見上げた。


「てめー、こんなことをして、ただで済むと思うなよ」


コウをにらみ付けたが、その時のコウの顔があまりにも恐ろしく、全身が凍り付いた。

コウは、普通の状態でも、無数の傷痕のある、恐ろしい顔をしている。

だが今は、それに加え鬼の形相をしている。


「おれは、ミッド一家のコウだ」

「かしらをゴルド一家に殺された」

「ゴルドの関係者なら許さねえ」

「おめえは、ゴルド一家の何なんだ」


コウが一段高いところから、見下ろしながら凄んだ。

全身がわなわなと怒りで震えている。

小男の顔が引きつった、それはミッド一家の事を、知っているからのようだった。


「は、はい」

「む、無関係です」

「ちょっと、脅かそうと思っただけです」


小男はすごすご鼻を押さえながら、仲間のところへ帰っていった。

押さえている手から、大量の血がこぼれ落ちている。

まなは、もう少し治癒して上げれば良いのにと思って見ていた。

舞台上のコウはまなと目が合った。

その瞬間、てへっ、やり過ぎちゃいましたみたいな顔になった。


がーーっ、そういうとこーー。

この吊り橋野郎―。

そのギャップは駄目な奴だろう。

わたしじゃなければ、目がハートになるっちゅーねん。

横をみたら、先生と委員長の目がハートになっていますよ。


「か、かわいい」


先生と委員長の声がそろった。

だーー、あんな野郎のどこがかわいいねん。

正気に戻れー。


舞台の上には、すでにギホウイが手に木の棍を持って立っていた。

もう一人の小男がゆっくり舞台に登っている。


「ちっ、油断しやーがって」

「これで、一位、二位、三位の独占が出来ねーじゃねえか」

「よーおっさん、この傷跡が見えるか」


小男が、右頬から耳にかけての傷を指さす。

耳タブが真ん中で切れて分かれてしまっている。


「これはよう、オリ国にいた頃よう、シュウ将軍って奴の家に忍び込んでよう」

「盗みを働いていたときによう、見つかってよう」

「一戦交えたときに付けられた傷跡だ」

「つまりシュウ将軍でもよう、おれを殺せなかったってーことだ」

「てめーごときの攻撃じゃあよう、かすることも出来ねえってことだよう」


にやにやしながら、ギホウイの前に立った。


「そうかー、そんなに素速いのなら勝ち目が無いかもしれんのー」


ギホウイがうつむいて、しょんぼりする。


「はじめーー」


お互いが開始線に立つと開始の合図がかかった。

合図と共に耳の切れた男が素速く動いた。

ギホウイは、まるでその動きに反応せずじっとしていた。


「じじいー、全く反応も出来ねえのかー」


背後にまわった耳の切れた男が襲いかかった。


パーーン


衝撃波が響いた。

ギホウイが振り向きざま耳の切れた男の胸に棍を突き出したのだ。

その素速さは耳切れ男の速さを上回っていた。

カウンターになった棍が胸に当たると、肋骨を破壊し胸が大きく陥没した。


「がはっ」


棍による打撃は凄まじく、耳切れ男の体は宙に浮き隣の舞台の手前まで飛んでいった。

既に心臓は止まっていた。


「ぎゃーーあ、なんですぐに殺しちゃうのー」


クロが叫びながら治癒を少しずつ施し、命だけはかろうじて取り留めるようにした。


「まな様、あの二人なんとかしてください」

「手加減出来なさすぎです」


クロが泣きつくと、まなは苦笑するしかなかった。






「ふだりども、負けでしまっだ」

「おでが勝つじがない」

「おでのあいでは、女だからおではまげない」


大男がのそりのそりと、舞台に登る。


「まなさま、ああいう大きな相手と戦うときは、どうしたらいいですか」


ハイさんがわたしの横で質問します。

わたしはもう始まる前なのでハラハラしながら答えます。


「床が堅い石製なので投げ技がいいと思います」

「柔術という投げの武術があります」

「相手の力を利用して、少しだけ重心をずらして投げる技です」


そう言いながら、ハイさんの右手をつかんで足を払って、トンと腰でハイさんの体を浮かせました。


ズダーン


「えーー」


ハイさんの体が宙を舞い地面に叩き付けられました。

あまりにも綺麗に決まり、わたしが一番驚いてしまった。


「……」


ハイさんの目が点になっています。


「さすが、まな様です」

「何でもよく知っておられます」

「では、行ってきます」


ハイさんは少し腰をさすり、足を引きずりながら舞台に登っていった。

だ、大丈夫かなー。

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