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北の魔女  作者: 覧都
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第八十六話 コウの休日

「クロさん、じゃあ行こうか」


「えっ、まだ日付も変わっていませんよ」


「虫ってやつぁーよ、夜しか動かねーのよ」

「今からが丁度いいんだ」


「私は、全然構いません」


「じゃあ、出発だ」


コウは、虫網と虫かごを持ち、どこかの悪ガキみたいな格好で、うきうき部屋を出た。


コウのこの子供みたいな行動は、クロの琴線に触れ、なんだか少し好意をもってしまった。


「まったく、ケンといい、コウさんといい」

「どうして私の心を揺さぶるのでしょう」


「んーー、クロさんなんか言ったかい」


「いいえ、何も言いません!」


宿屋を出ると、宿屋の横に猛獣を入れるような馬車があった。

中に二人の汚い少女がいた。


ゴンゴン


「ひっ」


コウが馬車を叩くと中から少女の悲鳴があがった。


「いやー、丈夫な檻だねー」


「コウさん何でこんなに丈夫なのですか」


「一つは、逃げられないようにするため」

「一つは、盗まれないようにする為さ」


「やい、てめー何しやーがる」


コウが馬車を叩いた為、二人の見張りがコウに凄んできた。


「はーーあ」


コウは、全くひるみもせず、にらみ返した。


「うおっ」


二人はコウの顔に驚き声を上げた

コウは、後ろを振り返った。

なにか男達を脅かすようなものが自分の背後に現れたと思ったのだ。


「ぶっ、コウさん、こいつらは、コウさんの顔に驚いたんですよ」


コウの行動がつぼに入ったのか、クロが吹き出した。


「ちっまじか、おい、俺の顔が驚くような顔って言うのか」


男達は、怯える表情でうなずいている。


「おめー達の顔もじゅーぶん、こえー顔だぜ」


コウは、男達を無視して、虫取りに向かった。






コウは、辺りが薄明るくなるまで森で昆虫採集をしていた。


今日は多くのクワガタを見つけ、その都度大きいものと入れ替え、八㎝越えの大物を捕まえ超上機嫌である。


「やっぱり、妖精ってやつぁー幸せを運んでくれるんだねー」


妖精が幸せを運ぶ、この言葉は、クロの今、もっとも好きな言葉である。

しかたがないから、あんたをあい様の次にして上げます。

クロは心でそんなことを考えていた。


「妖精が幸せを運ぶなんて事があるかー、バカコウ」


だが、口からはこんな言葉が出てしまった。


「ちぇっ、なんかクロさんご機嫌斜めだねー」

「んっ」


コウの目線の先に夜の馬車がいた。

馬車の中には五人の少女が乗せられていた。


「……」


コウは、少し不機嫌になったように、クロからは見えた。


「クロさんはあれをどう思う」


「人買いのこと?」


「ああ、そうだ」


「私は、正直、人間のことはどうでもいいから」

「何も感じないというのが感想です」


「ふふっ、そうかー」

「このクワガタ、逃がしてやろうかな」


「えっ」

「あんなに喜んでいたのに」


「食えねえし、森にいる方が幸せだろ」

「妖精がいるんだ、幸せにならねーとな」


言葉とは裏腹にコウは、いつまでもクワガタを見つめ、結局逃がした時には昼近くになっていた。


クワガタを逃がす、さみしそうなコウの姿に、クロの心はキューとしめつけられるのだった。


「クロさん宿屋へ移動頼めるかい」


「はい、大丈夫です」




宿屋に着くと、コウはおばさんを昼食に誘った。


「いま、俺はうまいものを売る商売をしているんだ」


「クロさん餃子と、コーラは出せるかな」


「大丈夫です、あい様から沢山作ってもらって、消去してあります」


クロは、三人分の餃子とコーラを出した。

ちゃっかり、本体のクロが椅子に腰掛けて、ニコニコしている。


「まずは、おばさん食べてみて下さい」


おばさんは、あまり見た目がぱっとしない餃子を、恐る恐る口に入れると、少し黙って口を動かしていた。


「……」

「な、なんだいこれは、おいしすぎるじゃ無いかー」

「もう他のものが食べられなくなるよ」

「まったく、何てものを食べさせるんだ」


「くすくす、いつ食べてもおいしいですね」


「ふふっ、うまいな」


三人が食事をしていると、不意に入り口の扉が開いた。


「いやー、六人かーまあまあかなー」

「おばさん、俺たちにも何か食い物をくれ、十二人分だ」


男達がぞろぞろ十人入って来た。

人買いの集団だ。

二人は見張りに残っている。


コウは窓から馬車を見つめた、六人の少女が檻の隅に体を寄せ合い、震えていた。

どの少女も、十歳にはなっていないように見えた。


「ふーー」


コウは大きくため息をついた。


「あんたら、少し話があるのだがいいかい」


コウが、男達に声を掛けた。

コウの見た目は怖い傷痕だらけの顔にでかい体、男達に緊張が走り、男達の顔が急に険しくなった。


「まあ、まあ、喧嘩をしようって訳じゃ無いんだ」

「少し落ち着いてくれ」


「お、おう」


「あんたが、ここの頭か?」


「お、おう」


「あの少女達、俺に売ってくれねーか」


「はー」

「……」

「まあ、相場より高く買ってくれるならいいぜ」


「白金貨二枚でどうだい」


「あんたそんなに持ってんのか」


コウは手を後ろに回すと、クロに消去してもらっている、白金貨の袋を出して、手の上に置いてもらった。


その袋には、白金貨が十枚入っている。

その中から二枚を出すと頭の男に手渡した。


「じゃあ、もらって行くぞ」


「旦那、毎度あり」


男は、ニヤニヤして見送った。


コウが外に出て、二人に金を支払ったことを伝え、カギを開けるように言うと、後ろから衝撃を受けた。


ガツッ


コウは、膝をついた、頭を触るとヌルリという感触があった。

だが、これで全てを理解したコウの反応は速かった、回りの男達を見渡し背後に回られないように、一人ずつ殴り倒した。

もと、ミッド一家のナンバーツーのコウは、こんな場面は数知れず経験している。


回りにいた四人の男を殴り倒すと、倒れた男達の頭を思い切り蹴り飛ばし、息の根を止めた。

後の男達は何処にいるのかと思って見渡すと、八人の男達はまだ店内にいた。


「ちっ、失敗したな」

「クロさん俺がやられたら、あの子達は、クロさんの移動で助けてやってくれ」


「いいけど、勝てないの」


「ああ、相手が油断しているうちなら、勝てたかもしれねーが」

「武器まで持って、油断せずかかってくる奴らに、八対一じゃあ、勝てねえだろうな」

「とんだ昆虫採集だぜ」


宿屋の扉から男達が出てくると、コウは馬車に背を預け、倒れている男から、武器を奪うと、八人を見据えた。

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