一枚の銀貨 ※挿絵有
少し開けた草地に岩が幾つも頭を出している。
その草地の中央の岩の上にあいは腰を下ろし、一つの岩を見つめている。
あの岩、丁度よさそうね。ふふっ、貴方にはわたしの練習台になって頂くわ。
少しだけ
「浮け」
「えっ」
岩は凄い勢いで真上に飛んでいってしまった。
あれー、全然落ちてこないわね。誰かに当たるといけないから早く落ちてきて。
・・・だめだ落ちてこない。何処まで飛んだのだろう。
まなちゃんの魔法の暴走もこれなんだわ。
思っている以上に魔力が出ているって事なのね。
ちょっとやっかいね。
次はあの岩、今度はもっと少しだけ浮かして、上に蓋も置いてみよう。
「透明の蓋よ出ろ」
「そして、少しだけ、ほんの少しだけ浮けーー」
ドカッ
音共に岩が粉々に砕ける。細かい砂粒になった岩がパチパチとあいにあたる。
「いたたた、だめだ蓋が堅すぎて砕けちゃった」
それなら、蓋を最高に柔らかくして、さらに浮く力を弱く想像する。これならどうよ。
「いけーー」
ふわり、巨大な岩が宙に浮いている。
まだ少し想像より高いけど、合格ね。
あいはこの後、小さな石を弾丸の様に飛ばしたり、大岩をまるで踊りを踊るように、操って見たりと、岩と魔法の練習を重ねた。
さらに巨大な岩を浮かせて喜んでいると、ガサガサと音がする。
「あいちゃーーん」
レイ達が狩りを終え帰ってきた。
やばい、この大岩どうしよう。
「消去」
とっさにあいが消えるイメージで叫んだ。
大岩はその途端、本当に消えてしまった。
「あいちゃん見て」
レイが魔封石を見せる、赤く光っている。美しい。
「この光が白くなると満タンなのよ」
「赤いうちはまだまだってこと」
「私たちは、まだへっぽこぴーだから、これで限界、帰りましょ」
五人はグエン商会に納品に来ていた。
代表でガイとレイが例の受付嬢に魔封石を渡している。
納品は、魔封石の持ち主が行わないと受け付けられない。
あら、あの子がいるのに少ないわね。
あまり大きな魔獣がいなかったのかしら。
「ガイさん、レイさん、今日は銀貨五枚ね」
「またよろしくお願いします」
愛想の良い受付嬢は可憐で巨乳な最高な女性なのになーと、恐くて近づけないあいは思っていた。
あいの元に来る前に、四人が少し話し合っている。
話はすぐに終わり皆があいの元に来た。
その中からレイがあいに一歩近づき話しかける。
「今日の売り上げは銀貨五枚だから、一人1枚ずつ、本当は荷物番は、少し減らすものだけど」
「ロイくんが同じでって譲らないから」
「実は、ロイくんも貧民出身なのよ」
「今日の狩りの間中、舌打ちを聞かれたことを気にしていてね、おかしいの」
「あれはあいちゃんの貧民の姿をみて、自分の昔を思い出して出てしまった舌打ちなんだって」
「あいちゃん誤解していたでしょ」
「はい」
少し横を向きロイは赤くなっている。
ロイさん、とてもいい人。
すでにあいは涙目になっている。
ぷっ、あいちゃんもロイ君もちょろすぎ。
笑いをこらえながらレイはあいに銀貨を差し出した。
「はい、あいちゃん」
「ありがとう」
「初めて自分で稼いだお金」
あいは受け取った銀貨を見つめ感動している。またも涙目になっていた。
「あのね、あいちゃん。あなたにお願いがあるの」
「えっ、改まってなんですか」
「私たちの仲間になってほしいの、だめかしら」
「えー、でも、でも、わたし、貧民だし、今日も役に立ってないし」
「私たち全員がなってほしいと思っているの」
「やっぱりあいちゃんは、わたし達が弱すぎるからいやなのかしら」
レイ達もその弱さからいつも断られているようで、弱気になっている。
「いやだなんて、そんな、嬉しいですなりたいです」
「よかったー」
「五人になると団を結成できるのよ」
「特典いっぱいなの」
「後イ団かー、なんか楽しそう」
あいの思ったままが口からでてしまった言葉だった。
「伍イ団いいじゃない、五人ともイがつくものね」
あっ、ちょっと違うけどと思ったあいだった。
「あいちゃんこのあとの予定は?」
「わたしですか」
あいは少し考えた。
金貨五枚で、母と弟、妹の薬を買って、銀貨で弟と妹に甘いお菓子、キキちゃんには、貧民の子供達からパンを買って持って行ってあげよう。
「わたしは買い物に」
「そお、じゃあわたしも一緒に行くわ」
レイが一緒に来てくれることになった。
これは、レイの優しさだった、貧民は店に入れてもらえないことが多いから、レイが付きそう事にしたのだった。
今日はまなの所にあいが遊びに来ていた。
あいはあえて洗っていない貧民服を着ていた。キキがこの服の臭いを大好きだからだ。
「うんしょ、うんしょ」
傷んでいるパンは水分を含んでとても重い。
そのパンをあいが運んでいる。
運んでいる最中からキキはもうよだれが止まらない。
あいが座って、結んであった紐をほどくと夢中になって食べ始めた。
「うまーーい、人肉パンうまい、うまい、人肉のあい、うまいよー」
なんだかわたしが、うまいみたいになっているよキキちゃん。
キキちゃんは持ってきた大量の人肉パンを、全部食べると、お腹一杯で気持ちよさそうに眠ってしまった。
どんな夢を見ているのかなー。そんなことを考えていると、
「人肉もっと食べたい」
キキちゃんは寝言を絶妙な所で呟いた。
「人肉の夢かよー」
あいとまなが同時に叫んだ。
まなちゃんも同じ事を考えていたのか。
「大親友だもんね」
これも同時だった。
おかしくって二人は大笑いした。
あいはこんなに笑ったのは初めてのことだった。