第七十八話 勇者一行
今日は、ヤパの国です。
お休みの最終日。
お城の中への直接移動は、失礼なので門の前へ移動です。
お供はキキちゃんとクーちゃんです。
「やばいなー、あんな恐い顔の人に話しかけられないよ」
門番が恐ろしい顔で立っている。
「声だけは、掛けましょう、断られれば帰ればいいですよ」
「そうね」
恐る恐る近づき挨拶をする。
「お、おはようございます」
「わたしは、まなと申します」
「はい」
「承っております」
「どうぞお入り下さい」
大きな門が開くと思ったら、横の小さな扉に案内された。
「あのー初めてなので、どう行けばいいのかわかりません」
「真っ直ぐ進んで、扉の中で誰でもいいので聞いてみてください」
「はい、ありがとうございます」
「えへへ」
「なんだかご機嫌ですね」
「お城で王様に会うなんて経験、初めてなの」
「そうですか?」
クーちゃんは、理解出来なそうな顔していますけど、わたしは、普通の高校生だからね。
こんな経験はしたことはありません。
楽しみにしても間違っていませんよ。
扉を開くと王城のロビーに出た。
意外と人は少ない。
「さて、誰に尋ねましょうか」
すぐ前を赤い新品の甲冑を着けた男が歩いている。
男は魔法使いの女性を三人引き連れていた。
「すみません、ノルちゃんの部屋を教えて欲しいのですが」
その男に聞いてみた。
すると男の顔が見る見る赤くなり、こっちへ近づいてくる。
男の顔は目が少し離れた、パグの様な顔だった。
ドカアッ
「いだーあ」
わたしは、男に顔を思い切り殴られた。
滅茶苦茶痛い。
「グウーウッ」
キキちゃんがわたしの前で男をにらみうなっている。
「キキちゃん、だめ、手を出さないで」
キキちゃんの服の裾を掴む。
ドカッ
男は、キキちゃんの胸を蹴り飛ばした。
キキちゃんとその服を持つわたしが吹き飛ばされた。
どれだけの憎しみを持って蹴ったらこんな事になるのか。
「貴様ら、我が国の大王をちゃん呼びとは、不敬の極みだ」
「しかも、この国の勇者をにらみ付けるとは」
「許さんぞ!」
許さんのはこっちだ。
乙女の顔を殴り、幼子を蹴り飛ばすなんて。
でも騒ぎを起こしたくないし、わたしは弱いし、キキちゃん強すぎるしどーしましょう。
考えていたら、三人の魔法使いの女をひき連れて行ってしまった。
三人の女も薄笑いを浮かべわたしを一瞥して男について行った。
「くそー」
「よく我慢できますね」
「人間なんてぶち殺せばいいのですよ」
「ク、クーちゃん」
「私は、魔人ですので人間には悪感情しかありません」
「基本人間はあんなもんですよね」
「ちがう、ちがう」
「基本人間はいい人ばかりだから」
「はー言っていて空しい」
悪い人が多いのも事実なのよねー。
「どうしよう、結局何処行けば良いのかわからないままだよ」
「他の人に聞くのも、もういやだしなー」
「まなさーん」
「こんなところで何やっているのですか」
「あ、メイドさん」
「三階の階段で待っていたのですが、遅いから見に来ました」
「ありがとうございます、右も左もわからなくて困っていました」
メイドさんに、四階の少し狭い部屋に案内された。
そこには、ノルちゃんと八の字髭のおじさんがいた。
あー、この国の王様はノルちゃんでした。
すでにあったことある人が王様でした。
その事をすっかり忘れて、王様に会えるってわくわくしていました。
「ようこそヤパへ」
「お招きありがとうございます」
この部屋は、秘密の部屋みたいです。
「早速ですが、まずは見てください」
「これがヤパの国土の地図です」
「そしてこっちが現在の魔王の森の書き込まれた地図です」
「随分、森に浸食されていますね」
「はい、国土の三分の一が森になっています」
「要塞都市が、三つ飲み込まれています」
「お願いというのは、この要塞都市の調査をする、勇者の護衛です」
「私の国の最高戦力です。失うと大きな損失になります」
「どうか、助力をお願いします」
「なるべく頑張ります」
わたしは自信がありませんでした。
だってやったことがないことなんですから。
「では、壮行会の会場へ行きましょう」
わたし達は三階の広い部屋に案内された。
ノルちゃんが入るとそこにいた人達が平伏した。
わたしは、ノルちゃんと一緒に入ったので平伏する人達の前に立つ形になった。
「面を上げよ」
そこには、さっきのパグ顔の男がいた。
「まなちゃん、あの方が私の国の勇者ペグです」
「ノルちゃんあの方がパグさんですか」
「いいえ、ペグです」
「陛下、その方は?」
勇者ペグがノルちゃんにわたしのことを尋ねた。
「私の、お友達よ、粗相のないようにね」
その方はすでに粗相をしまくっていますけどね。
「この調査に同行してもらいます」
「まなちゃん宜しくお願いします」
「はい」
こうして、勇者一行の一員として要塞都市の調査に向かった。
森までは、兵士も同行してくれたが森に入ると、勇者と魔法使い三人とわたし達になった。
その途端、勇者の態度が豹変した。
「おい、餓鬼、貴様がどういう者かは知らんが、ここから先は、俺の命令を聞いてもらう」
「いいな」
「……」
バキッ
「いだーー」
こ、こいつまたなぐりゃーがった。
「返事をしろ!」
「分かったか」
「……」
バキッ、バキッ、ドカッ
「ふー、ふー」
「わかったな、くそが!」
わたしは、殴られて仕舞いには蹴られた。
不覚にも涙目になってしまった。
だって、痛―んだもん。
ケガは直ぐに治ったけど。
キキちゃんは唇をかみしめて我慢してくれました。
わたしはキキちゃんを抱きしめました。
魔法使いの女は、それを見て笑っています。
だーー、こんな奴らと一緒に調査ってどんな罰ゲームだよ。
くそー。