第七十二話 お食事会 1
クロは、あいの元に移動した。
あいは二十メートルほどの幅がある川を、すぐ脇の草地から見ていた。
「あい様」
あいの後ろからひざまずいたクロが呼びかける。
クロの方を向いたあいの顔からみるみる表情が消える。
クロがガタガタ震え出す。
それを見た、ホイとセイが、クロが怒られると思い、クロを抱きしめ、あいの顔を見つめる。
ミドムラサキはどっちに味方すれば良いのか、クロを見たりあいを見たり、オロオロしている。
「ふーー」
あいが大きく息を吐く。
「ごめんなさい、自分に対して腹を立てているの」
「決してクロさんを怒っているわけではありませんよ」
あいが無理をして笑顔を作る。
「クロさん、どんなことがあったのか状況を教えて下さい」
クロは、後イ団のコオリでの戦いを説明した。
「……」
「クロさん気が付かなくてごめんなさい」
「魔力切れまで、疲弊させてしまったなんて」
あいは考え込んでいる様子であったが、意を決したようにクロに静かに話しかけた。
「クロさん、私は決意しました、魔女の契約をしましょう」
「でも、嫌なら断って下さい」
「嫌だなんてとんでもありません」
「むしろ、嬉しいです」
クロは心から嬉しそうだった。
それとは、裏腹にあいは重苦しい表情だった。
「魔女の契約は、強い拘束をします」
「裏切れば死を、契約した魔女が死んでも死を与えます」
「本当は、私は契約などしたくありません」
「自由でいて欲しいのです」
「クロは、その拘束こそ喜びです」
「あい様に心から忠誠を誓っています」
クロはあいの顔を見つめる。
あいはじっとクロの顔を見つめる。
「わかりました、始めましょう」
あいは、笑顔になった。
やさしい笑顔だった。
「クロさん、貴女を私の眷属とします」
「忠誠を誓って頂けますか」
「はい」
「永遠の忠誠を、絶対不変の忠誠を、あい様に誓います」
あいがクロを抱きしめた。
クロの体が少しずつ大きくなり大人の姿になっていく。
「いだだだー」
「ぶらじゃーが食い込むー」
いつもの魔女の痛みではなかった。
クロは、魔人であり、人間で言うなら魔女になっているため、死ぬより痛い苦痛は通り越している。
それより魔力が増大し本来の姿に戻ったため、少女姿の時付けた下着が、小さ過ぎ体に食い込んで痛かったのだ。
クロの本体の見た目はシロと双子であるためよく似ている。
シロは目つきが悪くて、クロが易しい目をしている事と色が違う位で、後は同じである。
「分体」
クロが右手を上げると、透明の分体が出ているのであろう、クロの体がみるみる、縮んで元の少女サイズに戻った。
「凄いです」
「魔力が満タンです」
クロがうれしさのあまり涙ぐんでいる。
その横でミドムラサキは、クロがうらやましかった。
出来れば自分も今すぐあいに拘束されたかった。
私もあい様と魔女の契約をして眷属になりたい。
だが、あいが魔女の契約の拘束を嫌がっている。
それがわかったため、言い出せなかった。
クロの本体は、今までと変わりない白い少女に戻ったが、分体はバージョンアップした。
まず羽が変わった。
いままでは蜂のような二枚羽根だったが、今は蝶のような四枚羽根になった。
着ている服が、以前はレオタードのような物を一枚、身にまとっていただけだったが、今はフリフリのスカートが付いた。胸は良く見るとぶらじゃーの紐が見えているという細かさだった。
「クロさんお願いがあります」
「明後日以降で日にちを合わせて、女性の皆をここに、集めて欲しいのですが」
「お食事会をして、皆に会いたいです」
「はい、楽しみです」
「皆の予定を聞いてきます」
「あっ、メイさんにお願いして、まなちゃんとキキちゃんも絶対参加してもらって下さい」
「まなちゃんとキキちゃんは、イネスのアド商会のシャムちゃんに聞いてもらえばわかります」
「はい、わかりました」
「じゃあ準備しておきますのでお願いします」
私の名前は防愛。
日本の尾張県北那小屋市に住む高校一年生。
……でした。
おいしいあいちゃんのクッキーを食べようとしただけなのに、なぜか異世界にいます。
あれかー、神社でクッキーを投げて食べようとした罰があたったのかー。
この世界が日本と大きく違うのは、魔法があるというところです。
日本と似ている点は、大親友のあいちゃんがいたというところです。
私もそれなりの日本人なのでこちらの世界でステータスとかやってみました。
はい、出来ませんでした。
最初はなにもわかりませんでしたが、何ヶ月も過ごせば流石にいろいろわかって来ました。
少し昔の日本と思えば大体合っている感じがします。
この世界での私は、北の魔女という偉い魔女みたいです。
でも、魔法が暴走してしまうため、魔法使用禁止です。
しかーし、先日錬金魔法が使える事がわかりました。
無から有の凄い魔法です。
しかーし、いろいろ研究の結果、スマホとか牛や馬などは出せない事がわかりました。
お酒や、グラスなどは出せます。
アドちゃんからはこの研究を、きちがい研究などと呼ばれています。
まあ、ごみを一杯だしたのでしょうがないです。
今日は親友のあいちゃんとお食事会です。
学園には3日休みをもらい、キキちゃんとミミちゃん、ルシャちゃんの四人で会場に来ました。
「あいちゃーん」
「まなちゃーん」
「ひさしぶりー」
久しぶりのあいちゃんは、相変わらずかわいい。
「あいーー」
「いい、匂い」
キキちゃんがあいちゃんに抱きついた。
あいちゃんは、皆に迷惑にならない程度に臭う貧民服を着ている。
私の今いる場所からは、左手に川があり、右手には広い平地が広がる。
平地には石が敷き詰められ石のテーブル、椅子が用意されていた。
調理台やコンロも用意されている。
でも、変である、机の上には、酒とさいだー、ワイングラス、切子のコップしか乗っていない。
「あいちゃん、料理が見当たらないのですけど」
「はい、まなちゃんに教えてもらおうと思って用意してありません」
「そうか、あいちゃんはやっぱり頭が良いです」
この世界の料理の調味料は、塩一択で日本人のわたしには、あまりおいしくない物が多い。
あいちゃんは、わたしから、日本の料理を学ぶつもりなのだ。
で、あれば研究の成果を発表しましょうとも。
きちがい研究と揶揄された、私の研究の成果を。
「あいちゃん、これより私の研究の成果を発表します」
わたしは、鼻息をフンスカさせた。
「あ、ごめんなさい、まなちゃん」
「その前に、皆を紹介させて下さい」
わたしは、少しズッこけた。
横を見ると、むしゃむしゃ、キキちゃんがご機嫌で人肉パンを食べているのが見えた。