初仕事
あいは涙目になりながら、無理に笑顔を作る。
「何言ってんだろう私、登録に来ました。お願いします」
「あのね、登録には金貨15枚いるのよ、誰でも簡単に出来る事じゃないの」
「わかったら、帰ってくれるかな」
意外にも静かな口調で受付嬢が話す。
「これでお願いします」
あいは持っていたお金の入った袋を受付嬢に袋ごと渡した。
受付嬢は袋を受け取ると、少し顔色が変り干し肉を飲み込んだ。
中の金貨を数えると二十枚入っていた。
「すぐに、登録を始めるわ、これは返却ね」
五枚の金貨を袋に戻すとあいに差し出した。
「登録には色々時間が掛かるの少しまっていて頂戴ね」
はーやっぱりお金は偉大ね、お金を渡した瞬間お姉さんの対応が変ったわ。
あいはそう思っていたが、受付嬢は、貧民の少女がこの金貨を用意してきた過程を想像し態度を変えたのである。
「さあ、何処で待とうかな」
あいはグエン商会の壁の掲示物を見る。
そこには、傭兵募集から、草むしりまで、様々な仕事の募集がある。色々な仕事があって面白い。
本来、グエン商会の登録者は、魔力を持つ獣を殺し、死んだ獣から出た魔力を集め、それを納品して収入を得る。
中には獣を殺せない弱者がいて、軽い仕事は救済の為の募集である。
「登録終わったわよ-」
受付嬢があいを呼ぶ。
あいが近づくと
「最後にこれをして終わりなんだけど、親指出してくれるかな」
何のことか分からないあいは無造作に右手の親指を出す。
「痛い」
あいの親指を刃物で切りつける。
その下に赤黒い石を置くとその石の上に親指を持ってくる。ぽたぽたと血が石の上に落ちる。
「これで良しっと。女の人は自分で出来ないからめんどくさいので、私がやっているのよ」
受付嬢は切った親指を治癒しようと目をやるとあいの傷は治っていた。
凄い少女だわ。
驚いていたが、それを悟られないよう平静を装いながら、話を続ける。
「この石が魔封石、魔力を集める石よ」
「金貨十五枚の価値があるからなくさないでね」
「でも血で登録したから盗まれても悪用は出来ないから安心して」
「以上で登録は終わり、沢山魔力を集めてきてね」
「ありがとうございます」
挨拶を済ますとあいはグエン商会の扉の所まできた。
その時、受付のやりとりを見ていた者が声を掛けてきた。
「あなた新人さん」
声を掛けたのは、襟足の髪が後ろにピンピンはねている、活発そうな明るい感じの女性である。
「もしよかったら私たちと一緒に仕事しませんか」
「あっわたしですか」
「そうよ」
ピンピン女は笑顔であいを見つめる。
「わたし貧民ですよ」
「見ればわかるわ」
「わたしは気にしないけど、あなたが嫌なら」
「嫌じゃないです、うれしいです」
あいはもう涙ぐんでいる。
ピンピン女はこの子チョロいなと思っていた。
「外に仲間がいるの、紹介するから一緒に来て」
外に出るとピンピン女は外の仲間に話しかける。
「みんなー、新人さんにきてもらったよー」
「新人さん、仲間を紹介するわね」
集まって来たのは男女三人だった。
「右端の一番大きい男の人が、リーダーのガイさん」
黒髪、ごつい体で目が細い、無精髭の男が少し頭を下げる。
「その左隣がロイくん」
薄い茶色の髪、意外とかっこいい系の男がほんの少し頭を下げる。
「その隣がメイさん」
黒髪で背の低い美少女が微笑む、だが、さん付けされていたから、見た目通りの年齢ではないはずだ。
「そして、私がレイです、よろしくね」
「こちらが、新人の」
レイはあいの方を見る。
「あいです。いま魔法の勉強中です。宜しくお願いします」
あいがあいさつをしていると、小さい声でロイが
「ちっ、貧民か」
そう舌打ちし、呟いているのが聞こえた。
こころなしか、顔も怒った様な表情に見える。
あーー、この人は貧民が嫌いなんだわ。
ふふっ貧民なんか好きな人はいないわね。
レイさんの方が少数派よね。
あいは考えていることが丸わかりの表情をしていた。
イネス郊外の林の中
「ここが私たちの狩場、ここで魔獣をやっつけて魔力を集めているの」
レイがあいに話しかける。
「新人のあいちゃんの今日の仕事は、荷物番よ、魔封石は持ってる」
「はい、ここに持っています」
「これは、ガイさん以外の皆の分」
「この石には、金貨一枚分の魔力が貯められるのだけど、私たちはへなちょこだから、朝から狩りをして一個分貯まらないの」
「だから、あいちゃんに預けておくわね」
「魔獣が来たら、他の荷物はどうでもいいから、魔封石だけ持って逃げてね」
「わかりました」
「あまり遅くならないように帰ってくるわね」
「はい」
あいの返事を聞くと、レイ達は林の奥へ入っていった。