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北の魔女  作者: 覧都
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第六十八話 クロの涙

「めめめめ、メイ様」

「たたた、た、た、たいへんですー」


「はい、大変なのは理解しました」

「でも、何が大変なのか、肝心な所が分かりません」


「なななな、な、なにを、お、お、落ち着いて、いいいいるんですかー」


「そうだねー、まずはクロさんが落ち着きなさい」


パアーーアーーン

メイが机の上を平手で思い切り叩いた。


グエン商会の一階にいる者達が全員、少し飛び上がった。

小さな白い妖精の様なクロはびっくりして飛び上がり、天井で頭をぶつけた。

頭をぶつけたクロがポトンと机の上に落ちた。


「どうですか、クロさん落ち着きましたか」


行動とは裏腹に、メイは超美形の顔を最上級ににっこりさせてクロに話しかけた。


「はい」

「あのマイ様を見失いました」


「それはこの街で、ですか」


「はい」


「い、いつの間に来ていたのですか」


「ついさっきです」


それを聞きメイは少し焦った。

メイの考えの中にマイが、もう来ていることは、想定されていなかった。


「せめて、この騒ぎが終わってからにしてほしかったのですけど」


いまは、全戦力が目一杯動いているため、マイのために動かせる人員がいなかった。


「……」

「クロさん、シマさんを、ここに呼んで下さい」

「結界の位置からさらわれた場所を推定してみましょう」


「あのお呼びですか」


シマがメイの前に現れた。


「シマさん、クロさんとともに、この国のお姫様の捜索をお願いします」


「え、え」


シマが何のことか分からず目をぱちくりする。


「すみません、説明不足ですね」

「実は、先程この国の王女、マイ姫が誘拐されました」

「この時機に貴族の誘拐をする者など、ゴルド一家しかいないでしょう」

「速くしなければ見せしめのため、惨たらしく殺されてしまいます」

「なんとか居場所をクロさんと、協力してつきとめて欲しいのです」


「それは、分かりましたが方法は?」


「クロさんの話では、結界が張ってあるようなので」

「その結界の広さを見極め、その中心あたりを捜索して欲しいと思います」


「わかりました、すぐに向かいます」


「何か分かれば、クロさん経由で連絡を下さい」


「はい」


シマは姿を消す魔法を発動し、クロの移動魔法で結界の場所へ移動した。


「今できるのはこれくらいです」


メイは悲痛な表情でクロを見る。


「はい」


「クロさん、自分を責めないで下さい」

「悪いのは、私です」

「指揮者の癖にこの事に思い至りませんでした」


「いいえ、私は止めるべき時に止めることが出来ませんでした」

「私のミスです」


二人は暗い表情で黙ってしまった。




三階ではケンが腹と尻を掻きながら扉から出て来た。


「すげー音がしたなー」


先程のメイの机を叩く音で目覚めた様だ。


三階の廊下の突き当たりに見慣れぬ、白い塊があった。


「お、なんだおめえ」


「うるさい、あっち行け」


白い塊は、小さい妖精から羽を取って大きくしたような感じだった。

それは、クロの本体だった。

その顔は頬をベチョベチョにして、鼻水を垂らし、よだれまで垂れ流している。

大泣きしているようだ。


「おめえ、あの妖精か」


「うるさい、あっち行け」


「大泣きしてるじゃねーか」

「どうした」


「……」

「うっうっ」


「泣いてちゃ分からねえ」

「話して見ろよ」


「話したってどうにもならない!」


「そりゃあ、話さなくちゃ分からねえ」

「泣いているだけなら話した方がましだと思うが」


「大事な人がさらわれたの」


「そりゃあおめー、命より大切な人か」


「命より大切な人の娘さん」


「……」

「そりゃあ大変だ」

「犯人の目星はついているのか」


「ゴルド一家」


「なら助けに行こう」


「うわーーん、うわーーーん」


「なに泣いてるんだ」


「場所がわからないの」

「本拠の場所だけが分からないの」


「それなら分かるぜ」

「ゴルドの幹部から聞いたんだ、間違いねえ」

「聞いた幹部は、口封じに殺したからまだ変わってねえはずだ」






ケンは、暇な朝には散歩をする。

街の堀の横の道を朝早くとことこ歩く。

朝早くの石畳の堀端の道にはよく貧民が立っている。

日中人通りが多くなると、貧民は危害を加えられるので出てこなくなる。


ケンは貧民に会うためポケットに、金貨を一枚、銅貨を一枚、おいしいパンを二個、持って散歩をしている。


おとなしそうな貧民の子供を見ると、その前で金貨を落とす。

貧民の子供は、ケンを呼び止める。


「おじちゃん、お金落としたよ」


決して拾って持ってこない。

拾って持って行くと、汚れて臭くなるからだ。


「アア、ありがとう」


ケンは、金貨を拾い、貧民の子供に近づきワシワシなでる。


「おじちゃん、駄目だよ臭くなっちゃう」


ケンは臭いなーと思っているが、表情が全く変わらない。

それを見て貧民の子供は安心する。


「これは礼だ取っておけ」


ケンは、ポケットに手を入れ銅貨を出す。


貧民の子供は、驚いた顔をするが嬉しそうに受け取る。


「腹は減ってないか」


ケンがポケットからうまそうなパンを出すと、子供の腹がグーーとなる。

パンを半分に割ると、半分を自分、半分を貧民の子供に手渡す。

貧民の子供は、パンを食べずにじっとパンをみつめる。


「どうした、食わねえのか」


「このパン食べなきゃ駄目」

「弟に持っていってやりたいんだ」


「いいぞ、持って行け」

「おめーの分はこれだ、少しかじってしまった、食いさしで悪いが、食え」


ケンが少しだけかじったパンを渡す。


「うん」


嬉しそうに食べる。


「お、すまん、すまんもう一個パンがあった」

「こいつもやる、持って行け」


貧民の子供は、口一杯にパンを頬張っているため返事が出来ないが、大きく頷いている。


パンを食べ終わると貧民の子供は、何度もお辞儀をして走り出した。

そして、何度も振り返り、お辞儀する。

三度目に振り返ったとき、前を歩いている二人組にぶつかってしまった。


「ガキー、てめーどこみてあるいてやーがる」


ドカッ

貧民の子供を殴り飛ばす。

貧民の子供の手からパンが落ちてしまった。

二人組の一人が、そのパンを踏み潰した。


「おいおい、子供にひでーことをするもんじゃねーぜ」


子供と二人組の間にケンが入り、手で子供に帰るように促す。

子供の頬は大きく赤く、腫上がっていた。

子供は潰れたパンを拾いお辞儀をして走って行った。

ケンは子供をいつもの無表情で見送った。


「てめー、俺たちはゴルド一家の幹部だ、分かって文句を言っているのか」


にやにや笑い出す。


「そりゃあ、丁度いいぜ」

「おれは、ミッド一家のケンだ」


言うが早いかケンは素早く二人を殴り飛ばした。

倒れている一人に馬乗りになると、ケンは殴り続けた。

みるみる頭蓋骨が砕け、頭がぐちゃぐちゃになった。

それを見ていたもう一人の幹部が悲鳴をあげる。


「ひっ、ひーー」

「た、助けてくれ、本部の場所を教えてやる」

「だから、助けてくれ」


「何処だ聞いてやる」


「ヤダ商店だ」

「北西地区の4階建てのでかい建物だ」


「そうか」


ケンは、馬乗りになりいつものように、満足するまで殴り続けた。


「別に助けるとは言ってねえぜ」


二人の死体は貧民のごみ処理場に捨てる。

こうすると、すべて貧民が処理してくれるのだ。


こうして、ケンはゴルド一家の本拠地の位置を知ったのだ。

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