第六十話 降参
「後イ団すげーな」
チュウの目がキラキラしている。
「ヤパの魔王軍を五人でやっつけたんだろ」
コウの目もキラキラしている。
「北トラン十五万を数万人、戦女神が一人で削ったって話だ」
そして、モリも目をキラキラさせている。
「ケンが、俺はいままで世界最強だと思っていた」
コウが言うと、チュウもモリも頷いた。
「……」
しばらく沈黙が続いたが、コウが重い口を開く。
「降参しかねーだろうな」
「うむ」
コウがまわりにいる、幹部を見回す。
幹部も、扉を固めていた配下も皆頷く。
「決まったようね」
メイとレイとハイが現れた。
「うおっ」
「なんでわかったんだ」
コウとチュウ、モリが同時に驚いた。
「きまりやした」
「降参します」
「私たちの下で働くことになるけどいいの」
メイが少し悪そうな笑顔で聞く。
「はい」
代表してコウが返事をする。
「今までよりきつい仕事をしてもらうし、裏切りは許さないけどいい」
「はい」
「その前に、全員に意思確認をして、やめたい人は自由にやめさせてあげてください」
「その後は裏切りを一切許しません」
「意思確認は、何日かかりますか」
「二日もあれば全員確認できます」
「あのー、ケンはどうなりますか」
「あの子はちょっとやり過ぎています」
「しばらく手元に置いて考えます」
「じゃあ、あなたは意思確認を直ちに始めて下さい」
「はっ、私の名はコウです、直ちに始めます」
「次はあなた」
「おれは、モリです」
小柄な男モリが、うやうやしく頭をさげる。
「あなた達が誘拐している人を解放してあげて下さい」
「その他の仕事も一時中断です」
「あと、牢獄に捕らえられている、仲間を解放して下さい」
「できますか」
「すべて把握しています、出来ます」
「じゃあお願い」
「で、最期にあなた」
「おれはチュウです」
「チュウ、これから、私の計画を話します」
「皆が戻ったら伝えて下さい」
「へ、へえ」
メイは玉座の所へ歩いて行き、玉座の横に立つと静かに話し出した。
「私たちは、この町の一番でかい一家と戦います」
「えっ、えーー」
「そんなことをしたら命が幾つあっても足りやせんぜ」
「それがこれまでの罪に対する罰だと思ってください」
「今後、ミッド一家は悪事を一切許しません」
「いいですね」
「へ、へえ」
「ちょっといいですか」
ハイが話に割り込んできた。
「クロ、あいつらをここに」
ハイが、クロに指示をすると、元アギの配下が三十人現れた。
「あっお前らはアギんところの」
チュウは驚いた、三十人の面構えが全く違っていたからだ。
「お返しします」
「では、二日後グエン商会で」
グエン商会の一階の隅にケンが座っている。
「なあ、あんた」
「俺を拘束しなくていいのか」
「逃げたければ逃げていいわよ」
受付嬢がめんどくさそうに言い放つ。
「グエン商会か、あんたも強えーんだろうな」
「あんたよりは、強いかもね」
「……」
ケンはうつろな目で静かになった。
「この中なら自由にしていいわ」
「眠ければ三階で、お腹が空いたらご飯も出します」
「言ってくださいね」
「……」
「はーつかれた」
メイ達三人が帰って来た。
レイの目つきが悪くなる、ケンの存在がわかったからだ。
「お疲れ様です」
受付嬢が笑顔で答える。
死に神の様な陰気な顔だがとてもいい人のようだ。
「いやーまいった、まいった」
ガイが入って来た。
「ぎゃー、臭い、臭い」
メイがシッシと手で出て行くように促す。
「ひでーなー、いま帰って来たばかりだぜ」
ロイがぶつくさ言う。
「裏に井戸があります」
「綺麗にしてきて下さい」
死に神受付嬢が申し訳なさそうに頭をさげる。
「へいへい」
男共三人は素直に裏に出て行った。
「あのー、あのー、お背中は流した方がよろしいのでしょうか」
死に神受付嬢がそわそわする。
うわー、なんか変なのが増えたー
頭を抱えるメイであった。
森に明るい光が幾筋か差し込む。
早朝の朝日が美しく、森の緑を照らす。
相変わらずミドムラサキはぐっすり眠っている。
あいはミドムラサキの頭を膝枕すると、体を優しくさすっている。
目の前にはいつもより大きめの岩が出されている。
丁度大皿が二皿乗る大きさだ。
「出現餃子」
「あら、この体勢では食べられないわ」
「では、起きます」
「あのー、味見してもよろしいですか」
「あら、ミドムラサキさん起こしてしまいましたか」
「あっ、はい丁度今、目が覚めました」
ミドムラサキは真っ赤な顔をしている。
「ふふふ、じゃあ一緒に朝ご飯にしましょう」
食べ始めようとしたら。クロの本体が白い小さな手で、ちゃっかり餃子を両手に持っていた。
森の岩の食卓で三人は朝ご飯を食べた。
「そうだ、飲み物はさいだーでよかったかしら」
ふんふん、目を輝かせて頷く、ミドムラサキとクロだった。
三人がお腹一杯になった所で、デザートは濃厚ソフトがだされた。
「あーーあっ」
また、あいが大声をあげる。
「どっ、どーしました」
二人が心配そうにあいを見る。
「今日は餃子を魔法で作り出そうと思っていたのに」
「それを忘れて全部食べてしまいました」
「あーーあっ」
あいが再び叫んだ。
「どーしました」
「これから、走るのに食べ過ぎで動けません」
こっそりクロは分体に戻っていた。