第五十八話 アギの最期
ゼマ伯爵邸
ここが、いまミッド一家が根城にしている場所である。
ゼマの家族は逃げられないようにボロボロにされ、屋敷の一室に放り込まれている。
「ケン、アギを連れて来た」
ケンは腹心のコウ、チュウ、モリの三人にケンと呼ぶよう命令している。
アギを連れてきたのはミッド一家ナンバーツーコウである。
コウはでかいからだの男だが顔は知性的な文武両道な感じの男だ。
チュウはコウを一回り小さくし人相を凶悪にした感じの男だ。
モリはさらにチュウを少し小さくし、さらに凶悪な顔にした感じの男である。
ケン本人は髪が軽く天然パーマがかかり、色白で唇が赤い、背もあい位しかない、一見少女の様な人物である。
いつも無表情で、配下の者は笑ったところを見たことが無い。
部屋の中には玉座があり、大勢の人が集まれるように、広く作られている。
玉座にケンが座り、アギはその前に立つ。
回りに百人程の部下がおり、アギが逃げないように配置されている。
アギの体は小刻みに震えている。
アギは、屈強な男であり、修羅場をいくつも乗り越えた男である。
ケンが玉座からゆっくり降り、アギの前まで歩いてきた。
「かまえろ」
ケンが無表情な顔で静かに命令する。
「こい!」
アギは覚悟を決めケンに向かっていく。
「くっそーーお」
アギが全力でケンに殴りかかる。
渾身の一撃だがケンはそれをこともなげに避ける。
そして、たいして力を込めていないような一撃でアギを殴りつける。
「ぎゃっ」
ケンの一撃は、痛烈だった。アギは立っていられなかった。
その後、ケンは馬乗りになり、一方的に殴り続ける。
相手が泣こうが、わめこうがお構いなしに、
生きようが、死んでしまっていようがお構いなしに、
殴り続ける。
満足するまで殴り続ける。
途中で止めれば、止めたものが同じ目に遭う。
その顔には一切の表情がない。
まわりで見ているものの心が恐怖に支配される。
アギが動かなくなってもずっと殴り続けている。
「ふーー」
「連れて行け」
ケンは満足しナンバースリーチュウを見た。
「チュウ、やったやつらを連れてこい」
「はっ」
やった奴らとは、アギのアジトを潰した奴ら、メイとレイとハイのことである。
「チュウさんあいつらです」
部下が指さしたのは、グエン商会の窓際でのんきに昼食を食べている女性三人だった。
「メイさん、外に人相の悪い人が集まっています」
ハイが気付き、メイに伝える。
「ここにいれば何も出来ないですよ」
「心配いりません」
チュウがズカズカ入ってきた。
「ちょっと、何入って来ているのですか」
受付嬢がびっくりして声をかける。
「うるせー、ブス」
「登録者になろうか迷っているんだ」
「そこのお嬢さんに意見を聞きてーんだ」
「その位はいいんだろ」
受付嬢はカウンターに突っ伏し肩が震えている。
チュウは返事を待たずに三人の席に近づき、勝手に開いている椅子に座った。
そして、そこにいる女達の顔を見た。
「驚いたねー、女神様がいるのかと思ったぜ」
チュウは素直に驚いていた、メイもハイも美しかったのだ。
「何ですか」
白い美少女のメイが眉をつり上げ口を開いた。
「アギは死んだぜ」
「昨日の不始末の責任を取らされてよ」
「それが、何か私たちと関係があるのですか」
「うちの、頭があんたらを連れてこいって言っているんだ」
すでに、チュウはこの三人がアギのアジトを襲撃したと確信していた。
アギからは、三人の女で子供がいたと聞いている。
三十人の男を三人で倒せるものがいるなど信じられなかった。
それが女なら、尚更信じられなかった。
今、目の前の三人を見て、ずっと鳥肌が立っている。
こいつらしかいねーだろ。
そう思っていた。
「お断りします」
「お断り出来ねーんだよ」
「いいえ、行かないとは、いっていません」
「今日の夜、伺います。お待ち頂いてもよろしいですか」
「じゃあ、夜迎えに来る、逃げるなよ」
「まあ、逃げられないように見張りを置いていくがな」
チュウはグエン商会を出て行った。
グエン商会のまわりは百人の男達に囲まれた。
「くそーーお、ブスって言われたー」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった受付嬢が叫んだ。
カウンターに突っ伏して泣いていたのだ。
「メイさん、どうする気ですか」
「本当に行くのですか」
ハイがメイを見て問いかける。
「いま、アギに付いていたクロさんが」
「ミッド一家の頭、ケンに付いてくれている」
「今なら暗殺でも何でも出来る」
「でも、クロさんの報告から推測すると」
「自分の手で逆らった相手を殺したいみたい」
レイは、何故か聞いているのか聞いていないのか無表情である。
ハイは目を輝かし聞いている。
「少なくとも、ミッド一家の兵隊に危害を加えられる心配はなさそうに思う」
「ふふふ、今日の夜ミッド一家を襲撃しようと思っていたけど、手間が省けたって感じね」
襲撃した場合、部下を何人も倒さなくてはならない。
メイはどうしたらいいのかと悩んでいたところだったのだ。
「レイちゃんそれでいいでしょ」
レイは無表情で少しだけうなずく。