第五十四話 コオリの街
シロの城のまわりは少し木が刈り込んである。
刈り込んである先は深い森である。
ミドムラサキは実は、あまりあいを理解していない。
戦ったこともなければ、一緒にいた時間も少ない。
そんなあいと森の中へ入った。
最初はゆっくり歩いていたが、足場の悪い森の中を器用についてくる。
このまま少しスピードを上げたらついてこられないのではと、意地の悪いことを考えていた。
少しずつ速度を上げた、余裕でついてくるあいに対してどんどん速度が上がり、今では限界の速度になっていた。
そのミドムラサキの限界の速度に余裕でついてきて、仕舞いには話しかけてきた。
「あとどの位ですか」
あいが聞いてくる。
「もう疲れたのですか」
「はい、疲れました」
その言葉を聞くとミドムラサキは、速度を緩め、休憩できる場所を探した。
丁度いい倒木を見つけそこに座った。
疲れたと言ったあいはまるで疲れた様子が無い。
むしろ自分の方が肩で息をして、汗を大量にかいていた。
まさか、この人私のために休憩をしてくれたのでは、
そう考えていると、あいは笑顔で牛乳を渡してきた。
あいはごくごく飲んでいるが、ミドムラサキはあまり飲みたい気持ちでは無く、取りあえず一口だけ飲んだ。
「あとどの位かしら」
「休み無く移動して五日程でしょうか」
「へー」
「あのー、休みながらだと十日位かかります」
「ミドムラサキさん、すこしはやく移動したいので」
「方向だけ教えてもらって進むってできますか」
「進んだ先へクロさんに移動してもらうなんてどうかしら」
「迷子になったりしますか」
「迷子になるなんてことはありません」
「じゃあそれで行きましょう」
「方向を教えて下さい」
「こっちの方です」
ミドムラサキが指をさすと、あいの姿が消えた。
わたしの速度は、あい様にとって遅すぎたのね。
森の魔人より速く移動できるなんて信じられません。
「ミドムラサキ様、移動お願いします」
クロが妖精姿で、ミドムラサキの肩に現れる。
「はーなんであんたにミドムラサキって呼ばれないといけないのよ」
「あんたは、ムラサキでいいのよ」
「ムラサキ様移動します」
移動先は、ミドムラサキの予想の遙か先だった。
あいは、そこでさいだーを飲んでいた。
「そそそ、それは、さ、さいだーでは」
「飲みますか」
「は、はい飲みます、飲みます」
「あーわたしも欲しいです」
見ると真っ白な少女クロの本体も出現した。
こうして少しずつ、ミドムラサキもあいに手なずけられていった。
ガイとロイとサイは移動符を使いコオリの広場に飛び、グエン商会を目指し歩いていた。
女性を先に行かせるわけにはいかないので、男性陣で先行して来ている。
もうじき昼になろうかという時間に、人が歩いていない。
街のつくりは、オリ国王都オオリとよく似ている。
だが、暗い、太陽が出ていて、明るいはずなのに何だか、暗く感じる。
「何だろうねこの感じ」
ロイが、ガイとサイに話しかける。
小声でガイが言う。
「何か嫌なものが付いてきているねー」
「サイさんあんまり見ないようにね、気づかない振りで」
後ろを見ようとしたサイに注意する。
グエン商会に付くと、店内を見回した。
店内は何処のグエン商会も同じで代わり映えはしなかった。
受付嬢はいつものリイでは無く、黒いメイドの様な服を着た死に神のような、痩せた暗い雰囲気の受付嬢だった。
街の雰囲気にぴったりだった。
「なにか用ですか」
「あのー後イ団のガイですが」
「あー、承っていますよ」
「この街で安心出来るのは」
「こことアド商会だけです」
「三階を開けてあります」
「いつでも使えますよ」
「分かりました」
「一度のぞかせてもらって、もう一度街を歩いてみます」
「はい、ご自由にどうぞ」
「ここには誰も来ませんので」
三階に着くと、二部屋用意してくれてあった。
「クロさんこれで、ここへの移動は、大丈夫ですか」
「はい、大丈夫です」
白い妖精のようなクロが答える。
「メイ様、レイ様、ハイ様の用意が出来たら」
「ここに移動するようにします」
マイだけは領主なので馬車で領主邸へ行く事にしている。
「ああ、よろしく」
「じゃあ、俺たちは街をぶらぶらしてくるよ」
グエン商会を出ると直ぐに柄の悪い男達に囲まれてしまった。
「おいおいまじか、グエン商会の真ん前だぜ」
ロイが驚いた。
「ここじゃあ、グエン商会も店の中以外じゃあ、なにもしてくれないぜ」
囲んでいた男達のあごの長いリーダーがニヤニヤしながら話す。
「あんた達は何なんだ」
ガイが問いかけるが、囲んでいる男達は、薄気味悪く笑うだけで答える素振りはない。
「あんたら、腕にかなり自信があるようだが、ここじゃあ怪我するだけだぜ」
リーダーが高圧的に話す。
「さしずめあんたら正義の味方気取りの登録者だろ」
「ここじゃあよー、そんな馬鹿はその日のうちに全員死んじまったぜ」
リーダーが手を振ると男達が、三人に襲いかかった。
だが、十人いた手下が次々倒され最期はリーダーだけになった。
「おいおい、あんたら強いねー」
リーダーは何故か余裕である。
「鎮まれー、鎮まれー」
憲兵隊が、何処で見ていたのか絶妙のタイミングで出て来た。
「あんたら、丁度良かった」
「こいつらが、突然襲ってきたんだ」
ガイが憲兵隊に近づきながら話しかける。
憲兵隊の隊長が叫ぶ。
「不審者だ捕らえろ!」
ガイは倒れている、柄の悪い連中を見た。
憲兵隊の隊員の槍が、後イ団の三人に突きつけられる。
あごの長いリーダーが笑っている。
「まさか、俺たちを捕まえるのか」
ガイが驚きの声を上げる。
「ぎゃあーはっはっー」
「面白すぎるぜ、こんな手に引っかかるとは」
「お前ら現行犯だ、当分出られんぜ」
後イ団の三人は捕らえられてしまった。