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北の魔女  作者: 覧都
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第五十話 ハイさん死んでる

クロは主に気を遣い本陣まで二十メートル程の、北トランの陣を一望できる場所に移動した。

一緒にハイもマイも来ていた。


黒い煙がいくすじも立ち上がり、煙の下には炭化した元は人だった物があった。


クロは気を遣わず、まず本陣の中に移動すべきだった。

この場所の方が治癒をかけやすいと配慮したのだ。


あいの顔から表情が消えた。

あいは感動を体一杯で幼児のように表現する。

反面、怒りは静かになる。


静かな怒りは、魔王軍の最高幹部をも震え上がらせる。

ハイはあいと一緒にいられる喜びと、横に並んでいて顔が見えないため、気が付いていない。


本陣近くで休んでいる兵士と、降った元北トラン兵に変化が現れた。


元北トラン兵の中には、心肺停止の者が大勢いた。

南トラン軍の兵士にもやはり心肺停止の者はいた。

けが人は、いや、けがをしていない者はいなかった、


味方の心肺停止の者はイホウギの指示のもと火葬はされていない。




心肺停止の兵士が次々むくり、むくりと起き出した。

当然けが人の怪我などすっかり全快である。

あいが治癒魔法を施したのだ。


だが、火葬された炭の中からは生還する者は一人もいなかった。

北の魔女の呪いのため、生きている部分の無い、死者は決して生き返らないのだ。

あいの治癒魔法は細胞一つでも、生きていれば復活させられる。

そのあいの治癒を持ってしても治癒できなかった。


陣全体から歓声があがった。


兵士の視線は、貧民服を着た少女と、少し贅沢な服を着た少女を、連れているハイに集まった。

今日もハイはメイの服とおそろいの、白い長めのスカートに青と黄色の糸で、ほんの少しだけ刺繍の入った服を着ていた。


「おおーー、奇跡だ-」

「見ろ、女神様だー」

「女神様だー」



女神コールの中三人は、クロに案内され本陣の中に移動した。



本陣に移動して女神コールに気をよくしてハイは満面の笑顔である。

ハイは、あいが女神と言われたと思い上機嫌なのだ。


そしてあいがどんな表情か見てみたくなった。

よせばいいのにハイは、あいの顔をのぞき込んだ。



ハイはぺたんとその場にひれ伏してしまった。

そう見えただけで、本当は、ハイは失神してしまったのだ。



あいからあふれ出す怒りのオーラは、居並ぶ将軍達も震え上がらせている。

将軍達は何だか分からない恐怖と、ハイの平伏を見て、平伏してしまった。

イホウギもゼンも平伏している。


クロはメイぐらいの白い美少女の姿で平伏している。

小さな分体の姿では失礼になると本体で平伏しているのだ。


マイだけはポカンとして、突っ立っていた。

正確には突っ立ていた訳では無く、あいの怒りに当てられ微動だに出来なかったのだ。

普通の人間ならこれが当たり前である。

むしろ動いて平伏できた、将軍達がすごい者達なのである。


あいは視線をクロに向けた。

その顔には表情が無く、眉がするどく上がっている。

あいが激怒しているのだ。


クロは震えた、震えすぎて少しトントン小刻みに、ジャンプしているように見える。

歯がカチカチなり、本陣の中に響いていた。


バシャ、あいの体にイホウギの方から液体が飛んで来る。

勢いよく飛んできた液体は、あいの胸から下を濡らした。

あいは、視線を液体の飛んできた方に向けた。


そこには、腰の短刀を首に突き刺しているイホウギの姿があった。

その体は前のめりに倒れ、ビクンビクンと大きく痙攣していた。


「し、師匠!」

「なんてことを、ああ、なんてことを」


あいは、その場で座り込み、這いずってイホウギの元に行く。

首から飛び出す血液があいの全身を赤く染めた。


ようやくイホウギにすがりつくと


「治癒、治って下さい」


「うおーー」

「お、お、お」


イホウギが吠えた。


「わ、わしは、……」

「そうか、生き返ったのか」

「生き返らずとも良かったのだが」


「いいえ、いいえ」


あいは目に光が戻りいつものあいに戻っていた。

イホウギにすがりつき、泣いていた。


「難儀な弟子をもったものだ」

「弟子あいよ」

「わしの話を聞く余裕はあるかのう?」


「はい」


「そなたの配下のものは、よくやってくれた、何の報酬も無いのに」

「我がトラン国人の、多くの命を救ってくれた」

「もし二人がいなければ、どれだけの犠牲者がでていたことか」


イホウギは、いまもひざまずき、額を地面にこすりつけている、ハイとクロを見る。


「これだけのことをしてくれたものが、得られる物が主の怒りだけとは」

「不憫でならぬわ」

「弟子あいよ、褒めてはやれぬのか」


「できません」

「こんなに、大勢を死なせてしまって」


「この頑固者め」

「死なせたのはわしだ、そなたが来る前に燃やし尽くすように指示したのもわしだ」

「責任はわしにある、だから死んだのに生き返らせおって」

「もう一度死ぬ今度は生き返らせてくれるな」


イホウギは短刀を首に突き立てた、刃先が首の皮に触ったとき、あいが短刀を掴み止めた。


「何故、止める」


「師匠は恩人です、私はまだ師匠に恩返しが出来ていません」

「……いいえ、いいえ、そんなことは関係ありませんでした」

「ただ、ただ、死んでほしくありません、それだけです」


「北トラン兵を大勢殺したのはわしなのだぞ」


「せ、戦争では敵兵を殺すものです」


「そうだな、それが戦争じゃ」

「だが、そなたの配下は、一人も自らの手で人を殺しておらぬぞ」

「主が人を殺すのをよしとしないことを、おもんばかり、自らそうしなかったのだ」


あいは、自分の間違いに気が付いた。

敵も味方もなんでもかんでも、助けるやり方は、以前メイやガイにもやらないように言われていた。


「わたしが、間違っているのですね」


「そうじゃな」


あいはハイに近寄り地面に頭を擦りつけているハイをのぞき込んだ。


「あーーあーー」

「ハイさん死んでるーー」



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