魔女の契約 ※挿絵有
「ねーあいちゃん、私たち友達になれないかなー」
まなが真面目な顔をして、あいをみつめる。
まるで告白である。
「ごめんなさい」
あいが顔を伏せる。
だーーやってしまった。
さっきのお弁当のことといい。
私は、何をやっているのかしら。
焦りすぎた。
「私、あの私、」
「二人とも、もう友達と思っていた」
「あいー友達―、いい匂い好きー」
キキは、膝枕からうつ伏せになり、だきつく。そして、大きく息を吸い込みとろけそうな顔をしている。
「じゃあ、親友になって、ううん、大親友になって」
「うれしいでも、私、貧民だよ」
「私の大親友はあいちゃんがいいの」
「うん、私はまなちゃんの大親友になります。そして生涯まなちゃんを裏切りません」
ガシッ
二人は堅い握手をした。
「よろしく、あいちゃん」
「よろしく、まなちゃん」
うっ
あいが、突然苦しみだした。
「あいー」
「あいちゃん」
どうしようあいちゃんが死んじゃう。
昨日、アドちゃんは何って言っていたっけ。
昨日の晩、まなにイナ国への移動符を渡すとき、アドはまなにこの世界のことを簡単に教えていた。
この世界の階級のこと、特に貧民には関わらないこと、魔法のこと、そして、どうしても助けが必要なときのこと。
確か。
アドちゃんは北の魔女の眷属だから、北の魔女として呼び出せば、いざというときいつでも何処でも呼び出せる。
だったっけ。
「アドちゃん助けて」
・・・
だめだ呼び出せない。
昨日なんていっていたっけ、えーーと。
まな様は威厳がないから呼び出せないかもしれないニャ。だっけ。
くそう、威厳ってなによ。
「アドちゃん、じゃない、アド今すぐここに来なさい」
ゴオオ
音と共に空間に亀裂が入り、大きな魚が出て来た。
「わあ、ごめんなさい、ごめんなさい、調子に乗りました」
「なんか、変な魚が出て来たー」
「魚じゃないニャ、食事中のアドニャ」
「最後は骨まで食べるニャ」
魚はアドが抱きかかえている大きな昼食だった。よく見ると背中が一口分かじられている。
よかったニャ。
アドが召喚出来たという事は、まな様はやっぱり北の魔女様で間違いないニャ。
「見て!、あいちゃんが大変なの、死にそうなの」
まなが、あいの方を指さす。
その先で、あいが体を丸め小刻みに震えながら唸っている。
「・・・」
アドはあいの姿を見つめている。
「あれは、魔女の契約ニャ、魔女から契約に応じた魔力が分けられているニャ」
「少ない魔力なら痛みも出ないけど、膨大な魔力なら体が全部魔力に、変るから死ぬより痛いニャ」
「今は大量に魔力が入って苦しいけど、すぐに魔力が体を治すニャ」
「北の魔女と契約すれば、皆こうなるニャ」
「契約者が魔女を裏切ったり、魔女が死ねば契約者も死ぬニャ」
「でも、わたし、あいちゃんと契約なんてしてないよ」
するとアドは言う。
「魔女が契約内容を示し、契約者が絶対の忠誠を誓ったり、裏切らないことを誓い、魔女の体に触れたりしてないかニャ」
「あっ」
「思い当たることがあるのかニャ、なら以後気をつけた方がいいニャ」
「で、どんな契約ニャ、奴隷契約かニャ」
「大親友よ!」
少し切れ気味にまながいう。
「よりによって貧民と親友契約とはニャ」
「貧民じゃない、あいちゃんよ、私の大親友!」
アドは殺気のこもった目を向けられ、まなの中の北の魔女を感じた。
「はーはー、やっと落ち着いてきた」
あいが痛みから解放された。
「ほらニャ」
「あいちゃん復活」
まながうれしそうにいう。
「用が済んだなら、アドはもう帰るにゃ」
少し名残り惜しそうにしている。
まなは、あいのことに夢中で全く気が付かない。
「・・・」
ちらっ、アドはまなの方をみると、先程感じた北の魔女の気配に、かわいがられたくなって止まらなくなっている。
元々アドは北の魔女の飼い猫である。
ダーー
アドは駆け出していた。
「えっ」
駆けてくるアドを見て、まなは少し驚いている。
ドオーン
げふっ
アドは凄い勢いでまなの胸に飛び込んだ。
日本では一瞬だったが、こちらの世界では六ヶ月間、北の魔女は行方不明だった。
その六ヶ月分の思いをぶつけた。
ぎゅー
まなはそれに応えて抱きしめる。
「来てくれてありがとうね、アドちゃん」
満足したのか、まなを赤い顔で、照れながら押し戻し
「馴れ馴れしいニャ、アドは忙しいニャ、もう行くニャ」
アドは空間の裂け目に帰っていった。
アドちゃんかわいい。でも魚汁でベトベトで凄く生臭い。
「あいーー、人肉のあいー」
キキはあいに抱きついて泣いている。
キキちゃんかわいい。でも人肉はやめてほしいかな。