イホウギとの再会
南トランに移動が決まってから、後イ団はイナ国軍の駐留場所を訪れていた。
ササ領軍のまじない組に、日本刀アド正を渡すため。
「師匠」
ササ兵がメイを見つけて近寄る。
すでにまじない組は、メイにとって目に入れても痛くない存在になっている。
「みんな、これを」
「出現」
どさどさ
日本刀アド正が出現する。
「どうしてですか」
「極秘情報ですが、戦争が起こります」
「これで、身を守って下さい」
「あまり、人間は殺さないようにしてください」
「あと、貸し出すだけです、後で返してもらいますので大事に使って下さい」
メイは三振りだけ日本刀を残した、ガイとロイとサイのためである。
長い槍と剣は町中では持ち回れない、その時用である。
後イ団はイナ軍駐留地を後にすると、アド商会ヤパ王都支店を訪れた。
南トランへ行く移動符を買うためだ。
クロの移動魔法も行ったことが無い所へは移動できない。
「南トランまでの移動符を」
メイが店員に話しかける。
他国に移動符で行くためには戸籍があっては移動できない。
この世界では、戸籍がしっかり管理されている。
管理するのは、北の魔女の眷属ガドだ。
国王から奴隷まで、戸籍が無いのは貧民だけである。
戸籍のあるものは、戸籍のある国内の移動は自由だが、他国への移動は制限を受ける。
そのため、外国への移動符は使用できない。
外国へは許可証を取り、自分の足か馬車での移動になる。
登録者はガドの管理からグエンの管理へと移るため戸籍は消滅する。
移動は自由になるが、グエンからの管理を受けることになる。
登録者とは、まさにグエン商会への登録をした者ということになる。
店員は後イ団を見て、
「ご自身の魔封石を提示して下さい」
登録者の身分証明書は魔封石である。
全員自分の魔封石を提示する。
「はい、大丈夫ですね」
アド商会の店員は皆猫であり、魔封石の持ち主が合っているのか判別出来る。
「南トランのどの辺りへ行かれますか」
「北西です、オリ国との国境近く」
「ではロブの町ですね」
「はい、こちらになります」
「金貨七枚ですね」
南トラン国 ロブの町
城壁に囲まれた、オリ国との国境の町。
後イ団はしばらくこの町でゆっくりしていた。
情報が速かったため、南トラン軍も編成が終わっておらず、まだ戦争の影もなかった。
この町でハイの服を買い、あいは満足していた。
メイと雰囲気の近い服を買い、着てもらうと、美人に拍車がかかった。
ハイは、あいを主人として尊重し、扱いが丁寧で、貧民としてゴミの様に扱われていたあいにとって、とても大切な存在になっていた。
ハイにとってあいは雲の上の存在であるのに、大切に扱われ、日々忠誠心が増していた。
いまではあいとハイはいつもいっしょで恋人同士にも見えた。
レイが茶化す。
「あいちゃんと、ハイちゃん恋人同士みたい」
「なーー、なんてことを言うんですか、私にはこころに決めた人がいますから」
いつもあいはそう言って、怒ってみせる。
だが、ハイはなにかそれすらも嬉しそうで赤くなってうつむく。
それを見ると他の後イ団は、この魔人ありだな。そう思うのであった。
数日後、町の北に南トラン軍十二万が駐留していた。
総大将は、イホウギである。
オリ国の総大将がシュウ将軍であり戦力差も開いているということで、誰も貴族が引き受けなかったため、イホウギ将軍が総大将となっている。
「イホウギ様、貧民のあい様が来ておられます」
部下が報告してきた。
イホウギはこういう日が来ることを想定して、部下達に貧民のあいに失礼の無いよう対応するよう伝えていた。
「すぐにこちらへ連れてまいれ」
「はっ」
連れてこられたのは、まさしく貧民のあいだった。
「師匠」
「あい殿、もう再会出来るとはのう」
「はい」
「まさかオリ国軍として来たのではないでしょうなー」
「いいえ」
「お願いがあってきました」
「うむ、トラン国にとって益のある話ならば」
南トラン国と北トラン国は、元々一つのトラン国だった。
このトラン国が分裂し北トラン国、南トラン国に分かれた。
しかし、住民は、自分の住んでいる国がトラン国だと、主張しているため、南トラン国民は、自国を呼ぶときトラン国と呼び、北にあるトラン国を北トラン国とよぶ。
イホウギも自国を呼ぶときトラン国と呼ぶ。
「トランの兵が死なないためです」
「まさかあれをやるのか」
「はい、あれをやります」
「できれば一騎打ちをしてほしいのですが」
「わかったオリ国には使者をだそう」
「あと、後イ団を傭兵としてトラン軍に参加させてください」
「許可しよう」
師弟がにやりと悪い笑顔である。
オリ国の行軍速度は遅かった。
各将軍もわけがわからなかったからだ。
なぜこのタイミングで攻めなければならないのか。
まさか間違いでは、間違いであってほしいという思いであった。
対する南トラン国軍は急いでいた。
他国に被害が出る前にこの戦争の真相を探り、終わらせるために、はやく一騎打ちにもって行きたかった。
あい達はあの軍に所属していた。
南トラン軍魔道士隊、馬車からおろされてヒーヒーいって歩いている者がいた。
あの太った魔道士である。
馬車にはあいとハイ、メイ、レイと赤い口紅の魔道士で、あとの魔道士はガイ達と歩いている。
サイはもし自分が国王であればこんな経験出来なかった、そう考えると面白くてしょうが無かった。
南トラン魔道士隊といえばイナ国軍にとっては泣く子も黙る存在だ。
そこで、自由に振る舞う少女達、そして自分はその一味として行軍している。面白い。
赤い口紅が問いかける。
「皆さんはどうしてここへ」
「メイちゃん、馬車に乗りたかったのー」
メイは少女になりきっている。なりきらなくても見た目は正真正銘美少女なのだが。
「ほらデブー、さっさと歩けー」
「ぐぬぬー」
太い魔道士は頭から湯気が出ている。
だが前回の戦いで完敗しているので我慢している。
レイはもう肩がずっと震えまくっている。
「メイちゃんはかわいいわねー」
赤い口紅がメイにお世辞をいう。
「うん、ありがとう、おばちゃんすきー」
メイが抱きつく。
「おば、おばちゃん」
ぶーーー
今度は太い魔道士が吹き出していた。